光魔法の伝説(26)
おじいちゃん執事のオブライエンさんは、おれと姉ちゃんを護衛として雇いたいと言ってくれた。
姉ちゃん即うなずいて、特に報酬の交渉とかはしない。姉ちゃんにとっては、慕ってくれてる妹みたいな友達を助けるという当たり前のことでしかないのかもしれない。っていうか、たぶんそのまんまだろ、姉ちゃんだし。
「では、依頼料を決めましょう」
そう言ったら、何言ってんだこいつ、みたいな目を女騎士二人から向けられた。
……いやいやいや、おれ、別に騎士とかじゃねぇからな! 自称冒険者だから!
メイドさんやおじいちゃん執事は、どっちかっつーと、当然そうなるなという顔のようにも見える。平然としてるしな。ヴィクトリアさんは、なんだかよくわかってない感じだ。
「……では、ハラグロ商会と同額を用意いたします」
即決、という感じでおじいちゃん執事がそう言った。「金額を教えて頂けますか?」
「……それは、難しいと思いますけどね?」
「フォルノーラル子爵家のみならず、ケーニヒストル侯爵家からも報酬はお支払いたします。このオブライエンの名にかけて」
「……オブライエン殿は元々ケーニヒストル侯爵家の筆頭執事でございます。お嬢さまの婚約にあたり、大旦那さまからのどうしてもという依頼によって、ここにいらっしゃいます。今のお言葉に偽りがないことは、私からも口添えをさせてください。私ごときの口添えでは足しにはならないと思いますが……」
おじいちゃん執事の言葉に続けて、メイドさんもそう言った。
まあ、おれが難しいと思ってるのは、そういう理由じゃねぇんだけどな。
「無理ですよ、たぶん。いくら侯爵さまから信頼の厚い執事さんだとしても、ハラグロ商会と同額を支払い続けることはできません」
「……支払い、続ける? ですか?」
さすがはおじいちゃん執事。ちゃんと気づいたな。
まあ、あれは別に護衛の報酬じゃねぇーんだけどな。
そもそも護衛として報酬は頂いてはおりませんので、ハラグロ商会から頂いているものがそれと同じだと、みなす。この、みなす、というのが大事。
だからおれは嘘をつくワケじゃないからね? 嘘じゃないから! ただ、おれ自身が最大の出資者であるという事実を伏せるだけだから!
「ハラグロ商会からは必要な経費全てと、商会の年間の純利益の3割を頂いています。この先も、ずっと、ですよ?」
「馬鹿なっ……?」
おじいちゃん執事の驚愕の顔って、初めて見たな。こんな顔もできるんだ。ククク、ついにはっきりとわかる1本を取ってやったからな!
「いくらケーニヒストル侯爵家といえども、ハラグロ商会と同額を支払うなんて、絶対に無理です。ですから、別の報酬を考えましょう」
「……し、しかし、今のお話が本当なのであれば、アインさまが言う通り、とても、見合った報酬を用意することなどできません」
「……じい、無理なのですか?」
「飛ぶ鳥を落とす勢いの老舗大商会が1年間に上げる利益の3割を払い続けるなど、本来であれば考えられません。
しかし、確かにアインさまのあの強さはこのオブライエン、長く生きたつもりですがそれでも見たことなどない、あれこそ本物の強さでしょう。
ハラグロ商会のお二人に対する接し方から考えても、その額は偽りではないと思います。お嬢さま、それに代わるものなど、侯爵家といえどもとても用意できるものではありません」
「そんな……」
動揺したおじいちゃん執事が、いつもなら心の中でおさめてるはずのことまで口に出してる気がする。クククク、これは勝利宣言か? おれの勝利なのか?
「では、護衛の話は、なかったことに……痛っ! ちょっ! 痛っ! 姉ちゃん!」
いつの間にか近づいていた姉ちゃんがゲンコツを2発、おれの頭に落とした。2発だよ!?
