光魔法の伝説(11)



 ゴーレム祭り6日目。


 朝から『おかわりゴーレムロード』を突破して、テツコの庭へ。


 姉ちゃんの意見によって、クワドラプルは今回封印する。だから、スラッシュからのカッターというツインで勝負する。別にランツェを混ぜてもいいけど、混ぜなくても、ツインの後にカッターのノックバックで距離を取れば、足の遅いゴーレム相手ならいくらでも仕切り直せる。ランツェの熟練度がまだ低くて、十分な追加ダメージが得られないというのも大きいんだけどな。


 そう考えたら、クワドラプルありきで考えてたおれは、頭が固かったんだなと改めて思い知った。


 冷静に計算し直して、ツインを使ってのおれと姉ちゃんのコンビネーションの確認をしていく。


 基本的なこととして、姉ちゃんの弓矢の射線を確保するため、おれはやや回り込んでテツコを相手取ることになる。

 そうすることでテツコと姉ちゃんの両方を視野に入れておけるのもいい。姉ちゃんの腕と判断力が上がれば、完全に背中を任せるのもアリかもしれないけどな。


 おれがスラッシュからカッターへと連続させるのはもうミスることはない。フフフ、レオンとはちがうのだよ、レオンとは!

 ま、カッターでテツコがノックバックしなかった時に、姉ちゃんからトライダンツの矢が飛ぶ。


 姉ちゃんのトライダンツでノックバックすれば一時離脱で姉ちゃんとアイコンタクトの後、そこから予備動作に必要な時間のタイミングを合わせてもう一度テツコへ挑めばいい。


 ノックバックなしなら、テツコから1撃喰らう。そうしたらテツコから離脱して、姉ちゃんに回復魔法をかけてもらって、3段ボックスからライポを取り出して飲む。


 そこからテツコを引きつけておいて、先に姉ちゃんが移動して、おれも移動する。入口側から神殿側へ。もしくは神殿側から入口側へ。姉ちゃんのポジションの安全を確保するためだ。

 まあ、おれがツインを使っている限り、テツコのタゲ取りがおれから外れることはないと思うけどな。


 テツコの庭の入口側に姉ちゃんのボックスミッツで、神殿側におれのボックスミッツで、それぞれ3段ボックスを設置しておく。特上ライポ、上ライポ、並ライポがそれぞれ100本以上入ってるから、ポーション不足になることはない。

 でも、ライポばっかりだけどな。マジポとスタポが早くほしい。素材の薬草はたんまりあるのに。


 ノックバックはだいたい6割くらいで取れる。半々の5割よりちょっとマシ、くらいだ。


「アインのカッターでノックバックしたらトライダンツはいらないけど、そのまま持ちつづけてクワドダンツにするのと、やりなおしてトライダンツにもどすのと、どっちがいい?」

「……ん~、やりなおしてもSP消費はあるもんなあ。2回連続でカッターのノックバックが起きたら、トライダンツ3回だとSP消費が計12、持ち続けてクワドダンツなら8か。トライダンツ使ってもどうせ1ダメだし、持ち続けてクワドダンツにしよう、姉ちゃん」


 セコいおれにはSP消費を抑えられる方がいい気がする。


「わかったわ」


 基本方針はだいたい決まった。きっちり安全マージンは取れたと思う。


 たぶん、姉ちゃんはこれまでのゴーレム祭りでレベルがまた上がっただろうしな。


 ツインでHPバーはだいたい17本とちょっとは削れる。1700ダメージってところか。本番は鍛冶神系支援魔法のバイアトを使うから、ツイン1回あたり30本近くは削れると思う。


 冷静にツインを7回、決めればいい。クリアできないゲームはない、と思う。だから倒せないボスモンスターもいない、はず。


 ただし、ゲームと違って、復活はない。安全マージン大事、いのちだいじに。


 帰りは入口近くの広場で日課となったガンゴ狩り。


 銅のつるぎがまた1本、折れた。

 ゴーレム相手だと、まるで木の枝で戦ってたあの頃のような感じだ。


 早く、いろいろな神殿を訪れて、上級や王級の魔法スキルを使えるようになりたい。

 せっかくレベル20を超えたのに、呪文を知らない多くの上級スキルはまだ使えないのだ。

 上級や王級のスキルが使えるようになれば魔法での殲滅がやりやすくなるからな。


 まずは古き神々の神殿から。

 特に! ああっ医薬神さまっっ! マジポとスタポの呪文をくださいませっっ!


