光魔法の伝説(27)



 途中、1体のスケコマを見つけたら、女騎士コンビに任せて、もしもに備えて見守る。複数のスケコマなら、1体だけと戦える状態にして任せる。でももしもに備えて見守る。


 姉ちゃんの回復魔法の出番や、おれが緊急で攻撃に入ったこともあったけど、合計5体のスケコマを女騎士コンビは狩った。たぶん、レベルは二桁になったと思う。


 クールタイムスイッチの考え方は理解したようだし、予備動作を終えてスキルの発動を待機させることもできるようになってきた。なんでこんな基本を……。


 いや、このレベルのことが今までできてなかったって、マジで騎士と名乗る連中が弱すぎなんですけど?

 このままじゃ魔王が魔族を使って侵攻してきたらやられっぱなしだろ? 確か、一番若い裏切者の護衛でも、魔族は上級スキルのランツェを使えたよな?


 女騎士二人は成長しているとはいえ、HP1000クラスのナイトスケルトンに挑戦させる気はない。そうさせるとなると、スタポが必要になりそうだ。

 ライポでさえ貴重な今、上級スキルが使えてスタポが作れるスキル持ちなんて存在するとは思えない。


 ナイトスケルトンに挑戦したいと言い出したら、ヴィクトリアさんの守りを優先しましょうとか言って、諦めさせよう。


 そんなことを考えていたのだが、途中からぱったりホネホネたちにはエンカウントしなくなった。


 タッパもアラホワだ。表示色が白いということは近くにモンスターがいない。ただし隠密系はダメだけどな。


 政庁でもあるメフィスタルニア伯爵家の本邸に近づいていくとホネホネに出会わなくなるって、どう考えても逆のような気がするんだよな。


 ぐるっと回り込んで、路地をいくつも抜けて、メフィスタルニアを南北に貫く大通りに出る手前で止まる。


 メフィスタルニアの大通りは、馬車が4~5台並んでも余裕で通行できるくらいには太い。

 実際のところ両端は歩行者用になるので、前世で言えば片側2車線の4車線道路か? こっちの馬車って、右側通行なんだよな。なんでだろ?