「ごちゃごちゃ言うのをやめなさい、アイン。助ける気があるからここまできたわ。今さら何? 友だちのリアを助けるなんて当たり前のことだわ。ふざけないで」
姉ちゃんはおじいちゃん執事に向き直る。「……すみません、オブライエンさん。弟が失礼なことを言いました。あたしたち、お金には困ってませんから、特にほしくないです。ただ、アインは何か別にほしいものがあるみたいだから、リアをきちんと守ったら、アインのほしいものが手に入るように、手伝ってあげてもらえませんか?」
「イエナねえさま……」
ヴィクトリアさんが目をきらきらさせて姉ちゃんを見てる。どんだけ見てんだ?
「……ありがとうございます、イエナさま。このオブライエン、お嬢さまを守り通すことができるのならば、アインさまの願いが叶うよう、全力を尽くすと誓いましょう」
……まあ、結果オーライか。
「そこの女騎士さんたちも、証人になってくれますかね?」
「……それが必要ならば、一人の騎士として応じよう」
「……わかりました。護衛の戦力として期待はしていますので」
……なんか、汚い物でも見る感じの目で見つめられてるけど、別にいいしな。いや、もちろんそれで興奮したりもしないからな? しないから!
「では、アインさま。お嬢さまを守り通すために、まずはエイフォンさまもお助け願います」
「はいぃ? え? どういうことでしょうか? このままメフィスタルニアから脱出して、ケーニヒストル侯爵領まで逃げ延びればよいのでは?」
おじいちゃん執事? いったい何言ってんの?
「アインさまならばご理解頂けると。よろしいですか?
おそらくメフィスタルニアはこのまま死霊に乗っ取られる可能性が高いと考えられます。
ケーニヒストル侯爵家の騎士団に所属し、お嬢さま付きの護衛騎士となったユーレイナとビュルテですら、身を守ることで精一杯となる死霊どもが相手です。メフィスタルニア伯爵家の騎士団も、対応できないと考えられます。メフィスタルニアは滅びる。そう予測できます。
ひとつの町が滅びるというのはそれだけでも大問題です。ましてや、国内最大の交易都市が滅びるとなれば、それはどれほど問題となることか。
その状況でこのままお嬢さまがメフィスタルニアから逃げた場合、おそらく、このメフィスタルニアの異変に関して、トリコロニアナ王家はお嬢さまとフォルノーラル子爵家及びケーニヒストル侯爵家による陰謀であるなどとでっちあげ、責任を押し付けてくると考えられます」
「ええっ? そんなこと、しますか? 王家が?」
「可能性は高いでしょう。
ここに至るまでの、メフィスタルニアをめぐる情勢が、そうなるように動いていると言えます。
まずはヤルツ商会とハラグロ商会の対立からです。
今回のこの異変は、ヤルツ商会とメフィスタルニア伯爵家としては、対立していたハラグロ商会の仕業であると押し付けたい。理由は、対立していたから、ということで済みます。証拠など、あってないようなものです。ハラグロ商会を潰せたらそれでいいのですから。
しかし、ハラグロ商会は潰れません。回復薬の取引をヤルツ商会よりもはるかに安い価格で行い、ファーノース辺境伯、ニールベランゲルン伯爵、セルトレイリアヌ公爵など、国内の大貴族を次々と味方につけています。これらの方々がハラグロ商会の味方になるため、メフィスタルニア伯爵家はハラグロ商会を潰したくとも潰せない。ハラグロ商会に責任を押し付けられないのです。押し付けたとしても、濡れ衣だと逆襲を受けることになるでしょう。
だからといって、メフィスタルニア伯爵はヤルツ商会を切り捨てることはできない。
アインさまから、ハラグロ商会はメフィスタルニアに支店を出さない、ということお聞きしました。
アインさまはあの時、ハラグロ商会はヤルツ商会やメフィスタルニア伯爵家と対立するつもりがないからだとおっしゃったが、メフィスタルニア伯爵からすれば、それは、メフィスタルニア伯爵家はヤルツ商会から高い回復薬を買え、と言っているようなものです。
支店を出さないということは、メフィスタルニア伯爵家からすれば、敵対しようとしているとしか思えないのです。
希少な回復薬の重要性を考えれば、ハラグロ商会と取引できないメフィスタルニア伯爵は、どんなに高くてもヤルツ商会から買うしかない。
そうなると、ヤルツ商会を切り捨てて、この異変をヤルツ商会の責任として押し付けることもできない」
……回復薬の適正価格での販売が、そこまで大きなことにつながってたんですかいっ? えええ?
