光魔法の伝説(29)
でっぷり子爵を捕縛した後、エイフォンくんから『不死のオーブ』を奪って回収、そして、つい……つい、なんだよ? たぶんできるだろって、ゲームでやったことあるしって、そんな軽い気持ちで、メフィスタルニアの解放を約束して……てんこもりだわ、これ。
そのせいなのかどうなのか、明るい表情を見せ始めたエイフォンくんたちメフィスタルニア勢も含めて、メフィスタルニアからの脱出を検討。
大きく、二つの選択肢が残った。
まずメフィスタルニア内のホネホネ軍団だけど、エイフォン勢調べによると、東西南北、各地にホネホネは出没していて、4つの門は全て占領されているらしい。ただし、南門はなぜか他の門と比べてホネホネたちの数がかなり少なかったという。
これはたぶん、おれと姉ちゃんが『聖者が護るカタコンベ』の中で動き出す前に潰した分のホネホネ軍団が、メフィスタルニアの南側に送り出される分だったんじゃねぇかな、と思う。というか、それ以外は考えられないよな。
戦力になるのはおれと姉ちゃんだけ。ヴィクトリアさんの護衛女騎士であるビュルテさんとユーレイナさんは、ホネホネ軍団のうち、スケルトンコマンダー……スケコマだけなら、しかも2対1で戦うなら、倒せる。
だから戦力とは呼べない、残念だけど。エイフォン勢の騎士たちも、戦う姿を見たことはないけど、たぶん期待できない。ここにいる3人以外は全滅したらしいしな。
だから、戦闘は可能な限り避けたい。
しかし、保護が必要な人が、実はとっても多くて困っている。
エイフォンくんが暮らしていた伯爵家の本邸には、生き残った使用人、そのほとんどが女性なんだけど、22名という数。
これで男性使用人のほとんどは死んだというのだから、大貴族って何考えてんだろうな? どんだけ使用人が必要なんだよ?
いや、それが大貴族の使命なのか? これも雇用の創出とは言えなくもないな?
まあとにかく、『ディー』の名を持つおれはエイフォンくんがどんなことをヤらせてたのかは知んねぇけど、めっちゃメイドさんの生き残りがいてさ、それを見捨てて逃げるってのも、な……。
脱出方法その1は、馬車で中央突破。メフィスタルニア家の4輛に分乗して、特に幌馬車には使用人の女性たちを詰め詰めに突っ込んで……ムフフ……その馬車で南門へ向かって中央突破する、という第1案。
脱出方法その2は、おれたちがここに来た時みたいに、大通りを避けて小路をジグザグに移動して南門を目指して脱出するという第2案。
エイフォン勢は第2案を推した。
できるだけホネホネと出会わないようにして、確実に脱出したいらしい。っていうか、こいつら、まだ自分たちの実力を勘違いしてやがる。護衛は任せて下さい、なんて言ってるからな。
同じ騎士であるビュルテさんとユーレイナさんは何も言わないけど、しらーっとしたなんていうか馬鹿にした目というか、見下した目というか、軽蔑した目というか、そんな感じで男性騎士たちを見てた。
死ねばいい、とかユーレイナさんが言い出さなくてよかったよな。
オブライエンさんは第1案を推した。
とにかく速さが勝負だそうだ。門を出てからも、走ったり歩いたりするのではヴィクトリアさんはもたないというのもある。確かに、馬車は必要になるだろう。
正直なところ、どっちも厳しい。
第1案はねぇ……。いや、もう、そりゃ、ね。北門方面へ出て、外周道路を使って西門か東門のどっちかを経由して南門へってことなら、北門のホネホネと、西門か東門のホネホネと戦ってからの、南門のホネホネだろ? 南門のホネホネが少ないからそこから脱出って、意味がもうないよな?
だからルートは中央突破。で、中央には中央公園があって、そこにはヤツがいるワケだ。
ヤツと戦うんじゃなくて、ひたすら逃げるし、人間が走るよりも馬車の方が速いしな。なんとかなる可能性はあるんだけど、ヤツを見てそこに突っ込む? 正気じゃねぇだろ……。
第2案は、戦力の問題。隊列が長くなるのはどうしようもないから、先頭と最後尾におれと姉ちゃんが分かれることになる。
さすがにおれと姉ちゃんでも、ひとつの軍団50をひとりで相手にするのは無理だからな? 1対7とかもかなり厳しい。なんとかなるっちゃなるけど。
それに、どこか十字路っぽいところでおれと姉ちゃんがいない中央を狙われたら? 肝心のヴィクトリアさんとエイフォンくんを危険にさらすことになるだろ?
