聖女の伝説(13)



 青の半月の1日に、おれと姉ちゃんはケーニヒストルータを旅立った。


 見送りにはガイウスさん、ヴィクトリアさん、エイフォンくんが来てくれた。

 もちろんいろいろとオマケはくっついて来てる。セリアさんとか、ビュルテさんとかな。大そうなお見送りだ。

 ケーニヒストルータの西門が変な感じになってる気がする。


 ヴィクトリアさんは姉ちゃんの手を握って泣きながらまた会いたいですのって連発してるのになんでかこっちをちらちら見てるし、エイフォンくんはおれに感謝の言葉を述べながらなんでか姉ちゃんをちら見してやがる。

 こいつ、まさか……おれの暗殺対象になりたいヤツなのか?


 エイフォンくんとこの使用人で、解雇せざるを得なかった人たち……年齢詐称メイドとかだけど、ガイウスさんがハラグロ商会で引き取ってくれたらしい。

 頼んだのはおれだけどな。エイフォンくんの感謝の言葉はその部分だ。


 ガイウスさんは、もう、そりゃ、いろいろと世話になってる。

 資金提供してるから、なんていうか株主? をどうしても優遇するしかないんだろうけど。


「すみません、馬車の用意までしてもらって」

「これぐらい、お安い御用です」


 馬車はガイウスさんが用意してくれた。もう、本当に感謝だ。


 箱馬車1輌、幌馬車2輌だ。ちゃんと御者付きで。たぶん、けっこーな金額だと思うんだけど、お安い御用だなんてよく言うもんだ。やっぱガイウスさんすげぇ。


「オブライエン殿を紹介して頂いた御礼です。この程度のことで礼ができたとは思っておりませんが」

「……ああ。ケーニヒストルータに出店する、全ての商人の夢、でしたか。どうです?」

「……近いうちに、おもしろいお話をお聞かせできるかもしれません。楽しみにしていてください、オーナー」


 にやりとガイウスさんが笑う。


 あ、これ。

 悪いヤツだ。悪い顔してる、怖ぇよ、ガイウスさん。裏で何やってんの? マジで?


 なんか、あったっけな? ま、いいけど。


「ついて行く者はそのまま領地で出店させてやってください」

「ええ、それはいいんですけど、出店って本気だったんですね……」


 辺境の小さな村だというのに、いまや世界有数の大商会となったハラグロ商会が支店を出すなんて、世の中何かがおかしい気がする。


 ……おれの周りだけなのかもしれねぇけどな! しれないけども!






 領地へ向かう馬車にはいろいろな人が乗っている。

 箱馬車におれと姉ちゃんと護衛のユーレイナ、メイドの年配の人、あと、女教師。


 実は、姉ちゃんの勉強はまだ完ぺきではない。ぺきがひらがなであるような完ぺきだ。完璧とはいかなかった。でも、いい加減、領地にも行かないと、ケーニヒストルータに滞在して不在領主ってのも嫌な感じがしたので領地には早く行きたい。


 結局、解決策として、女教師を口説いた……ムフフ。

 いや、「ディー」にはムフフが止まらないんだよ、コレ。女教師を口説いたって……。

 しかも、金、で! グフフ……。ムフフではなくグフフだな、これは! この案件は! 金で口説くなんてグフフ案件でがすよ!


 いや、あくまでも先生として雇うという意味であって、いやらしい意味は一切ないんだけどな? ないんだけども! アインだけど!


 まあ、つまりは家庭教師だ。専属の。えっと、ガヴァネス、だったっけ?


 セラフィナ先生には姉ちゃんへの指導をしてもらうのはもちろんだけど、もっと幅広く、いろいろと教えてもらおうとは考えている。

 例えば、メイド見習いたちとかにもな。


 ちなみに、侯爵家と同額を出す、という条件で女教師セラフィナはすでにぐらぐらしていたけどな。

 姉ちゃんの指導が終わったら、新たな仕事場を探す必要があったらしい。

 しかも、ケーニヒストル侯爵家はかなりの好条件だったので、その代わりとなるとどこの仕事も見劣りする。


 でも、領地へ……というのがネックだったみたいで、なかなか悩みつつも、イエスともノーとも言わなかった。苦悩する女教師……イイよな、それも、グフフ……苦悩する女教師……最高だろ……。

 おれの姉スキー属性はある程度、年上にも発揮されてしまうらしい。


 侯爵家の2割増しで! と言ったら「領地にお供させてください」っと、コロっと堕ちた。一瞬だった、マジで。金銭であっさり口説けてしまうくらい、その待遇がいいらしい。

 ちなみにひと月で5000マッセが侯爵家の待遇だった。あ、寝泊まりする場所と食事とメイド付きだけどな。生活費が基本的にかからないから、5000マッセは全部使えるお金になる、と。


 というワケでうちでは6000マッセで女教師をお買い上げだ。金貨1枚の価値もないとか、どうなんだろうとは思うんだけど……アッチの方も、なんか金貨10枚の10万マッセとかで本当に口説けそうでちょっと怖い。

 いや、試さないよ? 試さないけどな? 試さないけども! 試したくなるじゃん! でも試さないよ?


