光魔法の伝説(22)
お茶会なのに、毒殺未遂から襲撃というハードな謎イベントをこなした翌日。
おれと姉ちゃんは、メフィスタルニアの地下墓所ダンジョン、『聖者が護るカタコンベ』に突入していた。
ここでの目的は5つ。
その1、もちろん、レベル上げ。
その2、当然だけど熟練度上げ。
その3、忘れてはならないサイフの回収。
その4、重要な武器の入手。
その5、ハラグロ商会奴隷職員の強化。
という5つである。
さて、なぜ古き神々の神殿でのレベル上げではなく、ここ『聖者が護るカタコンベ』でのレベル上げになるのか?
そりゃ、こっちの方が安全マージンが取れるからな。
出てくるメインモンスターはHP5000クラスのパワドゾンビとハイグールだ。まだ試してないけど、ホネホネ軍団と同じでアンデッドのため、チリリンチリリンとサイフを落してくれるだろうと考えられる。
しかし、HP5000クラスであれば、古き神々の神殿の各ダンジョンの4層と同格ということになる。それなら鍛冶神ダンジョン4層でもいいんじゃねぇのか? という疑問点がある。
それを解決するのが、効率的経験値獲得大作戦『直線通路光魔法異臭地獄』である。
めちゃめちゃ効率よく、安全マージンを確保しつつ、経験値を積み重ねられるのがここ、『聖者が護るカタコンベ』である。
MMOイベントへの参加権を獲得したにもかかわらず、メインキャラではなく育成中のキャラでログインして、このダンジョンを荒らす連中が湧いていたくらいだ。
イベントクリアに非協力的で迷惑な存在ではあったが、誰もが納得の効率地帯でもあった。
スタポやマジポが用意できる今、ここを使わない手はない。
逆に言えば、メフィスタルニアが『死霊都市』となってしまうと、途端に侵入が難しくなるので、ここを使えるのは今しかない。
ヤルツハイムル子爵が行動し始めると、ここのダンジョンで活動しにくくなってしまうからだ。
それでは、『直線通路光魔法異臭地獄』を実際にやってみたいと思う。
この『聖者が護るカタコンベ』は5層構造のダンジョンで中心となる形は実は同じ。
人が二人並んで歩ける中央通路がまっすぐ走り、4か所、十字路になっているだけ。中央通路の端は下層への渦がある小部屋となっている。
十字路の先に部屋があるところも用意されているけど、とりあえずそれは後回しだ。
この中央通路にはモンスターはいなくて、十字路の左右にモンスターがいる。パワドゾンビとかハイグールとかなんだよな。
おれと姉ちゃんは、ダンジョン入口の渦から、小部屋へ。小部屋で弓矢を装備して、矢をつがえた状態でドアを開き、中央通路に突入する。
「じゃ、作戦通りに」
「わかったわ」
おれと姉ちゃんは駆け出して、最初の十字路でそれぞれ左右に分かれて背中合わせで弓を引く。
十字路の向こうにはわらわらとパワドゾンビやハイグールが湧いて出てくる。
こいつらの特徴は、動きが遅いこと。
そう。
まず、ここがポイントだ。
鍛冶神ダンジョンのホネホネ軍団は別に動きが遅いなんてことはない。同じHP5000でも、ここが大きく違う。
おれたちはそれぞれ1本ずつ矢を放つ。スキルは使わずに、通常攻撃だ。別に当たる必要はない。しかも、この1本で、十字路の左右にいる連中は一気にタゲ取り完了だ。これだけで20体以上のモンスターが釣れた。
「まずは練習だから、この数ぐらいでいくよ」
「うん!」
そのままおれと姉ちゃんは直線通路を駆け抜けていく。
後ろで、パワドゾンビやハイグールがわらわらと十字路から出てきて、おれたちを追ってくるけど、遅いから追いつかれるようなこともない。
ひとつの層に十字路は4本あるが、残り3本の十字路はスルーして、端まで行く。
おれはアイテムストレージから、大きめのテーブルを取り出して、それを置くと、壁になるように立てる。
そして、重石代わりにテツコを何度も狩って入手した鉄のインゴットを大量に積み上げて、テーブルが動きにくくしておく。簡易バリケード完成。