あと、エイフォン勢の男性騎士が勘違いしてんのも不安要素。怪我してた人はけっこーわかってると思うんだけど、護衛を務めて出陣してない二人は最悪。話にならねぇからな。
どっちにせよ、犠牲者は覚悟しないとダメだろ。
姉ちゃんがおれを見て。
それに気づいたヴィクトリアさんがおれを見て。
おじいちゃん執事がおれを見た。
「……アインさま、どちらがよろしいですかな?」
おれに決定権があんのかよっ!?
いやいやいやいや、ちょっと待てぃ! いや、確かに、決めていいなら、決めたいんだけど! どっちもどこかに無理があんだろ?
第1案はアレだぞ? あのどでかいヤツだよ? ヤツの足元を抜ける馬車によるカーチェイス? みたいな? そんなことできんのかよ?
第2案はだな、大問題は姉ちゃんと離れ離れな感じだよな? ある程度離れるのは仕方ないとしてもさ、先頭と最後尾で間に約30人とか、中学生とか高校生とかん時の修学旅行でずらーっと並んで歩いたみたいな感じだろ? 離れ過ぎだって。
そんなところへ、走り込んできたのは、玄関を守っていた衛兵さんだった。
「報告します! これまで見かけなかったガイコツの死霊が、屋敷周辺の大通りに姿を見せ始めております!」
あれか?
でっぷり子爵を捕縛して無力化したから、でっぷり子爵を中心に守られてたフィールドみたいなのが消えてしまったみたいな感じか?
だとすると、ここも危ない。
もう時間がないよな。
足手まといがたくさんいる状態で、こいつらを狩り尽せるはずはない。
どうせ脱出は1発勝負。
必要なのは度胸のみ。
「第1案でいきます! 馬車の準備を! 急いで!」
……ていうか、なんでおれが仕切ってんのさ!? みんなそういうところにちゃんと疑問を持とうな?
おれと姉ちゃんで門の外、大通りに近づいてきたホネホネを5体狩ったところで、馬車の準備ができたらしい。
箱馬車が2輌と幌馬車が2輌。
幌馬車にはメイドさんが目一杯押し込められてドナドナされる。
箱馬車その1には、ヴィクトリアさんとエイフォンくんにヴィクトリアさん付きのメイドさんと女護衛騎士二人。
御者はおじいちゃん執事だ。執事なんでもできるな、すげぇ。
エイフォンくんの護衛騎士が難色を示したけど、エイフォンくんが口出しをやめさせていた。
箱馬車その2に、ぐるぐるに縛られたでっぷり子爵と、エイフォンくんの護衛騎士その1と門を見張ってた衛兵さん、たぶん格上のメイド2人。
御者は怪我してて姉ちゃんから回復魔法をかけてもらった騎士さん。護送車両? みたいな扱いだな。
幌馬車その1の御者はずどーんって感じのおばちゃん。大きい。御者なんかできんのかよって思ったけどできるらしい。実はシェフだそうな。多芸なおばちゃんだな。後ろには文官っぽいひょろっとした男性1人とあとは大量のメイドさま。なぜか文官ハーレム状態。
幌馬車その2の御者はエイフォンくんの護衛その2が務める。後ろはひたすらメイドさま。とにかく詰め込まれたメイドさま。メイド祭りだ!
もはやメイドは荷物のような扱いだ。人権問題とか言わないでほしい。助けるためだからな!
あと、気づきだけど、メイドさんって年齢層が幅広いんだよな。
おれたちぐらいのメイドさんは見習いらしくて、おじいちゃん執事とそんなに違わないんじゃねぇかなっておばあちゃんメイドもいたし。ここの伯爵の趣味ってどうなってんだ?