 そんなことを考えながら、休息に入る。


 明日はいよいよ、テツコを、狩る。






 ゴーレム祭り7日目。


 いよいよ本番だ。

 これまでの成果をここで発揮する。


 おれと姉ちゃんは慣れた動きを最適化させてきた。

 各広場のゴーレムたちは、手順通り。ばっちり倒せる。


 途中も走って持久走状態。


 なんと、途中で一度もロックゴーレム……ガンゴにエンカウントすることなく、これまでの最速タイムを叩き出して走破した。それは初めてのことだった。頑張った、おれと姉ちゃん!


 とまあ、こんな感じであっさり『おかわりゴーレムロード』を突破して、『テツコの庭』へ。


 そこには、すっかり見慣れてしまった黒光りする大きなゴーレム、アイアンゴーレムがおれたちを待っていた。


『ボックスミッツ』


 姉ちゃんが3段ボックスを設置して弓矢をかまえ、トライダンツの予備動作を始める。


『われ力溢れる鍛冶神に乞い願う、我らの武具を作り上げるたくましき力を、バイアト』


 鍛冶神系支援魔法中級スキル・バイアトによって、おれはなんだか不思議な魔方陣にスキャンされていく。

 このエフェクト、かっこいいのか、かっこわりぃのか、なんとも言えない。

 まあ、とりあえず、これで1時間は筋力2倍だ。ムキムキのキン肉マンだ。ゴーファイトっ!


 おれは心の中で姉ちゃんのスキルが発動するタイミングをカウントダウンしながら、アイアンゴーレム……テツコへと歩み寄る。


 もちろん、テツコもずっしーーーんっっ、ずっしーーーんっっ、と近づいてきている。


 姉ちゃんの弓矢がダンツの光をまとう。


 今だ!


 タッパ操作で銅のつるぎを装備。


 鍛冶神系特殊魔法初級スキル・メンテシュシュで昨日のうちに残り全ての銅のつるぎの耐久値は回復させておいた。壊れたら……そん時はそん時だな。開き直るしかない。


 右、左、半円と予備動作をしながら、少しだけ回り込んでテツコに接近。


 右腕とともに伸ばした銅のつるぎがスラッシュの青白い光をまとう。


 まだテツコは、ボックスミッツとダンツのふたつのスキルを発動させた姉ちゃんの方を見ている。


 この隙を、突く。


 おれはテツコの左斜め横からスラッシュを左! 右! とぶちかます。そのまま頭上へと銅のつるぎを振り上げて、連続技を発動。


 スラッシュでダメージが入ったテツコは、おれへと黒光りする頭部を向けた。


 姉ちゃんの右腕が光をまとい、トライダンツの予備動作が完了した。


 全身がおれの方を向く前に、カッターを振り下ろしつつ半歩下がる。


 銅のつるぎの先端でテツコをとらえる。


 視界の中のHPバーの色がどんどん透明になって、枠線だけになっていく。


 ノックバックなし!

 頼むぜ! 姉ちゃんっ!


 テツコが右腕を振り上げながら身体の向きを変え始めたところで、姉ちゃんからのトライダンツの矢がテツコを弾き飛ばす。ノックバック発生! マジでラッキー!