まだ、異臭を放つゾンビアンドグールたちは中央通路の中ほどにも達していない。
姉ちゃんはボックスミッツで3段ボックスを出して、ミスリルハルバードを取り出し、壁に立て掛けた。
熟練度上げのため、ダンツやトライダンツで矢を放ち、ゾンビアンドグール軍団の到達を待つ。
HP5000なので、弓矢の一撃で倒せるようなことはない。まあ、ダンツ系は熟練度8以上で即死効果が出るようにはなるんだけどな。
そして、ゾンビアンドグール軍団の先頭がバリケード付近に到達。
「姉ちゃん!」
「いくわ! 『トライマナイス』」
姉ちゃんが月の女神系支援魔法上級スキル・トライマナイスをおれにかける。魔力を高める月の光に包まれたおれは、これで魔力3倍だ。
『ソルマ』
直線通路をひとすじの光が突き抜けていく。魔力3倍のソルマ。
隣で姉ちゃんがミスリルハルバードを肩でかまえて、青白い光をまっすぐに放つ。槍術系上級スキル・ランツェだ。攻撃力×2の5m貫通攻撃。剣ランツェより2m長い攻撃範囲になる。
『ソルミ』
おなじみ2本の光がぐるぐるしながらまっすぐ直線通路を突き抜けていく。
姉ちゃんがかけてくれたトライマナイスで魔力×3、ゾンビアンドグールの弱点属性が光なので、ダメージ×2という大きな効果を得ている。
『ソルハン』
太陽神系範囲型攻撃魔法中級スキル・ソルハンだ。正面45度半径5m扇状に光が満ちる。これもトライマナイスと弱点属性で効果は増し増し。
『ソルハ』
さらには太陽神系範囲型攻撃魔法初級スキル・ソルハも使う。正面30度半径4m扇状に光が満ちて、ゾンビアンドグールにダメージを与える。
ソルハと同時に準備していた肩のミスリルソードの青白い光をまっすぐに突き出す。剣術系上級スキル・ランツェだ。攻撃力×2の3m貫通攻撃。
5体ほど、ノックバックしつつ、ゾンビアンドグールが消えていく。
こうやって、腰の高さ程度のバリケードを用意して、太陽神系魔法の光を中心にここのアンデッドモンスターを倒していくのが『直線通路光魔法異臭地獄』である。
鍛冶神ダンジョン4層のスケルタルソードマスターもHP5000だが、2対1で戦ってもこんなに簡単には勝てない。剣術スキルで攻撃してくるし、すばやさはフツーだし、ケッコー大変な相手だ。
ここのパワドゾンビやハイグールなら、動きが遅くて、賢くなくて、近接を避けられるからスキル攻撃も特に怖れなくていい。
ただし、臭う。めっちゃ臭う。鼻からメンタルをやられる。それさえ耐えれば、ここは美味しい。
レベル35が適正レベルだけど、レベル30台の前半でもノーダメで戦える。動きが遅いという、そのことだけで戦い方次第になるからだ。
まあ、HP5000だと、弱点属性とはいえさすがにソルマ1発とはいかない。今使える4つの太陽神系魔法を全て使い、姉ちゃんとおれがそれぞれランツェを放って、やっと倒せる。
でも、動きが遅く、賢さもないゾンビアンドグールは、バリケード代わりのテーブルを乗り越えてこない。バリケード押してはくるけど、押せるほどまでに近づいた先頭の連中は、ランツェを喰らうし、クールタイムが終わったら、追加の太陽神系魔法も喰らってすぐに消えていく。
姉ちゃんのトライマナイスは熟練度2以上になっているので、120秒は効果が持続する。おかげで魔法の威力が大きくなって効き目が抜群にいい。
先頭のゾンビアンドグールが消えると、後続が前に出てくるけど、ランツェのクールタイムスイッチと、クールタイム5秒のソルマ、ソルハの連発あたりで、次々とゾンビアンドグールは消えていく。
消える度にチリリリリーンと音がするのでおれは思わずにんまり笑ってしまうけど、姉ちゃんの顔色は冴えない。たぶん、臭いからだと思う。サイフの膨らみを想像すればおれはこの臭さは耐えられるんだけどな。