おれの感覚としては、あるべき価格で販売してもらいたいってだけだったのに?
そもそも元イシサヤ商会……今のハラグロ商会を助けて資金を投入しようって考えたのは、本当にたまたま偶然の出来事だったし、いちいちミニイベントに対応するよりも早いと思っただけで……それがメフィスタルニアにこんな影響を与えるなんて、予想できるか?
できないよな? できないだろ、フツー? 無理だって!
「……そうなると、メフィスタルニア伯爵に残された道は限られます。
トリコロニアナ王国最大の交易都市を領都とする大貴族だから、ケーニヒストル侯爵はお嬢さまとエイフォンさまの婚約に価値を見出していました。
ですが、その前提がハラグロ商会の台頭で崩れつつあったところに、この異変です。メフィスタルニアが滅びるのであれば、この政略結婚には何ひとつ価値はなくなります。
ケーニヒストル侯爵は間違いなく、婚約解消を選択されるでしょうし、それはメフィスタルニア伯爵も理解しています。
ならば、この異変において、現地に滞在していて、今後の関係は悪化することがたやすく予想できる、もっとも責任を押し付けやすい者、そしてその内容はトリコロニアナ王家にとっても外交上の武器となるため、メフィスタルニア伯爵の主張が通りやすい。その生贄は誰か……」
「……ヴィクトリアさまの置かれた現状が少し、理解できたと思います。ですが、外交関係で問題になるのは王家も困るのでは?」
「トリコロニアナ王国がお嬢さま個人を攻撃することが、すぐにケーニヒストル侯爵を敵に回す訳ではありません。
ケーニヒストル侯爵はその場合、お嬢さまお一人を切り捨ててでも、外交関係を良好に保つことでしょう。
どれだけ可愛がっている孫娘であったとしても、それが政治的な汚点となるのであれば、私情をはさむことなく、判断なさる方でございます」
……おいおいおい。これ、本当? 本当なのか? おれにはどこまでこのおじいちゃん執事の話を信じていいのかわかんねぇけどな? わかんねぇけども!
これがヴィクトリアさんの状況だとして、なんでエイフォンを助けることが必要になる? いや、もうすでにエイフォンは死んでるかもしんないんだけど?
「お嬢さまの命だけがご無事で、ケーニヒストル侯爵領まで逃げることができたとしても、それがお嬢さまを本当の意味で守り通すことにはならないのです」
「そこは理解できましたけど……」
「今回の護衛契約は、守り通す、というお約束をいたしました」
え? そうだっけ?
おじいちゃん執事の後ろで、女騎士の二人がしっかりとうなずいている。
「確かに、オブライエン殿は、守り通すことができれば願いが叶うよう全力を尽くす、と誓った。騎士としてこれは偽りではないと誓えるぞ」
「はい。守り通す、という契約でした。証人として、断言します」
……マジ? おじいちゃん執事、ここまで先に考えてたってことか? おれが単なる護衛だと思ってたのに?
その仕掛けって難度めっちゃ高くない? 1本どころか、10本? いや、100本ぐらい取られた気分なんだけど? 何このおじいちゃん執事?
「今回のこの異変からお嬢さまを守り通すためには、お嬢さまがこの異変の責任を負わないようにしなければならないのです。
そのためには、お嬢さまはこの地で、できることは全力を尽くして為さねばなりません。
婚約者であるエイフォンさまを置いて逃げるなど、決して許されません。エイフォンさまとともに避難するだけでもまだ十分ではない。
この異変の責任を負わせる相手を見つけ、その証拠とともにエイフォンさまも助けて逃げる。
エイフォンさまがすでにご存命ではない場合は、少なくともご遺髪やご遺品を持って行く。
また、お嬢さまに責任はないと証言できるメフィスタルニア家の者を共に連れて逃げる。
アインさまに引き受けて頂いて本当に助かります。
私では、お嬢さまを逃がすことさえ難しかったでしょうから」
おれの前で、おじいちゃん執事が笑顔を浮かべていた。
ミーーーッショーーーン!! イーーーーン、ポーーーーッシブーーーーールっっっっ!!