 覗き込むように左を見たら、北門方面。北門には西門で見たパニックはなく、静かなものだ。でもそれは平和だからではない。


 逃げ出そうと殺到した住民の虐殺が終了して、ホネホネがうろうろしているのが見える。だから、とても静かなのだ。


 そして、できれば右は見たくない。


 右を見たら中央広場方面だ。許されるのなら、絶対に見たくない。


「アインさま? どうかしましたか?」


 おれの後ろにいる女騎士ビュルテさんが心配そうな声を出した。「伯爵家の本邸は右ですが? まさか、ガイコツの魔物が?」


 ……道がわかんねぇーってワケでもないし、近くにモンスターがいるワケでもない。まあ、伯爵家の本邸があるから、どうしても、右側を見ないということにはならないよな。


「魔物はいないですね。不思議なくらいに」

「それならば、先へ進みましょう」


 そう言ったビュルテさんがおれの後ろからひょいっと顔を出した。


「………………なんですか、あれは?」

「見ましたね……」

「どうかしたのか? 魔物はいないんだろう?」


 後ろから2番目の位置にいる、もう一人の女騎士ユーレイナさんが尋ねてくる。


 ……ええ。この近くに魔物はいませんとも。


「……ユーレイナ。信じられないものがいます」

「ビュルテ?」

「この距離で……あの高さ? いったいどれほどの……?」

「どうした? 何がいた?」

「……立ち位置を交代しましょう。説明できません。自分の目で見てください」


 そう言って、ビュルテさんが後ろに下がり、ユーレイナさんが出てくる。


「………………なんだあのでかいガイコツは?」


 ……それ、レイドボスです。


 そこから、みんなで交代して、中央広場方面を確認していく。


「これだけ離れた位置からはっきりと見えるとは。どれほど巨大な魔物なのか……」


 おじいちゃん執事がつぶやいた。


「周辺の建物よりも頭の位置が高いです」

「ああ、まさしく化物だ」


 女騎士ふたりもつぶやいた。

 ヴィクトリアさんとメイドさんは静かにしている。


「アイン、あれをたおすのね?」

「……いやいやいや、さすがに無理だから、それは無理だって、姉ちゃん」

「ムリなの?」

「おれや姉ちゃんくらいの力がある人がいたとして、そういう人を1000人集めて戦うぐらいの相手だな、あれは」


 MMOイベント『死霊都市の解放』における最後の戦いとなる、レイドボス。


 ジャイアントスケルトンツヴァイシュベールト634号。とんでもないサイズの大剣を2本振るう二刀流の巨大なスケルトンだ。


 掲示板やアクセスしていた友人間で、『音楽家か!? バッファーソング? ボスなのに?』『バカ、よく見ろ!』という会話がたくさん交わされたらしい。

 シューベルトではなく、シュベールトだからな!

 ちなみに何回目のイベントでも634号なのも変わらない。『あれか、スカイツリーくらいでっかいってことか』『ちげーよ、二刀流だろ?』みたいな会話もあったとかなかったとか。


 イベント最終日の前日が決戦の日だ。ちなみにイベント最終日はエンディングだからな。

 前日に倒せなかったら、メフィスタルニアの城壁を背景に、ボロボロになった戦士たちが逃げていく悲しい1枚絵だけがネット上に放置される。

 倒せたら?

 これが不思議なことに、1日だけ、メフィスタルニアの町が復活してのお祭り騒ぎだ。ここでしか購入できないイベントアイテムとかも買えるし、それはソロゲームでも使えるから、けっこう嬉しい。

 そんで時間終了で『いつか、このようなメフィスタルニアの姿が見られるのだろう……』ってイケボのアナウンスでエンディングソングとエンディングアニメーションが流れてオワリ。


 まあ、その決戦に参加するためにはいくつかのクエストをクリアしておかないと、決戦の日にログインしてもそのIDでは倒せなかった時の1枚絵が出てくるだけなんだけどな。


 ちなみに、おれはジャイアントスケルトンツヴァイシュベールト634号の討伐には何回も成功しているんだけど、その最少参加人数は確か374名だった。

 みんな死ぬって縁起悪ぃよなって思ってたのに勝ったから覚えてる。他の倒せた時は600名以上のレイドになったと記憶している。


 タンクの人材がそろってないととにかくきつい。

 『重装騎士』7~10人のローテで『聖女』や『聖者』とか『司祭』なんかのヒーラータイプを5~6人付けてやっと片方の腕の攻撃を受け止められる。

 『聖騎士』だとペアを組ませて、互いに回復魔法をかけ合いながら防御姿勢で耐える。『聖騎士』2人で『重装騎士』1人分だった。

 ただの『騎士』だとヒーラーが2倍から3倍は必要になる。ダメージがでかすぎるからな。


 デカすぎて、当然ノックバック耐性は最大だ。ノックバックしないと言った方が正しいかも。


 アタッカーは弱点属性の太陽神系魔法が使える『勇者』や『賢者』や『魔法剣士』が中心だった。『光の聖女リンネ』でログインしてるプレーヤーは重宝されてた。

 あと、剣術系の連続技がうまく使える『勇者』や『魔法剣士』は、太陽神系魔法のクールタイムの間に剣術系の連続技で殴り続ける。


 まあ『勇者』はタンクが足りない時は『聖騎士』と組んでタンクに回ってもらうことも多いけどな。

 それを嫌がるヤツがいるとレイド戦がうまく回らねぇんだよな。『勇者』なんて器用貧乏の極みみたいなモンだろーに。


 あと、中央広場でジャイアントスケルトンツヴァイシュベールト634号と戦ってると、東西南北の大通りやその他の小路から、どんどんモブがやってくるのもこのレイド戦の面倒なところ。

 ボスモンスターの眷属召喚と違って、背後を突かれるからな。

 だから大通りと小路を警戒するプレーヤーも必要になる。まあ、このモブの数は、それまでにこのイベント中に狩ったモブ数が多ければ多いほど、少なくなるようになってたけどな。


 自然発生的にレイドリーダーが出てくるけどさ、その指示に従う人ばっかりじゃねぇよな?