それともメイドは全て愛人であるってのはおれの『ディー』な部分の勝手な思い込みなのかな? ま、どうでもいいんだけど。
ヴィクトリアさんが乗った箱馬車その1の御者台の左端に立って、姉ちゃんが左手で手すりみたいなのを掴んでる。姉ちゃんはおれと同じで外組。戦闘能力で決めてある。
エイフォンくんたちの護衛騎士がごちゃごちゃ言うから、でっぷり子爵の監視とか、御者とか、役割の必要性や重要性を早口でまくしたてて押しきったんだけどな。
おれは箱馬車その2の御者台の右端に立って、右手で手すりみたいなのを掴んでる。
中央突破の問題はひとつだけ。
レイドボス、ジャイアントスケルトンツヴァイシュベールト634号が、中央広場のど真ん中、倒れた時計塔のところに待ち構えていること。
突破するための解決策はひとつだけ。
タゲ取り、だ。
「では、アインさま、お先に行かせてもらいます」
おじいちゃん執事がそう言って、馬車を動かし始める。
「アイン、たのんだわよ」
「わかってる、姉ちゃんも気をつけて」
姉ちゃんと離れ離れになるのは短い間だけ、のはずだ。
おれは自分のやるべきことをやるだけだ。
箱馬車その1に続いて、右側通行で幌馬車その1、その2が発進する。
「じゃあ、行きましょう」
「わかりました」
おれが声をかけると、騎士さんが箱馬車その2を動かし始めた。
おれたちの箱馬車その2だけ、左側通行だ。
この町では……ひょっとするとこの世界では、だけど……馬車は右側通行をしている。追い越しは左から行うらしい。追い越しなんてめったにないそうなんだけどな。
そんで、中央広場へ入る時は必ず右折して、円形の広場の外周を走る。そんで、進みたい別の通りにつながるところでまた右折する。
門につながる東西南北の大通りや、それに次ぐ北東北西、南東南西へと外周道路までつながる通り、その他の馬車1輌がぎりぎりの一方通行の通りもあったりする。もちろん馬車が通れないような狭い小路もあるけどな。
今はその中央広場にでっけーヤツが陣取ってる。
そこに突入すれば、もちろん、狙われることになる。
加速した馬車のスピードは、どうだろう? 前世の車のようなイメージではない。
でも、マラソン選手よりは速いかな? んー、わっかんねぇな? 100m走ならスタートダッシュで勝てそうだけど、400mなら無理だろ、たぶん。トップ選手ならともかく。
まあ、人間がフツーに行動するよりは絶対に速い。でも、動きはきわめて制限を受けるってところか。
先に進んだおじいちゃん執事が御者を務める箱馬車が中央広場に突入して、右折する。広場の外周、できるだけぎりぎりを走るように頼んである。
続けて、幌馬車2輌もそれを追って中央広場へ。
そして、ヤツが動き出す。
巨大な頭蓋骨の、大きなくぼみに、血のように赤い光を浮かべて。
狙われたのは最初に入った馬車。おじいちゃん執事の馬車。つまり姉ちゃんがいる馬車。
ずしんっ、ずしんっ、と馬車に向けて足を動かす巨大な化物。
最初に狙って動き出した位置よりも馬車が進むので、まるでバナナのように緩やかなカーブを描いて骨の巨人が馬車へと迫る。
そこで、左側通行をして交通違反をしていたおれの乗る箱馬車が中央広場に突入した。
『リソトガンダル』
おれがタゲ取り使ったのは水の女神系範囲型攻撃魔法上級スキル。
敵はでかくても単体。
でも、ここでは範囲型だ。
この広い中央広場で、ヤツに攻撃魔法スキルをぶちかまそうとしたら、立ち位置から20mまでの指定地点から半径10m円状に効果を及ぼすことができる、つまり最大で30mの距離までダメージを与えられる、範囲型攻撃魔法上級スキル一択だ。
大きな水の塊が破裂して弾け飛び、ジャイアントスケルトンツヴァイシュベールト634号が足を止めた。
そして、中央広場に入ってきたばかりの箱馬車をその血の色に輝く眼のあったくぼみで捉える。
これで、とりあえず姉ちゃんたちの右側通行の馬車3輌からは意識がそれるはず。
おれの乗った箱馬車パート2は、左折して中央広場の外周を走る。通常なら交通違反だが、そんなことを言っている場合ではないので問題なしのもーまんたいだ。
おれは魔法1発でヤツを姉ちゃんの馬車から引きはがすことに成功した。
ヤツはずしんっ、ずしんっとこっちへ走ってくる。
やっぱり移動コースはバナナのような緩やかなカーブを描く。
姉ちゃんの乗ったおじいちゃん執事の箱馬車は、西門への大通りの前を抜けて、南門への大通りまであと半分だ! 幌馬車2輌もそれに続く。
こいつとの接触時間は短い予定だ。中央広場に集まってくる町中のホネホネがまだ中央広場にたどり着かないうちに広場を出て、こいつを振り切りたい。
おれの乗った馬車があと二馬身、馬2頭分で東門への大通りへと曲がる位置に入るというところで、レイドボスの巨体が迫ってきた。
……ここまでか!
