聖女の伝説(6)



 戦の女神イシュターの古代神殿での修練に未練を残す姉ちゃんを、これから何度でもリタウニングで戻れるからと説得して、風の神の古代神殿へ向かう。


 実は戦の女神の丘から北に見えている岩山のてっぺんに風の神の古代神殿はある。まあ、見えているとは言っても、見えているだけでそれなりに遠いんだけどな。


 あそこは、びゅうびゅうと強い風が吹く、吹きっ晒しの古代神殿だ。


 もちろん、ダンジョン付き。


 太陽神、月の女神、地の神、水の女神、風の神、火の神という六大神の古代神殿は全てダンジョン付きで、創造の女神アトレーの眷属神たちのダンジョンと同じく、石版に呪文が分割されている。


 創造の女神アトレーの眷属神のダンジョンは4層だけど、六大神のダンジョンは5層構造だ。設定されている魔法スキルの等級の差があるからな。


 生産系の魔法スキルは王級スキルまでの4段階だけど、大神の魔法スキルは神級スキルまでの5段階ある。だからダンジョンの階層がひとつ多い。


 メフィスタルニアでレベ上げした今のおれたちのレベルなら、問題なく4層まではクリアできると思うけどな。でも、それは苦労しないってことじゃねぇからな!


 特に、姉ちゃんを後衛として弓術中心でいきたい今は、それなりに苦労する。『聖女』を目指すには槍術よりも弓術の方が熟練度が高くないと可能性が下がりかねない。


 やっぱりペアプレーだとクールタイムスイッチの方が楽だからな。言ってみればこれは要するにダブル前衛のようなもんだ。後衛なし。守る気なし。攻めあるのみ。


 それをペアプレーで前衛と後衛にしようってんだから、クールタイムスイッチで難なく倒せる相手もある程度は手間取る。


 タンクが一人いるといいなぁ。


 レオンを呼ぶ? いや、そんなつもりは微塵もないからな? ミジンコ以下の小ささだな! 姉ちゃんと二人きりだぞ? ふ・た・り・だ・け!


 いや、もちろん、敵モンスターが複数の場合は、クールタイムスイッチも万能ではないけどな。あと、ノックバック耐性持ちモンスターな。テツコとか。マジ面倒なヤツらだ。


 まあ、今んところはおれのレベル50パワーでゴリ押しだよ、ゴリゴリに。このへんの相手でも姉ちゃんのレベルは少しずつでも上がるだろうしな。


 とりあえず姉ちゃんが遠距離から弓矢でタゲ取りして、モンスターの気がそれてる間におれが連続技でしとめる。もしくは魔法と物理を合わせてしとめる。戦の女神の丘で6本腕のブモンを倒したのと同じ方法だよな。


 大神の古代神殿のダンジョンは1層が適正レベルなんと1、2層が10、3層が25、4層が40、5層が55だ。上級スキルから上の石版はレベル的に手に入れるのも少しずつ難しくなってる。アトレーの眷属神のダンジョンは1層こそ適正レベル5と少し高いけど、2層で15、3層で25、4層で35だ。


 風の神の古代神殿の後で転移して古き神々の神殿に行き、今回で生産系は4つともクリアしとこうと思ってる。もうあそこじゃ、レベルアップ効率としてはイマイチだからな。


 あそこで姉ちゃんに教えるつもりの王級スキルは医薬神系と商業神系だけだから。


 農業神系は結局ひとつも教えてないんだけど、実は姉ちゃんが一番好きなのは農業神のダンジョンだったりする。食材と調味料で姉ちゃんニコニコだからな。


 おれ? ああ、おれはもちろん、金貨山盛りの鍛冶神ダンジョンが好きだよ、どーせ。ホネホネラバーだよ! だから『ディー』なんかな? 骨が相手じゃ『ディー』を捧げるなんてできねぇ!


 実際のところ、突入した風の神の古代神殿のダンジョンの3層からは、少し難しかった。


 原因はモンスターのすばやさだ。


 風系統のモンスターはとにかくすばやい。すばやさに特化している部分がある。


 うかつに姉ちゃんにタゲ取りさせると、おれが攻撃するよりも先に姉ちゃんが攻撃される場面もあった。

 まぁ、そのレベルの特化したすばやさを持つモンスターは、実は攻撃力は低かったりするので、最終的には問題にはならなかったけどな。


 3層まではクリアして、4層で姉ちゃんのレベル上げのために狩りを続けて、4層と5層はクリアはせずにダンジョンを出る。


 上級スキルまでは呪文の石版を入手したので、とりあえずはいい。

 そのうち、機会をつくって転移してくればいいんだからな。15歳で洗礼を受けるまではまだ間があるし。


 もちろん風の攻撃魔法もほしかったけど、一番の狙いは風の神系支援魔法上級スキル・トライアーギだ。

 『聖女』になる姉ちゃんには支援魔法がやっぱ必要だろ。呪文は『われ風の神に乞い願う、すべてを追い越す風の神の速さを、トライアーギ』だった。






 年越しはすっかり慣れた創造の女神アトレーの神殿へ転移してから。


 そして、おれと姉ちゃんはそれぞれ12歳と13歳になった。


 雪景色でちょっと寒いけど、まあ、宿泊所の中は十分寒さをしのげる。


 寝る時は姉ちゃんにぴとっとくっつけばあったかいしな!