 ……「ディー」の名を持つ清純可憐なおれにはとてもとてもとても無理だけどな!


 護衛はユーレイナさんだけ。

 もちろん、侯爵令嬢となった姉ちゃんの護衛騎士だ。


 ケーニヒストル侯爵家の騎士団には女性の騎士がそれほどいないらしく、自身が騎士団の騎士たちよりも強い姉ちゃんに護衛二人体制は取れないということらしい。

 まあ、姉ちゃんの護衛はおれが自ら意欲的に取り組むけどさ。

 そもそも姉ちゃんに護衛が必要なのか、疑問だ。護衛がいないのは、侯爵家的にはまずいらしいけどな。


 でもさ、ユーレイナさん、交代なしだけど大丈夫なのか?

 ビュルテさんによると姉ちゃんの護衛に志願したらしいんだけど……。


 ちなみにビュルテさんも志願したけど、ヴィクトリアさんの護衛から動かせないとのこと。なんか、騎士団の序列1位になったらしいし。あ、ユーレイナさんは序列2位な。


 まあ、ユーレイナさんが志願した理由は、修行、らしい。

 もちろん、そのことを知ってるのはビュルテさんだけだけどな。それが前面に出たら護衛に選ばれねぇだろ、さすがに。


 おれたちにくっついてると強くなれるに違いない、んだとさ。どんだけ脳筋なんだ、こいつら。


 そもそも護衛って何か、勘違いしてるよな? なあ、そうだよな? 護衛じゃなくて修行が目的って何だよ? 姉ちゃん守る気あんのか、こいつ……。


 メイドさん二人は交代で箱馬車と幌馬車に乗る。箱馬車の方が座り心地はいいけどおれと姉ちゃんに付くお仕事で、幌馬車の方が乗り心地は悪いけど休憩になる、らしい。不思議だ。


 この二人はメイドとしてのメイドリーダーとサブリーダーだ。30代だけど正確な年齢は不明な人がリーダー。レーゲンファイファー男爵家の家政婦になる。

 家政婦って、何かを盗み見る人みたいなイメージがあるけど……いやいや、そうじゃなくて、掃除とか洗濯とかする人みたいなイメージがあるけど、実は女性使用人の統括者のことなんだと。家政婦になるのがニームさん。

 あ、使用人は呼び捨てが正しいんだけどな。もう一人のメイドがメイド長になるアリスさん。ニームとアリスだ。


 どーんとでっかいメガトン級の女シェフとメイド見習いたちはみんな幌馬車だ。ちょっと狭いけど、メフィスタルニアを脱出した時と比べたらずいぶんと余裕があるはず。


 女シェフはゾーラさん。ゾーラだな。メフィスタルニアからの逃避行で屋外調理も上達したと胸を張ってたけど、胸も出てるけどおんなじだけおなかも出てた。


 メイド見習いたちは11歳から13歳の少女たち。11歳がリエルとウィル、12歳がレーナとゼナ、シトレ、エイカ、13歳がキハナとダフネ。戦闘メイド候補……あくまでもまだ候補。ほぼ当確だけどな。


 ゾーラによると、エイフォンくんのところで面接した時、メイド見習いばっかりたくさん雇い入れたもんだから、ショタのくせにロリコンなのか、と余計な疑いをかけられたらしい。

 それを主にはっきり伝えるシェフっていったい……いや、いいんだけどさ。


 残り幌馬車はハラグロの奴隷職員4人が大量の荷物と共に乗ってる。


 おれに対する態度が……あんまり言いたくないけど……神に対する信仰みたいな感じで嫌なんだよな。


 おれの領地の村を4人全員で転移地点にするつもりらしい。


 ハラグロ商会が一時的に動けなくなるような気もするんだけど、いいのか?


 いや、フツーの取引には問題ないんだろうけどな。


 そういうメンバーでの、領地への旅だった。





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