「あとは、頼みます」
「はい! ご武運を!」
御者をしてくれている騎士さんが叫ぶ。
……運かぁ。運ねぇ。運は大事だけど、運に頼っちゃダメなんだよな。
おれは箱馬車から飛び降りて、着地と同時に前まわり受け身をとって立ち上がる。石畳なのでなんとなく痛い気がする。タッパを見たら、HPが5削れてた。ダメージ入ってるし。
馬車を狙って動いているように見えるレイドボス、ジャイアントスケルトンツヴァイシュベールト634号だけど、馬車を狙っているワケじゃない。
タゲ取りした奴を狙ってるんだ。
つまり、狙いはおれ。
おれが飛び降りれば、馬車だけは先に進める。
そうして、足を踏み出した巨大なガイコツが、それぞれの手に握った、これまた巨大な2本の大剣を大きく振り上げる。
……これはそのまま時間差での振り下ろしだろ! 前! 足元へ入る!
おれは内心ではビビりながら、前方へ駆ける。
……そのまま蹴りがくる? なら、逃げ出すためにもいったん左足の前の方に!
ズッガーンっ! ドッガーンっ!
わずかな時間差で右の大剣が、続いて左の大剣が、中央広場の石畳へと振り下ろされた。
……タンクの人たちって、これを受け止めさせられてたのかよぉぉぉぉっ。
いや、足元にまで入り込んでたおれには当たらないけどな。攻撃は捨てて逃げるだけ。ひたすら逃げるだけ。当たらなければどうにかなるっと、そんで……次は、っと。
ガイコツのでっけー左足が引かれて、蹴りがくる。
でも、その時には、ガイコツの軸足となっている右足の前をダッシュで走り抜けて、抜け出した馬車と同じ方向へ駆ける。が、すぐに身体の向きを変えて、このデカブツの動きを見ながらバックステップを踏む。
視界の端で、細道から飛び出したスケコマをおじいちゃん執事の馬車がはね飛ばしたのが見えた。姉ちゃんの口が動いて何か言ってたのは、はっきり見えた。姉ちゃんだけは見ようとして見たからな。
おいおい、他のホネホネが来るのが早いなっ?
すぐに起き上ったスケコマがさらに後続の幌馬車にはね飛ばされる。
……知能、低っ! やっぱホネだな! おっと、集中、集中……。
デカブツが2本の大剣を両脇に大きく腕ごと開いた。大剣が赤黒く光り輝く。
……こんな早くからスキル攻撃かよっ? どっちが先だ? 左かっ!
ふと、MMOイベントで『すまねぇ~、あとは頼むは~』とゆるゆるな感じで言いながらスキル攻撃を受け止めて死んだタンクの聖騎士さんを思い出した……って、走馬灯か? ダメダメダメ!
おれは左の大剣から逃げるように左へと走り、タイミングをはかってヘッドスライディングをして石畳にびたんっと伏せる。
デカブツの左の大剣がおれの首の高さの位置を、右の大剣が胸の高さの位置を横へと薙いでいく。
……風圧もハンパねぇーーーーっっ!
だけど運がいい。今は、逃げたい方へ、逃げたい方へかわせてる。運に頼っちゃダメだけどな!
そのまま踏み潰しにきたので、ごろごろと転がって避けて、すぐに立ち上がる。
姉ちゃんの馬車は南門へとつながる大通りへと右折し始めていた。
……急がないと。こっちを目指してるホネホネとの接触は予想よりも早いはず。姉ちゃんたちもこの先でホネホネとの戦闘が始まる。
デカブツがアゴをがつがつ動かしてる。笑ってるんだろうか? 町中のホネホネに呼びかけてるとか言ってたレイドリーダーもいたよな?