 こういう時にロールプレイするために、いろんなジョブを狙って頑張ったんだろーに。『おれは勇者なんだからアタッカーさせろよ』とか『聖騎士らしく正々堂々1人で挑む』とか言い出したりすんなっつーの。

 みんなのために壁になれよ、勇者なんだろって心ん中では思ってたけどな。ある意味ではブレないロールプレイなんだけどさ。


 ある意味で正しく、ある意味でひっでぇーレイドリーダーなんか、仲間の魔法職関係に頼んで、レイド戦開始直後に聞き分けのないプレーヤーを即PKだからな。

 一応、誤爆とか、フレンドリーファイヤーだとか、装ってはいたけど、わかるヤツにはすぐにわかるよ。

 野良パーティー組んだ時に、1回も誤爆してねぇ賢者が肝心のレイドで誤爆するワケねぇじゃん。


 でも、そういうPKって、協力し合ってやっていこうと思ってる人の中には、けっこー気持ちがすっきりしてる人もいたみたいだったけどな。

 言わなくてもやっぱ、ワガママなプレーヤーはみんな嫌いなんだよ。もちろん、PKそのものに否定的なまじめな人もいたけどさ。


 あ、おれがこのイベントで三つ編みメガネ委員長をPKしそうになったのは、レイド戦とはまったく関係ないから。

 別にかばうワケじゃねぇけど、あの子はどっちかっつーと協力的なプレーヤーの中でも貴重な戦力だったと思うし。


「アインさまと同程度の強さの者など、誰一人として思いつきませんが……」

「ああ、いるはずがない。不可能だ」


 女騎士ふたりの意見は一致してるらしい。


 ゲームのMMOイベントならフツーに存在していた強さの者が、ここには一人もいないという現実が目の前にある。


「しかし、ここから伯爵家の本邸に行くには少し中央広場方面へ進まねばなりません。あの怪物に気づかれて襲われてはどうすれば……」


 ビュルテさんが不安そうな表情を隠さずに言う。ま、こんな話を冷静にされても困るけど。


「あのでかいのは、中央広場に入らない限り、大丈夫だと思います。今も、別に動いてないですよね?」

「……そう言われてみれば、そうだな。ここまで何度も戦闘があったが、あのでかいのが動いていたらさすがにわかるはずだ」

「だけど、できるだけ壁際を、店先のすぐ近くを歩いて、進みましょう。魔物に対する警戒も忘れずに」

「おう」


 ……返事が男らしいんだよな、ユーレイナさん。美人なのに。残念。こういうのが好きな人にはいいんだろうけどさ。


 巨大なスケルトンが見える、怖ろしい進路。

 だけど、他のモンスターはまったく見当たらない。


 できるだけ壁際、できるだけ店先、大通りの端も端をゆっくり進む。


 店は開いているが、店員はいない。果物屋だったり、パン屋だったり、小さな商店からは人がいなくなっている。

 逃げたんだろうな、と思う。

 他のモンスターがいなくても、あれが見えたら逃げるだろ、そりゃ。


 メフィスタルニアの中で逃げ回っても、ホネホネ軍団がいる。だから、メフィスタルニアの外へ逃げようと人々は門へと殺到する。そして、スケコマに後ろから襲われて、次々に殺されていく。


 4000人と言われた住民は、いったいどのくらい逃げることができたんだろうか。


 そんなことを考えていると、伯爵家本邸の門の前にたどり着いた。格子状の鉄の門は閉じられているが、格子の隙間から中が見える。中では、槍を持った衛兵が屋敷の扉の前に立っていた。門の外にやってきたおれたちを見て、ずいぶんと驚いた顔をしている。


「メフィスタルニア伯爵家嫡男エイフォン・ド・メフィスタルニアさまの婚約者である、フォルノーラル子爵家ご令嬢、ヴィクトリア・ド・フォルノーラルさまの護衛騎士を務めております、ビュルテと申します。至急、開門願います」