この異臭さえ耐え抜けば、ここのダンジョンはめちゃめちゃ効率がいい。しかも、バリケードのお陰でノーダメ狩りができる。金貨以外のドロップは期待できないんだけど、そこは諦めてもいい。というか、大量の金貨は確保できる。これ、重要。
20体以上のゾンビアンドグールを一度全滅させて、おれは並マジポを飲んでおく。まだスタポは大丈夫そうだ。姉ちゃんはこれぐらいならまだ必要ないだろう。
おれはレベルがひとつ上がって、32になった。姉ちゃんもたぶんレベルアップしてるはず。
「もう一回、練習で、十字路ひとつ分のモンスターを片づけるよ」
「……わかったわ。でも、聞いてた以上に臭いわ、ここ」
ちょっとうんざりしたような姉ちゃんの顔もおれは好きだけどな。
鉄のインゴットとテーブルをストレージに回収し、弓矢を装備しつつ、そんなことを考えていた。
「さて、次のステップに入ります」
あれから、十字路ひとつ分のゾンビアンドグールを処理し、最後に十字路ふたつ分のゾンビアンドグールを一気に処理して、おれたちは1層の通路のモンスターを一掃した。1層モンスター一掃のバリケード無双だな。
たんまり金貨がストレージに回収されたし、気分は上々。姉ちゃんはちょっとため息を吐いてるけどな。ごめんな、姉ちゃん。ここは効率が優先だから。終わったら帰りにクレープ食べような。
「ごくっ……ええと、モンスター部屋に行くって言ってたわね?」
スタポを飲みながら、姉ちゃんが言う。おれはマジポとスタポを飲んだ。
「まあ、狙いは弓術スキルの熟練度上げなんだけど……気をつける点は?」
「部屋のモンスターを片づけることと、にげようとしないこと」
「大丈夫だね、姉ちゃん。そんじゃ、入口から3つ目の十字路を右。行き止まりの部屋に進みます」
「……本当に、なんでこんなことにくわしいの、まったく」
ぶつぶつと文句は言うけど、姉ちゃんはおれについてくる。
別行動という選択肢は、ここにはないのだ。
作戦行動は夜に宿屋で話し合っている。問題なしのもーまんたいだ。
そして、目標とする部屋のドアに到達。
この中はいわゆるモンスター部屋という罠だ。
入るとドアが開かなくなり、入った側の壁に立て掛けられたたくさんの棺からパワドゾンビがあふれ出てくる。
まっすぐ前方には両開きの大きなドアがあり、側面の両方の壁にも立て掛けられた棺があって、入口側から順に、どんどんパワドゾンビが追加されていく。
そうして、両開きのドアへと追い詰められていくんだけど、この両開きのドアがさらなる罠だったりする。
「じゃ、行くよ」
「いいわ」
ドアを開けて、おれと姉ちゃんが中へ飛び込む。
ぎいぃぃぃぃーーーっ、ばたん。という音で、入ってきたドアが閉じる。
姉ちゃんがドアを開けようとしてみるが、ドアノブは回らない。
「……本当に開かなくなってるわ」
かたん、がたんっ、がたがたっと音がして、壁に立て掛けられていた棺のふたが開いて倒れる。
中から、パワドゾンビがゆら~りと姿を現した。
「右側の角をまずは目指すよ。『トライマナイス』」
「右側の角……あっちね。『トライマナイス』」
おれと姉ちゃんはお互いに魔力3倍のトライマナイスをかけあう。
あとは、ドロップは少し減るけど火の神系も含めて使える攻撃魔法スキルを魔力3倍でぶっ放し、部屋の角をキープしたら、またテーブルと鉄のインゴットを設置する。
直線通路と違ってバリケードでできたおれと姉ちゃんのスペースは三角になって狭いので、姉ちゃんには槍は収納してもらっている。
あとは、クールタイムが終わった魔法スキルを使いまわして、トライマナイスの月の光が消えたらかけ直して、周囲の壁にある棺から出てきたパワドゾンビを丁寧に処理していく。途中、スタポやマジポは頭からかぶって使う。飲んでると魔法が使えないからな。
基本的に弱点の光、太陽神系魔法4種類のダメージが重なったパワドゾンビは、他の魔法が1発か2発くらいで倒せる。対アンデッド太陽神系魔法万歳! 効果抜群!