 技後硬直が解けたおれはそのまま2歩下がる。


 ノックバック前の位置に戻ったテツコはぶうーーんっっと右腕を振るうけど、もちろん空振りだ。


 テツコのターゲットは1ダメの姉ちゃんではなく、ツインをぶちかましたおれに変わってる。ずっしーーーんっっ、とおれに近づく。


 姉ちゃんが次の矢をつがえて、弓矢を大きく持ち上げる。


 おれはさらに1歩、2歩と下がって、テツコと距離を取る。


 テツコはずっしーーーんっっ、ずっしーーーんっっと近づいてくる。


 姉ちゃんの弓矢にダンツの光が現れる。


 おれは半歩下がって、銅のつるぎを右、左、半円と動かし、スラッシュを準備する。


 ほんの少しのタメをつくって、テツコのずっしーーーんっっという踏み込みに合わせて、その懐へと飛び込む。


 左! 右! と銅のつるぎを振るって、HPバーを削っていく。そして、そのまま銅のつるぎを頭上へ振り上げる。


 ダメージは入っても何の痛痒も感じていない黒光りする頭部とそこに輝く赤い眼のような穴。鼻や口らしきものはない。そんなテツコはぐううぅぅんんっと左腕を振り上げる。


 テツコが左腕を振り下ろす前に、半歩下がりながらおれの銅のつるぎが振り下ろされる。カッターはぎりぎりテツコに届く。ぎりぎりかすめてもきっちりHPバーは削れていく。


 だけど、ノックバックなしで、おれはそのまま技後硬直に入る。


 テツコの左腕の振り下ろしはじめと、姉ちゃんのトライダンツの矢が同時だ。


 だが、ここでもノックバックなし。

 そのままテツコの左腕はおれの右肩あたりを痛撃した。


 技後硬直が解けて、おれは後退する。

 テツコは右腕を振り上げながらずっしーーーんっっと追ってくる。


 でも、すばやさが違うので、おれはテツコを置き去りにして、姉ちゃんのところへと走る。


『レラサ』


 おれが近づくと姉ちゃんが月の女神系単体型回復魔法初級スキル・レラサの光で回復してくれる。

 おれは姉ちゃんの3段ボックスから上ライポを取って、すぐに体にかけた。完全回復ではないけど、とりあえず十分な回復量だ。


 テツコはずっしーーーんっっ、ずっしーーーんっっとおれと姉ちゃんに近づいてくる。


「……いどうするわ」

「すぐに追いかける」

「あっちでまってるから」


 姉ちゃんが回り込んで、神殿側へと走っていく。

 姉ちゃんのボックスミッツの3段ボックスは設置した入口側にそのまま残る。

 おれも、ぎりぎりまでテツコを引きつけて、姉ちゃんの後を追う。


 神殿側に移動して、ずっしーーーんっっと歩いてくるテツコを確認する。HPバーはまだまだ残っている。


『ボックスミッツ』


 おれは神殿側に3段ボックスを設置した。


「次は特上かな。でも、まだ上でもイケるか……」

「こんなとこでケチケチしないで。アインってば本当にバカよね。ふざけてるわ」


 姉ちゃんにずばっと叱られた。ごめんなさい。


 テツコのHPバーは59本と60本目の7割くらいまで削れていた。それでもまだ100本以上、残っている。まだ先は長い。






 こんな感じでテツコとのボス戦は始まった。







 3回目のツインもノックバックなしで、姉ちゃんのトライダンツもノックバックなし。おれはテツコから一撃をもらって、回復と移動によって、再び入口側へ布陣する。


 4回目のツインは不発。カッターはできずに、スラッシュだけで銅のつるぎが折れて消えた。テツコはやっぱ固い。


 姉ちゃんの顔色が変わって、ダンツの矢が放たれる。ノックバックありだけど(小)効果だ。トライダンツの(中)効果より小さい。しかもスラッシュの技後硬直は2秒。


 おれは技後硬直中に1撃、技後硬直が解けて防御姿勢をとってもう1撃喰らい、後退する。


 走って戻ると、姉ちゃんがすんごい顔して『レラサ』をかけてくれた。おれは姉ちゃんの3段ボックスから特上ライポを自分に振りかける。


 そして、テツコを入口側に引きつけて、神殿側に移動する。


 神殿側で、おれの3段ボックスから上ライポを出して身体にかける。


「このままつづける?」

「もちろん。回復したし、大丈夫だよ、姉ちゃん。ただ、アタックの前にもう一回、入口側に移動しとこうか」

「……わかったわ」


 確かにピンチだったけど、きちんと対策通りに乗り越えた。問題なしのもーまんたいだ。

 本当に、クワドラプルを作戦から外して正解だったと思う。


 これなら勝てる。

 そう思った。






 入口側に移動して、5回目のチャレンジ。


 おれのツインが炸裂。

 スラッシュはもちろん、カッターでのノックバックが発生!


 姉ちゃんは矢を放たず、そのまま待機で。トライダンツがクワドダンツへと変わる。

 おれは後退して、テツコの腕は空振りした。


 HPバーは135本と136本目のちょっとだけ、削れてる。あと・・・57本か。


 イケる。

 そう確信する。

 自分を信じる。それが自信!