ええと、次はさっき振り切った大剣を、左から戻す右の大剣が先で、右から戻す左の大剣が後か!
間合いを感覚的に掴んで、巨大な大剣の長さと巨大な腕の長さを見切る。
3歩ほどバックステップで助走して、そのまま身体の向きを変え、全力でデカブツから離れるように走り、ヘッドスライディング。
背中に2回、ものすごい風圧を感じてから、立ち上がって馬車と同じ方向へ少し走る。
メイドばっかりを乗せた2輌目のメイド幌馬車も南門への大通りへと右折し、おれが乗っていた馬車の馬の鼻先が南門への大通りにかかろうとしていた。
……あそこまで行けたんなら! あとはおれが逃げ切るだけだろ!
もう、おれが逃げても、デカブツがタゲ変して馬車に追いつけるタイミングではない。おれは、逃走予定として考えていた中央広場につながる細道に目をやる。
……って、ウッソだろぉぉーーーっっ!
その細道の中に、広場へ向かってくるホネホネたちの姿が見えた。
正面ではデカブツが左の大剣を左の横へ伸ばし、右の大剣を高く大きく上へ伸ばす、十字剣のかまえに入っている。
……右が上は、タテヨコヨコっ!
一度止まって、右の大剣の狙いをつけさせてから、振り下ろし始めたタイミングで左斜め後ろへ全力で逃げる。
ガッキーンっ! ブウゥーーーンっ! ブウーンッッ!
右の大剣が振り下ろされて石畳と衝突し、左の大剣が横薙ぎに右、左、と往復する。
……同時にホネホネ! こいつらにはさまれるとマズいっっ! 構成は? ナイトとスケコマ3? 間に合えよっっ! まだ細道から出てくんじゃねぇぇぇっっ!
細道と中央広場、ギリギリの境目で、おれはホネホネ4体をまっすぐ捉える位置に立つ。
『ソルミ』
物理攻撃スキルでの技後硬直イコールデカブツによる斬殺死だ。いや、粉々にされるか? どっちでもおんなじだけどな! だからここでの選択は魔法スキルしかない。2本の指から伸びてうねる光が、4体のホネホネたちを貫き、後方のスケコマ3体を消し去る。
残された1体のナイトスケルトンだけが中央広場へと飛び出した。
『ソルハ』
範囲型だけど、別に1体が相手でももったいなくはない。ダメージがHP0に届けばそれでいい。
ナイトが消えて、その辺に落ちた金貨や銀貨をさっとストレージに回収し、おれはくるりとデカブツを振り返る。
デカブツ……レイドボス、ジャイアントスケルトンツヴァイシュベールト634号は2本の大剣を高々と天に刺すように振り上げ、天を見上げていた。
範囲攻撃を行う大技の予備動作だが、それもここまでだ。もう細道はおれのすぐに後ろにある。大丈夫、大技を喰らう前に、余裕で逃げられる。
「残念でした。おにごっこはおれの勝ち……まあ、他では完敗だけどな。いつか、また。今度は必ずしとめてやるよ……『ソルマ』」
逃げてばっかりでちょっと悔しかったので、イタチの最後っ屁とばかりに、太陽神系貫通型攻撃魔法初級スキル・ソルマを放ってから、おれはバックステップで細道へと飛び込んだ。
大剣ごと両腕を振り上げ、頭も上を向いていたジャイアントスケルトンツヴァイシュベールト634号の喉をソルマのひとすじの光が貫く。
おれは細道からの回り道で急いで南門へ向かう大通りで戦いながら待っているはずの姉ちゃんたちに追いつこうとして、身体の向きを変え……る、直前、に……。
視界の全てが真っ白に染まるような、眩しい光があふれて……。
天に昇るような太い光の柱が打ち上げられ……。
光が力を失った後、ジャイアントスケルトンツヴァイシュベールト634号の姿はなく、そこには大きな宝箱がひとつ、ぽつんと石畳の上に鎮座していた。
「………………って、えっ? 今の、レイドボス消滅エフェク、ト、だよ、な? あれ? なんで? 何があった?」
何があった、と自分で口にして気づく。
おれが使ったのは太陽神系貫通型魔法スキル。
勇者の伝家の宝刀の魔法スキル。
おれが7歳で初めてフォルテボア・なんてら・かんたらをしとめた、はじまりのスキル。
即死効果がある……って! レイドボスに即死効果が効くんかいっっっ!