そうは言っても、100体近いパワドゾンビの処理が終わったら、さすがに疲れていた。その分、金貨はうはうはになるくらいには手に入ったけどな!
「……本当に、このにおいはなんとかならないの?」
「……ごめん、姉ちゃん。こればっかりは諦めて」
「……わかったわ」
モンスター部屋を攻略したおれと姉ちゃんは弓矢を装備し、矢筒を大量に床に並べて、両開きの扉の前に立った。
これは本来、このモンスター部屋のさらなる罠だ。
おれは両開きの扉を大きく押し開いた。
その先に床はなく、一歩でも踏み出すと落下してしまう状態だ。
入ってきたドアが開かなくなり、次々と入口側から現れるパワドゾンビに追い立てられると、慌ててこの両開きのドアを目指す。そして、ここを押し開いて踏み出すと、さらに下へと落ちる。
落ちたところにはやはり大量のハイグールがひしめいているという、二重のモンスター部屋。しつこいくらいのモンスター部屋の罠。
ちなみに、落ちた先のモンスター部屋をクリアできても、そこから脱出しようと扉を開けば、またしてもパワドゾンビの棺がいっぱいあるモンスター部屋があるという、モンスター部屋3連チャンなのだ。
マジポとスタポの用意なくはまれば死ぬ。ちなみに、最初の部屋のパワドゾンビを全滅させれば、入口のドアは開きます。
今のおれたちだと経験値的には美味しいけどな。クリアするだけの魔法スキルはあるし。あ、もちろん大量の金貨も嬉しい。
でも、今は下に行くのではありません。
「うわあ、うじゃうじゃいる。気持ちわるいわ」
「狙い放題だよ、姉ちゃん」
おれはそう言うと、トライダンツを準備して、青白く光る矢を放つ。
姉ちゃんも、おれに続けて、矢を放つ。
1層分、下にいるハイグールは、この矢でタゲ取りできるんだけど。
残念ながら、おれたちのところには登ってくることができない。まっすぐな壁だから。クライミングできそうなところはひとつもありません。いやぁー、残念ながら、だな。こっちとしては最高にラッキーなんだけど。
これが罠として機能して、下に落とされたら大変なんだけどさ。罠に落ちないようにして、上から狙い撃ちするには最高の環境なんだよな。
だから、ここでは弓術スキルの熟練度をアップさせる。弓術スキルの熟練度上げはなかなか難しいからな。6人パーティーくらいで弓専門なら上がるんだろうけどさ。
初級スキルのダンツはもちろん、中級スキルのトライダンツ、上級スキルのクワドダンツ、射程が60mに伸びる中級スキルのロンガーラなど、次々と発動させては青白い矢を放つ。
大量の矢筒を買い込んでいるので、矢の心配はいらない。時々、スタポを飲んでSPを回復させることは忘れてはならない。
弓術系スキルは熟練度8で+200の追加ダメと極小確率の即死効果、熟練度9で+250追加ダメと小確率の即死効果、熟練度最高の10で+500の追加ダメと中確率の即死効果となる。
スキルの熟練度が8を超えて即死効果が出てから活躍できるという大器晩成型武器なのだ。スナイパーを目指すなら熟練度は8以上で!