 おれはスラッシュの予備動作を終えて……。


 ……そういや、こいつの弱点、見えてねぇよな?


 そんなことを考えていた。






 そして……運命の6回目。


 テツコのずっしーーーんっっという踏み込みに合わせておれは飛び込んでいく。


 その瞬間、視界の隅に、違和感があった。何かが見えた。


 だからといって、このタイミングを失うワケにはいかない。テツコの踏み込みに合わせないと、こっちが先に殴れない。


 おれがそれを認識したのは、スラッシュを発動させる瞬間だった。


 脳内が急速に加速していく。

 見えたのは、ロックゴーレムの頭。


 音は、テツコ……アイアンゴーレムのずっしーーーんっっという音の中に、消されていたのか。


 この『おかわりゴーレムロード』のランダムエンカウンターであるロックゴーレム……ガンゴが坂を登ってきていた。


 ボス戦に? ランエンが入る? ありか? それ? あるのか? なんで?


 姉ちゃんは弓術系中級スキル・トライダンツを上級スキル・クワドダンツへと進めて、テツコとおれに集中していた。


 ガンゴにまったく気づいてない!


「姉ちゃん! 逃げろっっ!」


 おれは左! 右! と銅のつるぎを振るいながら叫んだ。スラッシュを決めて、そのまま銅のつるぎをカッターの予備動作として振り上げていく。


 視界の端で、姉ちゃんが視線を少し動かし、ガンゴを確認したのが見える。


 一瞬、姉ちゃんの黒の瞳が揺れる。これは完全に想定外の事態。おれと姉ちゃんの話に1度も出なかったパターンだった。


 でもそれは本当に一瞬のこと。

 姉ちゃんはその場に留まり、まっすぐテツコとおれに集中し、銅のつるぎだけを見る。


 ……だからっ! リーダーの指示に従えよっ! 姉ちゃんっっ!


 おれが半歩下がりながら銅のつるぎを振り下ろし、カッターをテツコにかすらせる。


 ツインは成功したが、ノックバックなし。ただ、HPバーはかなり削れている。


 姉ちゃんがクワドダンツの矢を放つ。

 テツコに姉ちゃんからの矢は命中するがノックバックはなし。まさに踏んだり蹴ったりだ。


 技後硬直が解けて一瞬で防御姿勢をとったおれに、テツコの1撃が入る。


 姉ちゃんはまだ技後硬直中。クワドダンツの技後硬直は4秒!


 ガンゴが坂を登ってくる。


 早く、早くっ、早くっっ、早くぅっっっ!!


 だが、おれの願いは届かず、姉ちゃんの技後硬直が解ける前に、ガンゴはテツコの庭へと入った。


 そして、技後硬直が解けたと同時に、ガンゴの腕が姉ちゃんをぶん殴った。






 ここで冷静だったら、あと1回のツインでテツコは終わると気づけたはずだった。


 でも、姉ちゃんがガンゴの1撃もらって冷静でいられるほど、おれはクールに戦えない。


 そして、おれは重大な選択ミスをする。


「姉ちゃんっっ!」


 おれは迷わず姉ちゃんへと駆け出していたのだ。

 殴られた姉ちゃんはガンゴから逃げるように走り出していた。


 だから、ほうっておいても、ごくフツーに逃げられたはずだ。そうやってここ数日、おれと姉ちゃんはゴーレムをスピードで圧倒してきた。スピードで圧倒して、とっとと倒す。ゴーレムに余計なことはさせないように。それがゴーレム狩りだ。


 その場で仁王立ちになったテツコが大きく胸を張り、両腕を天へ突き出すように高く上げる。


 しまった、と思った時にはもう遅い。おれはテツコとも、ガンゴとも、姉ちゃんとも、どこからも中途半端な位置にいた。


 その動きは、テツコの範囲攻撃。


 技後硬直が解けてすぐ、1歩、2歩下がってスラッシュの予備動作をしていたら。


 テツコが腕を振り下ろす前におれがツインをぶちかまして終わっていたのだ。


 テツコが膝を折り、両腕を大地にぶちかます!


 ドッガーーーーーーンっっっっっ!