予想外だよ!? どうすんの、これ?
「ではまず、エイフォンさまを探しに参りましょう。メフィスタルニア伯爵家の本邸はこのメフィスタルニアの政庁でもありますから」
……って、すぐ行動するんかーーーい!
メフィスタルニア伯爵家の本邸は、中央広場から北門への大通りの途中にあった。
正直なところ、死霊と呼ばれるホネホネ軍団に満たされたメフィスタルニアの中央広場には近づきたくない。絶対に嫌だ。中央広場ノーセンキュー。
だから、中央広場を避けるように、また、ホネホネ軍団が逃げ出そうとしている人を襲うために集まっている門付近も避けるように、建物と建物の間の通路を抜けながら、移動していく。
先頭はおれ。最後尾に姉ちゃん。
中央にヴィクトリアさんで、その前後がおじいちゃん執事とメイドさん。
女騎士はおれの後ろと姉ちゃんの前にいる。
少し広い通りの場合は、おじいちゃん執事と女騎士、メイドさんと女騎士が横に並んで、ヴィクトリアさんの前後の守りを固める。
せまい道にスケコマがいることもあったけど、太陽神系魔法1発で消えるので問題なしのもーまんたい。ホネホネ軍団の団体さんとは出会ってないのでそこはラッキー。
十字路になっているようなところだけは一度止まって、左右の安全を確認してから、通り抜けていく。
……なんでそんな細道を選んで迷わずに行けるのかって? そりゃ、町のマップはゲーム通りだったからな。メフィスタルニアの政庁は重要な場所だし、知ってるっての。
でも、なぜかはわからないけど、政庁であるメフィスタルニア伯爵家に近づけば近づくほど、ホネホネ軍団は少なくなっている気がする。フツー逆なんだけどな?
ゲームではまさに、政庁の近くでスケルタルソードマスターとか、対処が面倒な相手が出てきてたはずだ。
もうエイフォンくんとか死んじゃってて、ホネホネ軍団の必要がないからだったりしてな。
「オブライエン殿、メフィスタルニアの騎士団はどのくらいの数がいますか?」
「総勢は22名。そのうち8名は、メフィスタルニア伯爵とともにこの町を離れていますので、14名ですな」
22名? うーん。微妙。
この女騎士さんくらいの力量だったとしたら、何人いても、スケコマの相手は厳しい気がするけどな。
数が多ければ、それだけで力になるんだけど?
「……王国最大の交易都市って言われてますけど、20人ぐらいなんですか、騎士団って?」
「剣神の御業や、槍の女神の御業が使える者は、そもそも数が少ないものです。アインさまやイエナさまが使えることが驚きなのですが……」
そういや、そうでした。アンネさんからそう教わったよな。
「洗礼によって『騎士』となっている者は、存在しない騎士団の方が多いくらいでしょう」
……こっちじゃ、『騎士』もある意味レアジョブなのか? 槍術と盾術を身に付けて中級スキルまで育ててれば、かなりの確率で『騎士』にはなれるんだけどな?
騎士系なら『聖騎士』とか『重装騎士』とかの上位ジョブも狙いやすいし、『魔法剣士』狙いで槍術の方が熟練度が高かったりすると『魔法騎士』なんてレアジョブになったりもするしな。
まあ、そもそも、15歳までにスキルを身につけること自体が珍しいって状況だもんなぁ。こっちでは。
「ええっと、女騎士さん……あー、お名前、なんでしたっけ?」
「……ビュルテです」
なんかちょっとご機嫌斜め? いや、名前を教えてもらってないよな? 知らないもんはしょーがねぇーだろ?