「フォルノーラル子爵令嬢さまが! よくご無事で! すぐに!」


 衛兵が走り寄ってきて門を開いたので、おれたちはすばやく中へ入る。


「町の中ではガイコツの魔物が暴れていると聞いておりました。ご無事で何よりです」


 門を閉じながら、衛兵が話しかけてくる。


「……こちらは被害がないようですが?」


 ビュルテさんが首をかしげながら、衛兵に確認する。


「はい。なぜか、この屋敷にはガイコツどもは近づかず、戦闘になりませんでした。しかし、騎士さまとともに出撃した者はみな……」

「そうですか……」

「……どうぞ、中へ。エイフォンさまは舞踏場にいらっしゃいます。執務室では狭いので舞踏場を集まる場所にしていたのですが……今の人数では狭い部屋でも問題ないでしょうね……」


 ……いったい、どれくらい死者を出したのか。


 悲しそうな顔をした衛兵が開いてくれた玄関を抜けて、おれたちは屋敷の中へと入ったのだった。


 玄関を入ると、吹き抜けがあるのはヴィクトリアさんがいた屋敷と同じ。


 そのまままっすぐ、おじいちゃん執事が進み、左右に分かれて2つある階段の間、玄関から真正面に見える開かれたままの両開きの扉を抜けると、まるで体育館のような広さの部屋に出る。フツーの家にはありえないサイズの広さだ。


 でも、その広さの中に、人間は1、2……9人しかいない。伯爵嫡男エイフォンくん、でっぷり子爵、騎士っぽいのが3人と……3人? メフィスタルニアの騎士はもっといるんじゃなかったっけ? あとはメイドさんが4人。割合としてメイドさんが1番多いな? そんなもんなのか? そもそもこういうとこにも衛兵は必要なんじゃね?


「ヴィクトリア殿!」


 ヴィクトリアさんが入ってきたことに気づいたエイフォンくんが声を上げた。表情は血の気がないような感じだが、ヴィクトリアさんを見つけた瞬間は嬉しそうな顔をしていた。


 その横で嫌そうな顔をしたでっぷり子爵がこっちをにらんでる。


「ご無事でしたか……良かった。本当に良かった」

「ありがとうございます、エイフォンさま。わたくしはなんとか生き残りました。しかし、屋敷の使用人はほとんどが亡くなりましたの……」

「そうでしたか……」


 おじいちゃん執事がそこでずいっと前に出る。


「……失礼いたします、エイフォンさま。ヴィクトリアお嬢さまの危機に際し、このオブライエン、今はケーニヒストル侯爵家の名代として行動いたします。私の発言は使用人の言葉ではなく、侯爵の意を汲む者の言葉として、受け止められたく願います」


「……このような事態であれば、それも当然のことなのだろう。まだ成人前の主のために、そのような行動は必要なことであると考える」


「ならば、ご容赦を。まず、情報の共有からです。ひとつ、確認したいことは、別邸はガイコツの魔物に襲われ、使用人が多数亡くなりましたが、こちらの本邸はどうやらご無事の様子。それにしては、使用人の姿が少ないように思えます。何がありましたか?」


「……各所でガイコツの魔物が暴れていると報せがあり、騎士団に命じて討伐に行かせた。その際、特に各門での事態が深刻だと考えられたので4か所に部隊を分けたが、騎士団と衛兵だけでは数が足りず、男性使用人も武器や防具を持たせて参加させた。また、中央広場に巨大な魔物が出たという報せもあり、そこにも騎士団を急ぎ、派遣した」


「……それでは、ここに戻った者は?」

「騎士が一人。後は全滅だ。住民の中には門の外まで逃げられた者もいたらしいが、くわしいことは何もわからない……」

「全滅ですか……そちらの騎士はかなり傷が深いようですが、回復薬は? 子爵さまもいらっしゃるのでしょう?」

「……回復薬は、使っておらん。貴重な回復薬を使う判断は、まだ嫡男でしかない私には下せない」


 ……緊急時に使えない貴重な回復薬って何だよ? 意味ねぇじゃん?

 しっかし戻ったのは騎士一人か。やっぱ弱ぇなこいつら。

 あれ? 騎士は3人いるよな? あ、護衛か。エイフォンくんの護衛の2人は出撃してなかったから無事だった、と。そういうことかな?


