聖女の伝説(5)
ケーニヒストル侯爵が王都から領地へ戻るまでの間に、いろいろと旅して、リタウニングの転移先を増やす。
リタウニングは熟練度が上がったからクールタイムも短くなったし、いい感じだ。
転移先の町は緊急避難先にもなるので、これは大切なことだしな。
まずケーニヒストルータから南へ向かい、できるだけソルレラ神聖国の近くまで、できれば国境も越えて、どこかの町まで行ければいい。
残念ながら街道沿いの魔物はほぼ出てこない状態で、出てきたとしてもHP10クラスのツノうさ。
倒せば肉や毛皮が手に入ることもあるけど、基本的にはスルーして前進。
姉ちゃんが弓を使えるタイミングのヤツだけ、狩っていく。
今、おれの指示で姉ちゃんには槍を封印して弓に集中してもらっている。後衛として弓矢と回復魔法を中心に動いてもらうためだ。
たどりついた町では、とにかくハラグロ商会に無事を知らせる手紙を出す。
この世界、プレーヤー同士はタッパで連絡できるんだけど、リアルの今は連絡手段が厳しい。
いくつもの町で同じ手紙を出しても、届くとは限らないし、近い町よりも遠い町で出した手紙が先に届いたりとか、けっこーむちゃくちゃだ。
定期的に異動する乗り物があるのは大河があるケーニヒストルータの船便ぐらいだからしょーがないんだけどな。誰か郵便制度つくってくれねぇかな。
いくつかの町を踏破して、国境の町までは到達。ソルレラ神聖国への入国はまたの機会に。
クールタイムが終わったリタウニングで、大陸西部の町へと転移する。
ここは大河を渡る前に出た旅で最後にたどり着いたかなり大陸の西にある町。
あと少しで、戦の女神イシュターの古代神殿までは行ける。
さすがに古代神殿が近づくと、人が住む町や村はなくなり、魔物もHP20クラス、HP50クラスとランクが上がってくる。
ノンアクティブが減り、アクティブモンスターが増えるので、戦闘は発生する。もちろん、HP300とかHP500くらいまでは楽勝だ。
姉ちゃんは弓矢、おれはバランスよく、剣術と体術を使う。
戦の女神イシュターの古代神殿はパペット軍団……人形タイプモンスターが剣や槍、盾、弓矢を装備して出現する丘の上にある。そんで、着実に敵を排除しながら登っていく。
丘の上には、これまた古代ギリシァ建築っぽい神殿の遺跡が見えている。
「あれが、目的地?」
「ああ、戦の女神イシュターの古代神殿だ。別名『武道場』ともいう」
「ブドウジョー?」
「とにかく進もう。行けばわかるからな」
以前、古き神々の古代神殿を訪れた時の、『おかわりゴーレムロード』での苦労は何だったのかと思うほど、簡単におれと姉ちゃんは戦の女神の丘を攻略していく。
神殿入口のボスモンスターは、6本腕のパペット、ブモンパペットだ。
たぶん、「武門」って意味だと思う。
6本の腕で、剣、槍、弓矢、盾を持ち、残り1本の腕は素手。ちなみに頭はひとつで顔もひとつなので、阿修羅っぽくはないかも。
姉ちゃんに弓矢で牽制してタゲ取りしてもらって、姉ちゃんとブモンが遠距離で矢の応酬をしてる間におれが接近し、回り込んで背後からスラッシュ+トライデル+カッター+ランツェを組み合わせる連続技『サワタリ・クワドラプル』を仕掛けた時点で勝負は決まった。
ノックバック耐性がないブモン相手にクワドラプルは必殺技と言えるだろうな。
相変わらず1本100HP分のHPバーで視界が悪いけど、ガンガンHPを削っていけるのでそれほど問題はない。
バッケングラーディアスの剣のおかげで装備破壊の心配もない。楽勝だよな。
ドロップを回収して、古代神殿に入る。これで転移先に記録された。
ここも、古き神々の古代神殿とおんなじような形の神殿だ。中央に主神で周囲に眷属神な。
入口となる門柱の間を抜けると、中心に6角形の戦の女神イシュターの神殿があって、ええぇぃかぁぁっっぷ女神の神像があるし、簡易宿泊施設もある。
ちっぱい女神としてプレーヤーの信仰を集めていたこともあるが、そのへんの好みの問題はどうかそれぞれで勝手にしてもらいたい。
ちなみに眷属のうち、槍の女神ランゼはほどよいすぃ~カップ女神の神像で、弓の女神ポルテは主神イシュターと同族のえぃかっぷ女神の神像だ。たぶん弓の弦で痛い思いをしないように小さいんじゃねぇかな? 勝手な想像だけどな!