「後ろの方は?」
「彼女はユーレイナです」
男っぽい口調がユーレイナさんで、丁寧語の方がビュルテさんね。
おれは後ろのみんなを制して、スピードを落とす。
この向こうには、ちょっとした広場がある。ホネホネ軍団がいてもおかしくない。
「ビュルテさんと、ユーレイナさんにも、ホネホネたちと戦えるようになってほしいんですけど……」
「戦えますが?」
……どうやらムッとさせてしまったらしい。いや、しょうがねぇだろ、弱ぇんだからな。
「……勝てますか?」
「この命に代えても、お嬢さまはお守りします」
「勝てないんじゃん。死んだら、その先、ヴィクトリアさまを守れませんよね?」
後ろから、ユーレイナさんも出てくる。
「主の命を守り、命をかけるのが騎士だ。何がおかしい?」
「……とりあえず、さっきの屋敷での戦闘を見ていて、お二人なら2対1に持ち込めば勝てる可能性があると思うんですよね」
「勝てる? 私たちがアレにか?」
「……勝てないと思ってんじゃん。別にいいけど。とにかく、魔物を倒せば強くなれる。知ってますか?」
「それぐらいは知っている。ケーニヒストル侯爵家の騎士団でも、周辺の魔物の討伐はしているからな。ビュルテは学園にも通った優秀者だ。当然、そんなことはわかっている」
おおお、ビュルテさん、学園通ったんだ! 無事に脱出できたら、色々聞いてみたいな。
「じゃあ、今の状況は、命の危機ではあるけど、同時に強くなるチャンスだと考えましょうよ」
「むむ? どういうことだ?」
「強くなる……チャンス、ですか?」
タッパを確認したらやっぱり表示色が赤だ。
この先の広場にホネホネがいるのは間違いない。
「クールタイムスイッチって、わかりますか?」
「なんだそれは?」
「聞いたこともないです」
「……御業を使うと、1秒とか、2秒ぐらい、動けなくなりませんか?」
「ああ、なるな。だから御業では1撃で倒せと言われている」
なんという強引な発想!
「あの、動けなくなる時間をクールタイムと言います。1体の魔物を相手に、ふたりで戦う時、どちらかが先に御業を仕掛けて魔物にダメージを与えて、その人がクールタイムに入った時に、うまくタイミングをずらしてもうひとりが御業を使えば、動けなくなる間に魔物の攻撃を受けずに済みます。わかりますかね?」
「……聞いたこともない戦法だ」
「はい、はじめて聞きました。そんなことができるのですか?」
マジかよ……。
「……魔物は、基本的に大きなダメージを与えた方を狙う習性があります。だから、ペアを組む二人のうちどちらか少し弱い方が先に攻撃すると、魔物はそっちを最初に意識します。でも、タイミングをうまく合わせれば、次に強い方が攻撃をすれば、先に攻撃をした人が魔物に攻撃される前に、魔物の意識を強い方の人に引き寄せることができるワケです。で、3回目の攻撃を最初に攻めた弱い方の人が当てれば、さすがに合計で2倍になるダメージ量だと、もう1回、魔物を引きつけられますよね?」
「……知りませんでした。そうすると、二人の強さが同じくらいならば、交互に攻撃すれば魔物の意識は常に移り変わって、こっちは攻撃されずに一方的に攻めることができる、と?」
「そうです。それと、剣神の、『与えられし御業』だと、魔物が少し後ろに下がるの、わかりますか?」
「ああ、そうだな。攻撃の勢いで後退させることができるぞ」
この『与えられし御業』というのは、初級スキルのことだ。最初に使えるから与えられたものだということらしい。アンネさんから教わった知識である。
「あれで魔物が元の位置に戻るタイミングで、交代して剣神の『与えられし御業』をぶつけ続ければ、ずっと攻撃し続けることも不可能ではないんですよ」
「そんな、馬鹿な?」
「そんなことが本当にできるのですか?」
「見本を見せてあげたいけど、おれと姉ちゃんじゃ、こいつら1撃なんですよね……」
女騎士二人がものすごく微妙な顔をしていた。別に自慢してるワケじゃねぇからな?