それに、熟練度は相手にするモンスターが強い方が上がりやすい。その辺のHP10のツノうさに射かけるよりも、可哀想なモンスター部屋のHP5000のハイグールの方がはるかに強いので、熟練度上げには最高だ。
狙いなんかつけなくても、どんどん当たるので関係ないし、こっちが攻撃されることもない。上から一方的に矢を放ち続けるだけ。
くくくくくっ、見ろ、群がるハイグールがごみのようだ、はーっはっはっはっ!
そんな心の叫びとともに、矢を放ち続ける。
弓術系スキルはダメージが少ないし、特定の個体を狙ってないので1体もまともにハイグールを倒せないんだけど、タッパのスキルリストを確認したら、弓術スキルの熟練度は確実に上がっていた。
できるだけ早くクワドダンツとかロンガーラ系の長距離スキルを上げて、王級スキルのバイフィフツやロンガーラダンツが使えるようになっとかないとな。
弓術系神級スキル・女神ポルテの矢は矢がいらなくなるスキルで、しかも他の弓術スキルと併用できる。
弓だけで予備動作をすれば、口の高さに引き分けた時点で虹色に光る弓の女神ポルテの矢がつがえられるのだ。消費SP4でクールタイムなし。
習得条件にバイフィフツの熟練度7、ロンガーラダンツの熟練度7という果てしない道のりだけど、実にほしいスキルだったりする。
弓術、頑張りたいです。姉ちゃんにも頑張ってほしいな。
ダンジョン帰りに道具屋で矢筒を買い占めて、クレープ屋に寄って姉ちゃんのご機嫌とって、宿屋に戻ってヴィクトリアさんからの言伝を聞いて、返事を用意して。
明日に備えて、姉ちゃんと同じ部屋、同じベッドで眠る。ベッドはふたつあるんだけどな。
翌日。
ものすご~く嫌そうな顔をした姉ちゃんを連れて、町の中の目立たないところにある聖者イオスラムの像の前にある渦から、地下墓所ダンジョン『聖者が護るカタコンベ』へと侵入する。
1層のゾンビアンドグールはリポップしてなかった。リポップクールタイムは1日ではないらしい。ちょっとだけ困ったけど、パワドゾンビのモンスター部屋へ移動。
モンスター部屋もリポップしてないけど、両開きのドアを押し開けて、下のハイグールを狙った弓術スキル熟練度向上計画を発動。
2時間で昨日買い占めた矢筒を使い切った。今日は別の道具屋でまた矢筒を買い占めるとしよう。そのうち、ハラグロ商会から矢筒も届くしな。
熟練度は順調にアップしてる。
2層へ下りて、中央通路で『直線通路光魔法異臭地獄』を2回行い、パワドゾンビとハイグールを合わせて約100体、狩り尽す。
そして、ハイグールの落とし扉モンスター部屋につながる、パワドゾンビのモンスター部屋に侵入して、魔法連発で部屋の角に陣取り、ここでも約100体のパワドゾンビを狩り尽す。ただし、奥の両開きの扉は開けずに、元のドアから出て行く。
2日間でHP5000クラスのモンスターを400体は狩った。おれのレベルはこのダンジョンの適正値である35に到達していた。
帰りには道具屋をいくつか回って矢筒を買い占めていき、最後にクレープ屋に寄って、姉ちゃんのご機嫌を回復させて、宿に戻る。
ハラグロ商会のワヨナイさんから話を聞いて情報を集める。まだヤルツ商会に目立った動きはないらしい。ガイウスさんがメフィスタルニアを離れているからかもしれない。
姉ちゃんと宿の部屋でベッドイン。ムフフ……。
地下墓所ダンジョン『聖者が護るカタコンベ』攻略開始から3日目。
ヴィクトリアさんから……おそらく正確にはおじいちゃん執事から……呼ばれているので、昼食前にお屋敷に行かなければならない。
だから朝一でとある場所の聖者の像からダンジョンへ移動。
1層、まだリポップがない。モンスター部屋のリポップなく、両開きの扉を押し開けて、下のハイグールにひたすら矢を放つ。