まあ、ちっぱいだろうが、デカパイだろうが、『ディー』の名を持つ永遠の少年としては、どっちでも好きだけどな! おっぱいには違いないんだからな! だよな? そうだろ?
戦の女神イシュターの神殿の6角形の各辺に正方形の神殿が付設してある。
入口からみて左から、剣神ピレルの神殿、槍の女神ランゼの神殿、弓の女神ポルテの神殿、盾神ガバイの神殿、拳神ロウトの神殿となっている。
そして、眷属神の神像の後ろには、やはり渦がある。
「……これ、古きかみがみのしんでんと同じだわ」
「まあ、入ると違うんだけどな。ああいうダンジョンじゃなくて、大きくて広い訓練場みたいなところに出る」
「くんれんじょう?」
「そう。ここは1人ずつしか入れない。でも死ぬことはない……はず。入れば、それぞれの神さまの分身が待ってる」
「かみさまの、ぶんしん?」
「神さまの分身が使ってくる御業を受けて、同じ御業でやり返す。そうすると、御業がすっげー使い慣れていくんだよ、ここで訓練すると」
ここは物理攻撃スキルの予備動作の修練場なんだよな、実は。そんで、ここで神さまの分身相手に同じ技で返していくと、そのスキルの熟練度がよく上がる。
意外と、予備動作をミスってスキルを発動させられないプレーヤーは多い。
プレーヤーマニュアルの説明だとあくまでも文章と簡単な絵だけしかないから理解しづらいところもあるしな。
それをここでは目の前でやってみせてくれて、同じことをやり返す。
同じことができていれば、次の技へと進むんだけど、できてなければ神さまの分身のなんだかよくわかんねぇ圧倒的な魔法で渦の外にはじき出される。
はじき出されたらそのスキルの予備動作は間違ってたってことになる。わかりやすいよな。
だから、ここは物理攻撃スキルの修練場みたいなものということになる。
「おれは剣神の神殿へ行くけど、姉ちゃんは弓の女神の神殿で頑張ってみて。慌てなくてもいいから、神さまの分身が使ってきたのと同じ技をやり返すだけだからな。別のことはやらないこと」
「わかったわ」
ちなみに、全てのスキルをコンプリートすると、レアアイテムとして剣、槍、盾、弓をもらえる。
おもしろいのが拳神ロウトのところで、拳で戦う体術系スキルに武器はないため、武器はもらえないけど筋力とすばやさのステ値が30ポイントアップする。これ、けっこーでかいよな?