でも、話した内容にはとても興味を持ったような感じがする。
「ビュルテの方が強いな。私が先に攻撃を仕掛けよう」
「ええ、やってみましょう。できるようになれば、大きな武器になります」
おっ、やる気だ。いいね。
「じゃあ、ヴィクトリアさまの護衛は心配なく。この先の広場で、2対1の状況をつくりますから、チャレンジしてください。たぶん、1体でも倒せば、強くなれると思うんだけどな」
「なんだと!」
「本当ですか!」
……めっちゃ喰いついてきた。
「ちなみに、『鍛えし御業』は使えますよね?」
この『鍛えし御業』というのは中級スキルのことだ。剣術系であるこのふたりの女騎士の場合、スラッシュのことになる。レベル5でカッターの熟練度が3になっていれば使える。
それと、上級スキルは『極めし御業』という。あと、『王の認める御業』と『神の認める御業』という言葉はあるが、使えた人を見たことはないとアンネさんは言っていた。
王級スキルや神級スキルは使える人がいたとしても本当にわずかなのかもしれないし、ひょっとしたら使える人はいないのかもしれない。なんか、そんな気がするな。
「……4回に1回ぐらいは、使えるな」
「わたしは、2回に1回でしょうか……」
まともに発動させらんねぇのかよ? 練習しろよ!?
「ええ? まさか、『与えられし御業』も、使えないことがあるんですか?」
「いや、それはない。大丈夫だ」
「問題ありません」
よかった。初級スキル、カッターは大丈夫らしい。まあ、カッターがある意味、一番大事だ。連続技もカッターが最後にくるのが当然だからな。ノックバック(中)効果があるから。
それにしても、優秀者って話のビュルテさんでその程度なら、こっちの騎士ってのは、弱ぇよな?
全員、辺境伯領に送り込んで鍛えた方がいいんじゃね?
「なら、タイミングが大事です。失敗しても、姉ちゃんが癒してくれますから、頑張ってみてください」
ごくり、とユーレイナさんが唾を飲みこむ音が聞こえた。ちょっとは女らしくしてほしい。それなりに美人なのに、もったいなさすぎる。
壁からちらりと広場を覗き見る。
スケコマが3体。そしてスケコマと戦う女騎士ふたり。なんか、スケコマシと戦うみたいに聞こえるよな?
「ホネホネ3体。左から1、2、3と番号で判断、いいですか」
「おう」
「わかりました」
「姉ちゃん、ヴィクトリアさんたちの護衛で、何かあったら回復魔法」
「わかったわ」
「1と2が近いので、おれがまとめて引き受けます。一番右の3を、お二人で」
こくり、と二人がうなずいた。
ちょっと緊張してるみたい。声が出せなかったらしい。
ま、そんくらいの方がいいかもな。
「オブライエン殿、全員で広場に入ります。そのまま壁際で壁を背にして固まっていてください」
「わかりました」
「0で飛び込みます、いいですか。3、2、1、0っ!」
おれが走り出すと、続いてみんなも広場へと飛び出す。
おれは1と2のど真ん中あたりをめがけて走り、カッターの予備動作を済ませる。
ヴィクトリアさんたちはすぐに壁際に立ち、その前に姉ちゃんが槍をかまえて控える。
ビュルテさんが1歩後ろ、ユーレイナさんが1歩前でスケコマ3に向かって走っている。なんで二人とも予備動作してないのさ?
おれは1にソルマを喰らわせて消し去り、2にカッターを振り下ろして始末する。秒殺も秒殺のコンマ殺?
スケコマ3の目前でユーレイナさんが予備動作をいれてカッターを振り下ろす。ぎりぎり、スケコマよりも先に剣が当たる。そんでノックバック。スケコマ3が元の位置に戻り、その剣がユーレイナさんに当たる寸前で、ビュルテさんのカッターがスケコマ3をとらえた。
ギリギリ過ぎーーーーーーっっ!