 局地的な地震のような破壊音に、おれの自信も打ち破られる。


 ガンゴを置き去りにして逃げた姉ちゃんと。

 その姉ちゃんへと近づいたおれ。

 おれたち二人をその効果範囲にきっちりおさめて、テツコは範囲攻撃を炸裂させた。


 飛んできたいくつもの石がおれと姉ちゃんを襲う。


 おれは石に打たれてバランスを崩して膝をつく。姉ちゃんも転んでいた。


 ダメージはそこまで喰らってない。慌てて立ち上がるが……動きが、少し鈍い。


 ……すばやさ低下デバフっ!


 テツコも含めてゴーレムは地の神系範囲型攻撃魔法スキルと同じ効果がある範囲攻撃を持つ。


 やられた……。


 姉ちゃんが立ちあがって、ガンゴから逃げる。だが、さっきまでと違って、ほんの少しずつ、追ってくるガンゴとの差が詰まっている。


 おれはステ値の関係で、そこまでゴーレムより遅くなったワケではないようだ。


 どうする? どうする? どうする? どうすればいい?


 テツコは立ち上がり、ずっしーーーんっっとおれを目指す。

 ガンゴは姉ちゃんを追って、ずっしーーんっ、ずっしーーんっと移動している。


 神殿側の3段ボックスまで逃げ切れたら、姉ちゃんは回復できる。だけどそれまでにガンゴの手が届きそうだ。


 おれが姉ちゃんに近づいてレラシを使うのは……間に合わないかもしれない。リソトサクルクリンネスでのデバフ解除も近づかないとダメ……リソトギガンサクルテラクリンネスなら届くかも、だけど、こんなとっさにあの呪文は使えねぇ! 絶対噛む! 噛みまくるっ! まだ詠唱省略まで熟練度上げてねぇし!


 ……お、落ち着け。落ち着け、おれ。


 テツコを見る。おでこ、肩、みぞおち……弱点を示す文字はない。


 そんじゃ、まずは、ガンゴのタゲ取りから。あいつを姉ちゃんからこっちに釣り上げないと!


『ザルツリ』


 おれの風の神系魔法がガンゴへと飛ぶ。


『ザルツラ』


 2発目も、ガンゴへ。


 姉ちゃんを追いかけていたガンゴが、一度止まって、魔法でダメージを与えたおれの方を向いた。


 これで姉ちゃんの安全は確保。タゲ取り完了。

 でも、おれがテツコとガンゴに挟み撃ちされるけどな!


「アインっっ!」


 姉ちゃんの叫び。叫びが聞こえるってことは姉ちゃんが生きてるってこと。姉ちゃんが生きてるって素晴らしい。


「姉ちゃんはライポで回復っっ! 急いでっ!」


 今度こそ、おれの指示に従ってくれ!


 とりあえず、もう仕方がない……。


 おれは姉ちゃんに秘密がバレるのを諦めて、アイテムストレージから特上ライポを取り出し、自分にかける。あとで、実はポッケに入れてたんだよ~、とか、できるだけごまかそう。とにかく今は回復しとかないと、マジでやべぇし。


 テツコはもう目前。ガンゴもあと3歩か。


 おれは姿勢を低くして、まっすぐテツコを見た。


 思い出すのは前世の中学生の頃に見た、ゲーム『レオン・ド・バラッドの伝説』のプレー動画。『間諜殺』とか、『スパイアサシン』とか呼ばれて、再生回数が3000万回を超えたという伝説の爆笑プレー動画。


 やるしかない!


 タッパ操作で銅のつるぎを収納する。


 テツコは目の前で腕を振り上げ、ガンゴはあと1歩半の位置。


 おれは、ゴーレムによる踏み潰しの危険を覚悟して、テツコの股下へと飛び込んだ。野球のヘッドスライディングのように。


 飛び込む瞬間、こっちに走り出す姉ちゃんが見えた。だから、来るなっての……。


 そして、おれはすぐに身体をぐるりとひねって、仰向けになり、左腕を伸ばす。


 テツコの振り回した腕は空振りしていた。


 おれの目の前には、テツコのケツ。

 そう。テツコのおしりだ。まったくセクシーさのカケラもない、真っ黒なテツのケツ。まさに鉄血!