弓術スキルの熟練度上げだけでダンジョンを出て、一度宿屋へ戻る。
宿でお湯を分けてもらって料金を支払い、部屋で汗をぬぐう。姉ちゃんと背中の流しっこをして、洗い立ての旅人の服に着替える。
迎えがきたと宿の人が知らせてくれたので、馬車に乗ってヴィクトリアさんのところへ。
なんだか豪華そうな昼食をごちそうになる。そのついでにテーブルマナーを教えてもらう。知らないことは恥ではない。
だから、学べるチャンスに学んでおきたい。姉ちゃんがテーブルマナーと悪戦苦闘してたのがかわいいのでほっこり。もっこりではないので注意。
食後、ヴィクトリアさんも含めて、おじいちゃん執事から情報提供。
尋問によると、予想通りだけど、ハラグロ商会の依頼で襲撃したとか、ハラグロ商会の命令で毒をもったとか、そういう証言ばかり出てくる。
しかし、追及して、いつ、どこで、誰からというところになると、ガイウスさんの名前がやたらと出てくるらしい。ガイウスさんが神出鬼没な件について。
ガイウスさんがどこにいるのか、おじいちゃん執事に問われたので、王都に行っていることを教えた。いつメフィスタルニアを離れたのかもきちんと伝えると……。
「それでは、あの毒をメフィスタルニアと王都との間の街道のどこかで受け渡したことになるのでしょうな。ここでメイドとして詰めて働いていたのに、そんなことができるはずはありません。それだけでもハラグロ商会を疑う理由はありません」
そう言っておじいちゃん執事はちらりとおれを見た。どうやらハラグロ商会とのつながりを欲していらっしゃるのではないかと思う。
ガイウスさんを疑っていないようで安心した。
「まだ背後関係の確認が十分にはできておりません。探れば探るほど、矛盾が出てくる。なんともいい加減な証言ばかりです。メフィスタルニア伯爵家に証人を引き渡すのはあと数日かかるでしょう。それと、あのメイドは、お嬢さまの襲撃犯とは関係ありませんので、メフィスタルニア伯爵家に引き渡しません。メフィスタルニア伯爵家が、もしくはヤルツハイムル子爵がおかしな動きをしたら、あのメイドの証言をうまく使うとしますか」
優秀な執事さんって、怖い。優秀な番頭さんと同じくらい、怖い。
姉ちゃんはヴィクトリアさんのことをリア、と呼び捨てして、親しく話す。それをおじいちゃん執事も、メイドさんたちも一切咎めない。
ヴィクトリアさんも嬉しそうだ。
ヴィクトリアさんに冒険の話をねだられた姉ちゃんが、ちらりとおれの方を見たので、話し手はおれに交代して、苦労したモンスターの話をいくつか聞かせてあげる。
カメレオンとかナナフシとか、タヌキとかの、隠密系モンスターの話は、護衛騎士の二人が真剣な顔で聞き入っていて笑えた。
おじいちゃん執事は帰る前にさっきの魔物の話は作り話でしょうか? と聞いてきたので、本当にいる魔物ですと答えておいた。
その時に回復薬の代金ですと、金貨200枚を渡された。確かにあん時、並ライポを約300本、使ったけども、金貨200枚じゃ多すぎる。
おじいちゃん執事にハラグロ商会の回復薬の価格を教えると、これまでにないくらい表情が変化したので、逆にこっちが驚いた。
ライポ1本1000マッセはそれくらい衝撃の価格になるらしい。
刺客を倒した分も含めてあると思ってください、ということで金貨200枚を押し付けられた。断るのも難しいので、受け取るしかなかった。
御者さんに頼んで、宿ではなく、クレープ屋さんで降ろしてもらい、姉ちゃんとクレープを食べて町を歩く。
まだメフィスタルニアの町には、どこにも異変はないようだった。
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