その後も、絶妙に微妙なタイミングで、でもなんとか、ダメージを喰らうことなく、クールタイムスイッチっぽい感じの何かをユーレイナさんとビュルテさんが繰り返していく。下手過ぎる。
危なっかしいので、スケコマ3の後ろに回り込んで、いつでも手出しできるようにしておく。
二人とも、予備動作は遅いし、タイミングが悪い。ホントに練習してんのか、こいつら?
ユーレイナさんの4回目のカッターではタゲ取りできず、ノックバックから戻ったスケコマ3はビュルテさんを狙う。
だけど、そこで先にビュルテさんの4回目のカッターが炸裂し、スケコマ3が消えて銀貨がチリリンと落ちた。
タッパ操作で金貨や銀貨はアイテムストレージに回収しましたが、何か問題でも?
「た、倒せ、たのか?」
「か、勝ちました?」
なんで疑問形? いや、目の前で消えてっただろうが?
「お見事、とは言えない感じですけど、初めてなら、あんなもんですかね? クールタイムスイッチ、わかりましたか?」
「あ、ああ。すごい戦術だ。手も足も出なかった相手に、こんなことが……」
「……最初から今までよりも少し速く動けたような気もしました。今も、力が湧いてくるような気がします」
うん。たぶん、さっきの部屋での戦闘で、レベルアップしてたんだろうな。今回、二人だけできっちり倒したから、ここでもレベルアップしてると思う。
二人が最初はレベル5~7ぐらいだったとしたら、今は8~9か、10には届いたかもな? ひとけたレベルでHP300を狩ったら経験値はめっちゃ美味しいはずだからな!
「か、勝てる? 私たちにも、勝てるのか?」
「間違いなく、勝ちました。まだ少し、手が震えています。でも、嬉しいです」
「……あんまり調子に乗り過ぎないようにしてください。でも、2対1に持ち込めば、なんとかできますよね?」
「ああ! ありがとう!」
「はい! ありがとうございます!」
11歳が、成人した女護衛騎士を指導する光景に、あのクールメンおじいちゃん執事が呆然としている。そんなに珍しいかな? いや、珍しいか。そうだよな。
「それより、なんで予備動作をギリギリにやるんですか?」
「予備動作?」
……えっ、予備動作、知らないの?
「御業の『神々の光』を武器にまとうための動きのことです」
「ああ、あれか」
「わかります」
「その、予備動作なんですが、先に済ませておいて、剣が『神々の光』をまとった状態でためておけばもっと簡単にいいタイミングで攻撃できると思うんですけど?」
「はあっ?」
「武器が『神々の光』をまとったらすぐに使わなければならないのでは?」
「え? さっき、おれは『神々の光』をまとったまま、先に光魔法を使って1体を倒し、それから『与えられし御業』で2体目を倒しましたけど……って、見てないですよね、そりゃ」
「そんなことが、できる、のか?」
「し、信じられません……」
「まあ、今はともかく、これから練習してみてください」
「ああ、そうしよう」
ユーレイナさんが微笑みながら、うなずいた。うん。こういう表情がいいよな。
ビュルテさんも、おれに向ける視線や言葉がとても柔らかくなっている。
……まるでゴミでも見るみたいな感じだったからな、さっきまでは。
「……アインさま。アインさまと私たちでは、いったい、どれくらいの力量差があるのでしょうか?」
ビュルテさんの問いに、どう答えたものか、と口を閉じてしまった。
「……失礼しました」
……どうやら答えにくいと察してくれたらしい。なんか、申し訳ないな。
「……アインさま。他にも、気づきがあれば、色々と教えてください。ヴィクトリアさまを守り抜くためにも、私は強くなりたいのです」
「ああ、頼む、アインさま」
おれは黙ったままうなずいた。
すると、ビュルテさんも微笑んでくれた。
なんか、打ち解けられてよかった。
さま付けはかなり変な気持ちになるけどな! なるけども!
しっかし、これ、RPGだったよな? いつから『レオン・ド・バラッドの伝説』は育成ゲームになったんだよ?
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