おれは目の前の現実を見つめる。
目の前には大きなレイドボスドロップの宝箱。
めっちゃ大きな宝箱。
……って、やっぱり倒せてんじゃん! マジかよーーーーーーーっっっっ!!!
その後、とりあえず宝箱を開いてろくに内容を確認もせずストレージに中身を回収したおれは、馬車が通ったルートを最短距離で追いかけて、すでにホネホネ軍団との戦闘に突入していた姉ちゃんたちに追いつき、太陽神系魔法をバンバン使ってホネホネ軍団を片づけて、南門からとっととメフィスタルニアを脱出した。
ちなみに、おれが追いつくまでに、護衛していて戦ってもないのにホネホネ軍団をなめてたエイフォンくんの護衛の片割れがやられて死んでいた。ごめん、まだ名前も知らんけど。
幌馬車の中のメイドさんたちの悲鳴はすごいことになっていたらしい。
一番弱い衛兵さんは、姉ちゃんが回復魔法をかけてあげた騎士さんが守りを固めながら指示を出していたので死なずに済んだようだ。
南門を出る時に、姉ちゃんが小声で「たおした?」と聞いてきたけど、おれは「まさか」と返した。
後ろを見た姉ちゃんが「でも、あの大きいの、見えなくなったわ?」と追及してきたので、「はしっこまで誘導したからな」と返すと、それ以上は姉ちゃんも何も言わなかった。
本当のことは一生言えないかもしれない。まあ、姉ちゃんだけならいつか言ってもいいけどな。今言ったら、そのままメフィスタルニアの解放を! とか言われそうだし、絶対に言わねぇけど。
ちなみにレベルは50になっていた。なんと、一気に10も上がっていた。レイドボス撃破とはいえ一気に10はねぇだろ、さすがに。
エイフォンくんが「……その者、気高く美しき聖女をともない、神聖なる光をもってメフィスタルニアを魔の呪いから解き放つであろう……」とつぶやいていたのが聞こえて、そういや、なんかヴィクトリアさんもおんなじようなこと言ってたよな、と思い出した時点で、それがMMOイベント『死霊都市の解放』のオープニングでのイケボのアナウンスのセリフだと気づいた。
何ですか、それ? と聞いてみると、メフィスタルニア伯爵家に伝わる、聖者イオスラムの予言の一節だという。それは知らなかった。なんかオープニングっぽいただのはじまりの言葉かなんかだと思ってたからな。
ゲームとのつながりが聖者の予言だとか、いったいどうなってんだろうか? それとも、ゲームでもそういう設定だったのか……。
まあ、とにかく。
女だらけの……いや、メイドさんだらけの、ケーニヒストルータを目指す馬車旅は、続く。
メイドさんたち、野営はあんまり得意じゃないみたいだけどな。
あの豪快な女シェフのおばちゃんとは仲良くなった。
肉で。
ストレージに肉が余ってるからな。この旅の食事代は基本的におれたちから出てるよな。
そりゃ、シェフとしてはおれたちと仲良くするしかねぇだろ?
達成感は、あるような、ないような。
おじいちゃん執事、オブライエンさんからは、丁重なお礼の言葉を頂いた。課されたミッションはどうやらある程度クリアできたらしい。
おれが個人的に目標としていた、ゲームの歴史の改変ってのは、できたと思う。
ヴィクトリアさんは生きてるし、エイフォンくんも、生きてる。リッチーになってないからな! ついでにでっぷり子爵も生きてる。
でも、それを通じて、この先、姉ちゃんを守るって目的を達成するのは、世界最大の経済都市ケーニヒストルータにたどりついてからだ。
そこからが本当の勝負になるんだろうな、と思ってる。
今回のメフィスタルニアの1件で、これまで以上に、強く感じたこと。
それは一言であらわせば……。
ソルマ、最強………………。
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