 そして、そこに、弱点を示す文字が浮かび上がっている。他の部位にはなかったからな。HPの2割はとっくに削ったはずなのに。


『ソルミ』


 おれの2本の指はテツコのケツに刺さるかのような、まるで浣腸するかのような位置で、うねる光を放った。


 カモンっ! ミラクルっっ!


 うねる光が、弱点の文字ごと、テツコを貫いていく。


 届け!


 太陽神系貫通型攻撃魔法スキルの即死効果は、弱点を狙えば確率が上がる。


 だが、テツコはまだ消えない。まだ足りない!

 そんなにおかわりがほしいかっっ!


『ソルマ』


 おれはさらにテツコのケツに、太陽神系貫通型攻撃魔法を突っ込んだ!


 テツコの動きが停止し、輝き始める。

 そして、その光は細かく、粉々になっていき……そして、飛び散っていく。


 ボス消滅エフェクトっっ!


 同時に何かがドロップしたが、眩しくてよく見えなかった。


 よっしゃあっっ! ミラクル、キターーーーーーっっ! ソルマの即死効果ぁぁーーーっ!


 これぞ『浣腸殺』! あ、間違った『間諜殺』だった。

 ゴーレムをHP2割削って、弱点がおしりに出た時、まるで浣腸を刺すように太陽神系貫通型魔法でとどめを刺すという、究極のおふざけプレー動画。

 最初に公開された動画は果てしなく再生され、後追い動画が繰り返し作られたという一品。


 ゲーム『レオン・ド・バラッドの伝説』のプレー動画であのサワタリ氏の連続技秘伝講座よりも多く再生され、それ以降再生回数でトップを譲ったことがないという、まさに伝説の動画だ!


「アインっっ!」


 再度、姉ちゃんからの叫び。危険が近いらしい。


 ……いや、今は動画の話をしてる場合じゃねぇか。もうひとつ、ワケわかんねぇ割り込み野郎がいたよな。


『リソトサクルクリンネス』


 おれは水の女神系魔法スキルで自分自身を洗浄、浄化して、すばやさ低下デバフを打ち消す。


 踏み潰しにきたガンゴの足を、おれは後転しながら立ち上がってかわし、そのままバックステップでガンゴと距離を取る。


 ……そういや、こいつ、姉ちゃんを殴ったよな? 姉ちゃんだぞ? おれの大事な姉ちゃんだぞ? おまえ殴ったな? 確かにやりやがったな?

 コロぉぉすっっ! ひとかけらもこの世に残さず消滅させるっ! 死ねっっっっ!


 おれは、タタンっとステップを踏むと、両手をついて身体を反転させ、そこからバック転、そして、さらに飛び上がる。


 後方宙返りに2分の1ひねりを加えながら、おれの全身が青白い光に包まれる中、タッパ操作で銅のつるぎを装備。


 ひねりに合わせて銅のつるぎを右へ動かし、さらに頭上へ。


 ガンゴの振り上げた腕が見えたが、そのガンゴの腕ごと、全身全霊をかけた体術系中級スキル・ガンバからの剣術系初級スキル・カッターをぶちかます。まだバイアトの効果も続いてる。だからこれはおれができる最大の攻撃のひとつだ。


 ガンゴは一瞬で消えて、そこに銀の延べ板がふたつ落ちた。


 ……ふっ。またつまらぬものを消し去ってしまった。


 おれはガンゴのドロップした銀の延べ板をストレージに回収すると、そういや、テツコもなんか落としてたよな、と足元を確認した。


 そこにはでっかい金色の塊がきらきらと輝くエフェクトを散らしながら、でっでーーーんっとその存在を主張していた。しかも5つもっっっっっ!!!!!


 き、金のインゴット、だと? フィールドボスとはいえ、たかがアイアンゴーレムで? しかもこの数何? 聞いたことねぇんだけどな? 何コレ? なんなの?


 おれは呆然と、5つの金のインゴットを見下ろす。


 確かに、太陽神系魔法でとどめを刺すと、ドロップ率はアップするというのはよく知られている。


 しかし、これは……。






 ちょっとソルマさん、どんだけ仕事してくれてんですかーーーーーっっ!


 おれは欲望をくすぐる魅惑の光を放つ金塊を前にして、心の中でそう叫ぶのだった。





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