「……国内の回復薬を取り仕切っていたはずの大商会の主がいて、回復薬が使えないなどと、本当に考えられないことばかりです。それで、なぜ、この屋敷はガイコツの魔物に襲われていないのでしょうか? ここに逃げてくるまでに何度も襲われ、命からがら逃げ延びましたが、この屋敷に近づくと、魔物をほとんど見かけなくなりました。伯爵家には、何か、魔物の対策があるのでは?」


「いや、分からない。聞いたこともない。そもそもこのような事態を耳にしたこともないからな。だが、本当にここだけが襲われていないのか?」

「町の人々が逃げ惑っていたのは、どこにいても襲われるからではないですか。だから町の外へ逃げようと門へ集まったのでしょう」


「……本当に、ここだけが襲われていない? ならば、今はここを動かない方がいいのではないか?」

「そんなはずがありません! エイフォンさま! すぐに! すぐにここから逃げ出すべきです!」


 でっぷり子爵が話に割り込んでいく。「これは陰謀なのです。何度も申し上げているではないですか! 今朝、ハラグロ商会の者は、全員この町を出ました! これはハラグロ商会の陰謀なのです! 一刻も早く王都へ逃げ延び、国王陛下に訴え出なければなりません!」


 エイフォンくんの視線がちらり、とおれの方を向き、それからおじいちゃん執事とでっぷり子爵を交互に見た。


 ……おれがハラグロ商会の護衛だって知ってるもんな。全員この町を出たワケじゃねぇから子爵の言ってることには穴がある。


「……このようなことがどうすればできるのか、このオブライエン、見たことも聞いたこともございません。今回の件は天災のようなもの……もしくは欲深き者への天罰なのかもしれませんが……それを陰謀だと断言するからには、どうすればこのような怖ろしい状態が生まれるのか、子爵さまはご存知なのでしょうな?」


「そんな方法など知る訳がなかろう? そもそもそなたは、ずっとハラグロ商会をかばっている。ハラグロ商会と手を組んで、今回の事態を引き起こしたのではないか?」

「……ほう? ケーニヒストル侯爵家に、この一件の責任をなすりつけよう、と?」


 おじいちゃん執事が目を細めてすごんだ。

 でっぷり子爵も睨み返すが、表情は少しだけ冷静さを取り戻したようだ。


「……いや、侯爵家に何かを言うつもりはない。失礼した。だが、先日の刺客の件でも、刺客の自白に裏付けとなるものがないと否定してくるではないか」


「簡単に自白する場合、罪をなすりつけようとしていると考えられますから。当家では、その裏付けをとるためにいろいろと調べましたが、聞いた人、聞いた場所、すべてを確認しても、どこにもハラグロ商会とはつながりませんでしたので。それどころか、番頭のガイウスとやらの名前がさかんに出てきて、他にはハラグロ商会で名前を知っている者がいないだけではないかと疑念を抱いたほどです。ガイウスとやらがメフィスタルニアにいない日に会っていたという話もありましたな。伯爵家では、そのような自白をそのまま信用するのでしょうか? エイフォンさま?」


 でっぷり子爵からのボールをエイフォンへと投げ返すおじいちゃん執事。


「……いや、そちらからの調書にはきちんと目を通した。自白が信用できない可能性が高いと私は考えている」

「エイフォンさま! しかし、ハラグロ商会に頼まれたという自白以外に証拠はなかったではございませんか!」


「……ハラグロ商会がヴィクトリア殿を害する理由がない。ハラグロ商会はケーニヒストル侯爵領への出店を望んでいるそうだからな」

「ですから! 我がヤルツ商会を陥れようとして……」


「なるほど、誰かを陥れようとする、という考えなら、ハラグロ商会に頼まれたという自白だけが証拠なのは、誰かがハラグロ商会を陥れようとしている、と考えるべきでしょうな」


 でっぷり子爵の言葉を遮って、おじいちゃん執事が攻める。

 でっぷり子爵はおじいちゃん執事をにらんでいるけど、おじいちゃん執事は全く動じない。


「こちらとしては、ほんのわずかでも、ヴィクトリアお嬢さまが陥れられるような可能性を残したくはありません。ヤルツ商会及び、子爵さまとのお付き合いについては考え直させていただくことになるでしょう」


 ……執事ってあくまでも使用人だよな? 筆頭だったら違うんかな? 商人上がりの賄賂で爵位を得たっていっても子爵は一応貴族だろ? おじいちゃん執事すげーな!





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