 あ、でも、最近姉ちゃんちょっとおっぱいがおっぱい的になってきててちょっとドキドキすんだよ、マジで。いや、マジで。

 え? くっついてみたい? 姉ちゃんに手ぇ出したらぶっ殺すぞ! 三回殺してさらに焼き尽すからな! 姉ちゃんに近づく男は虐殺あるのみ!


 ダンジョンはボス周回をしつつ、4層を攻略していく。放置していた農業神ダンジョンのボスも狩って、創造の女神アトレーの古代神殿の完全攻略を目指す。


 鍛冶神ダンジョンでは武器や防具とお金、医薬神ダンジョンでは薬草、商業神ダンジョンではアイテム、農業神ダンジョンでは食材や調味料を大量にゲットしながら。もうマジで。


 商業神系特殊魔法上級スキル・ボックスマックスを熟練度3まで上げて、おれのアイテムストレージは限界突破したから999種類を999個ずつから、9999種類を9999個ずつまで収納できるようになってる。だから入るとは思うけどな。

 ちなみにボックスマックスの3段ボックスだけで10000個のアイテムが入るし、ボックスミッツで3000個入る。

 収納は余裕の最大値だ。姉ちゃんもボックスミッツとボックスマックスは限界まで入る。


 ……いやもう、どう考えても、ここ、最高の場所だよな?


 もしケーニヒストル侯爵との交渉がうまくいかなくて、どっか遠くに逃げて暮らすってなったら、絶対にここだろ。


 寝泊まりはできるし、食べ物は手に入るし。


 時々、リタウニングでどっかの町に出かけて姉ちゃんとデートすりゃいいし。


 二人っきりだし。


 ……まぁ、他に誰もいないってのは、いい部分もあるけど、さみしい部分もあるんだよな。


 二人っきりだけどな。


 そんなことを考えながら、4つのダンジョンはあっさりとクリア。


 レベルが上がってしまえば、本当に低いレベルの時に苦しんでいたところを簡単にクリアできてしまう。


 これで、生産系は全部の呪文を入手。


 姉ちゃんに医薬神系特殊魔法王級スキル・ジェイビーマントゥフォアパウアを覚えさせて、HP、MP、SPの3つを同時に回復させるエクスポーションを作成する。


 相変わらず、姉ちゃんに魔法を教えるのは大変だったけどな。


 それから、新しく覚えた商業神系特殊魔法王級スキル・リタウニングフルメンを使って、姉ちゃんと二人で、ソルレラ神聖国の手前にある、国境の町へと転移する。


 リタウニングフルメンはパーティーメンバーごと転移できる魔法スキルだ。

 もちろん一人だけでも転移は可能なので、クールタイム中でなければ、リタウニングと合わせて使ってその日のうちにどこかの町へ転移してその日のうちに戻ってくるということも可能になった。

 もちろん、これも姉ちゃんには叩き込む。絶対に、だ。


 国境の検問は特に問題なし。


 おじいちゃん執事がケーニヒストル侯爵家の通行証をくれたから、子ども二人のおれと姉ちゃんでも、そんなに不審に思われてない。


 いや、実は姉ちゃん、だいぶ背が伸びてきて、なんか大人と子どもの中間地点の危険な魅力を振りまく感じになってきたから、子どもっぽい大人に見えるってのもあるかもしれない。

 成長してんのはおっぱいだけじゃねぇんだよな。


 ヴィクトリアさんが「ねえさま」って呼ぶのがなんかぴったりな感じで。


 うーん、姉ちゃん、絶賛成長期だな。


 国境を抜けてソルレラ神聖国の町に入り、これで転移可能。


 もう国境とか関係なく検問突破だぜ。


 ……そう考えたら、リタウニングって、とんでもねぇ魔法スキルだよな。


 まあ、指定地点に転移して暗殺、みたいなことができるワケじゃねぇーから、まだマシかも。


 さて。姉ちゃんにリタウニングフルメンの呪文を叩き込む。


 風の神の古代神殿に二人で転移した時、姉ちゃんの顔には精気がなかったということは書き記しておく。


 疲れ切った顔をしている姉ちゃんだけど、それを慮っている時間はない。


 目指すは大陸の西の果て。


 断崖絶壁の上に位置し、その下は大海原。


 そこから見える雄大な夕陽はこの世界でも最高の絶景のひとつと言われていた。


 太陽神の古代神殿。


 もちろん、ダンジョン付き。とはいっても、今回はたどりつけばそれでいい。あとはリタウニングでケーニヒストルータに戻るだけ。


 ケーニヒストル侯爵との面会予定日が近いからな。


 ま、一度そこまで行ってしまえば、あとはリタウニングで選択するだけ。


 ダンジョンの踏破はまたの機会にすればいい。どうせおれのレベル上げのためには大神の古代神殿のダンジョンには行かなきゃダメだしな。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る