一度、全てのスキルをコンプリートすると、次にコンプリートしても、もう何ももらえないので、初回クリア特典なのだろう。
スキルの熟練度が上がりやすいのはそのままなので、クリア特典がもらえなくても来る意味はあるけどな。
特に神級スキルなんて、弓術系スキル以外の物理攻撃スキルだとクールタイムの技後硬直が長すぎてめったに使わないから、熟練度を上げるならこの神殿での修練の方がいいし。
剣神の神殿で渦に飛び込むと、古代ローマの闘技場みたいなところに転移する。
転移したところから10mくらい前に、神殿の神像にそっくりなおっさんが剣をかまえて待っている。
雄叫びだか、ざわめきだか、とにかく騒がしい。観客席にめっちゃたくさんの人がいて、こっちを見て叫んでる。この観客は人間なのか、それとも神さまなのか、永遠の謎だろうな。
この相手が神さま本人なのか、分身なのかも意見が分かれるところだが、まあ、どっちでもいいんだけどな。
で、2、3歩、前に踏み出した神さまの分身が、開始線みたいなラインのところで止まる。
おれはタッパを操作してバッケングラーディアスの剣を装備すると、神さまの分身のおっさんと同じように開始線まで進んで止まった。
どこからともなく鐘の音がひとつ甲高く響いて、神さまの分身が動き出す。
おれも使い慣れた剣術系初級スキル・カッターの予備動作だ。予備動作をしながら、神さまの分身が接近してくる。
別にこれを受けてから、同じくカッターでやり返せばいいんだけど……。
おれはその場で待ち構えながら、カッターの予備動作を終える。バッケングラーディアスの剣が青白く輝き、おれの頭上にある。
神さまの分身おっさんとほぼ同じタイミングで、ほんの少し引きながら、カッターを発動させる。
青白く輝く2本の剣がガキンっと衝突して、おれと神さまの分身おっさんは技後硬直に入る。
こうやって、武器だけがぶつかり合うように調整して同時に技を放つと、ほんのちょっとだけだけどここですごす時間の短縮ができる。
技後硬直が解けると、次は剣術系中級スキル・スラッシュだ。神さまの分身おっさんの動きに合わせて、スラッシュを発動待機にし、タイミングを合わせて引きながら発動させる。
ガキンっ、ガキンっ、と2連撃が放たれ、剣と剣がぶつかり、火花が散る。
おれはそのまま連続技として剣術系上級スキル・トライデルの予備動作を行い、発動を待機して待つ。
神さまの分身は肩の高さで腕と剣を左へまっすぐに伸ばし……。
『ワイドカッター!』
技の名前を恥ずかしがらずに叫んだ。剣術系中級スキル・ワイドカッターの予備動作だ。
……しまった。発動させるスキルの順番が違った。
おれは1歩前に踏み込み、ワイドカッターを発動させる神さまの分身おっさんの動きと同時に、トライデルを発動させる。
範囲攻撃のワイドカッターに対して、3連撃の単体攻撃であるトライデルがぶつかる。
剣と剣がぶつかるが、ワイドカッターは剣そのものだけでなくそこから飛んでくる光によって斬撃を受ける。
まあ、そもそも、ここの神殿で求められているのは同じ技を返していくことなので、残念ながらおれはこの時点で失格だ。
『未熟者よ。修行を積んでから、またここへ来るがいい』
発生するはずの技後硬直もなく、神さまの分身おっさんからまばゆい光の渦が発生して、おれはその光にふっとばされてしまう。
そして、剣神ピレルの神殿の渦の近くに着地して、そのまま勢いでしりもちをついた。
「……ミスったぁ。初級、中級、上級の順かあ。忘れてたな」
……さて、どうしたもんか。
もう1回、挑んでもいいけど、姉ちゃんの様子も気になるところではあるよな。
でも、今のは毛荒れスミスさんだったよ。ケアレス・ミスだな。誤字じゃねぇ、ワザとだ。技だ。
ついつい連続技で技後硬直をちょろまかそうとしたら、中級スキルが残ってんのにうっかり忘れていたと、そういうことだろ。
……それはそれで情けないけどさ。
うーん。
まあ、どのみち剣術系神級スキルのラ・ピレルは、習得条件となるワイドスラッシュとトルネイドの熟練度が足りないから使えないんだよな。そうすると、今はまだクリアできないってことだし。
それとも、ここでワイドスラッシュとトルネイドの熟練度上げを頑張るか?
……フツーに戦うよりは確かにここでなら上がりやすいけど、モブ雑魚相手にワイドスラッシュやトルネイドで虐殺やったらそんなに変わらん気もするしな。
やっぱり姉ちゃんの様子を見に行って、そこで話し合ってから風の神の古代神殿をめざすか。
結局。
おれは姉ちゃんのところにすたすたと歩いて行くのだった。
まあ、姉ちゃんがもう1回! って何度も弓の女神の分身への挑戦を繰り返すもんだから、結局戦の女神イシュターの古代神殿で1泊したけどな! おれも剣の熟練度上げに励みましたよ!
姉ちゃん負けず嫌い過ぎっっ!
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