光魔法の伝説(8)
とりあえず、この『はじまりの村』で予定していた資金の何倍もの金貨をストレージにおさめて、おれは道具屋で予備の装備と物品を買い足していく。
例えば、銅のつるぎを10本とか。鉄の槍を10本とか。旅人の服を10着とか。
父ちゃんの銅のつるぎは、腰に吊るしてる。でも、基本、使わない。ストレージに入れた武器をタッパ操作で装備して使う。父ちゃんの銅のつるぎは見せ武器で……というか、はっきり言えば形見なので使わないな。使うといつか破損して消滅するし。
旅人の服は防具補正30の防具だ。すばやさの低下や筋力による着用制限がないので初心者、初級者にはとてもいい装備だ。
実際に着用すると、ポーションポケットはいくつもあって、いくつも入れておけるし、腰紐は革のベルトで剣を吊るすのにちょうどいいし、両肩には大剣などの大きな武器を背負うための引っ掛けとなる輪っかもついてる。しかもサイズはどれを買ってもオートアジャスト機能付き。すげぇよな、ゲーム的世界のあり方って。意味わかんねぇし。
ここの道具屋で買える装備を予備も含めて揃えても、お金にはまだ余裕がある。別に慎重にやろうってんじゃねぇからな? いや慎重だけど、ごく普通のレベルで、だから! あくまでも!
鍛冶神系魔法スキルにあるメンテシュシュはある武器に一度しかかけられない。この世界の武器防具は全ていつか必ず壊れる。例外を除いて……。
だから予備の武器は慎重なプレーヤーでなくても必要なんだよな。
ちなみに、たくさん売れた道具屋のおっさんはご機嫌だった。
姉ちゃんの槍術系スキルの熟練度上げと、経験値稼ぎで森に行くのは変わらない。
森から戻ると、アンネさんのところを訪ねる。そのまま、アンネさんからいろいろと教えてもらう。社会常識、というか、身を守る術、というか、そういう感じのものだ。
宿屋の部屋にはサルどもの骨が溜まってきたけど、道具屋のおっさんは買取をしないと言っていたので残念だ。
肉は宿屋と道具屋の両方で売ってる。道具屋は30マッセ、宿屋は35マッセだ。あくまでも姉ちゃんの熟練度上げで狩るツノうさから出る並肉だけどな。
道具屋のおっさん、おれが宿屋のおかみさんに35マッセで卸してんのは渋い顔してっけどな!
そして、姉ちゃんの熟練度上げもとりあえずこれくらいは、という段階に達したところで、宿の部屋は押さえたままにして、遠出をする。
この『はじまりの村』の北東にある、遺跡へ。
ゲーム『レオン・ド・バラッドの伝説』では、学園を卒業した後でなければ立ち入れないマップエリアだ。ちなみにその時には、『はじまりの村』は滅びた村としての破壊された村がマップにあり、モンスターもポップする。
だが、『聖者の指輪』が入手できたことから考えても、この世界ではそういう行動制限はたぶん受けずに移動できる。
どちらかというと、もっと南部で国境をまたぐような移動をする場合に、こっちの世界ではゲームよりも面倒なことがいろいろとありそうな感じだった。アンネさんの話を聞く限りは……。
今回の目標はその遺跡……古き神々の古代神殿での呪文が書かれた石版の入手だ。
おれが覚えてて、必要レベルや格下の魔法スキルの熟練度など、解放条件が合えば使える魔法スキルはもうない。
呪文詠唱で魔法スキルが生えてくるのは洗礼までの間だ。
洗礼を受けたら、それまでに身に付けたスキルは全て残るが、それ以降はジョブスキルしか身に付かないし、熟練度も上がらない。
だから、剣術、盾術、太陽神系魔法、月の女神系魔法と四つのスキル系統がジョブスキルとして伸びる『勇者』や、全ての魔法スキルが伸びる上に複合魔法スキルが生える『賢者』とか、弓術、月の女神系魔法、水の女神系魔法、風の神系魔法が伸びる『聖女』など、複数のスキルが洗礼後も生えるジョブを多くのプレーヤーは求めた。
洗礼を受けるとジョブスキルだけになるのなら、ゲームでの順序に関係なく、いくつかの神殿には訪れて石版を入手し、洗礼前に呪文を手に入れてスキルを生やしておきたい。
ただし、そこのモンスターはいろいろと強力なのもいるので、安全マージンをどうやって確保するのかというのは大きな課題がある。その分、姉ちゃんだけでなく、おれもレベルアップを狙えるけどな。
まあ、古き神々の古代神殿は中央の菱形のスペースが安全地帯で、創造の女神アトレーの神像が祀られた社があるので、雨風は凌げるし、休息は取れる、はずだけど……。
実際に移動してみて、どれくらいの期間がかかるかはわからない。でも、アイテムストレージとボックスミッツのお陰で食糧に困ることはまずない。
それでも、なんとか冬になる前には、『はじまりの村』まで戻りたいんだけどな。
見送りをしてくれたレオンとアンネさんと宿屋のおかみさんに手を振って、おれと姉ちゃんは『はじまりの村』の北門を離れる。
そのまま北東方向へと草原を進むと、すぐ森にぶつかるが、森へは入らずに森にそって東へ移動していく。ツノうさに遭遇しても手出しはせずにスルーする。するするスルー。アクティブモンスターのクロウラットは姉ちゃんが槍カッターで一撃殺。
5時間くらい歩くと、幅10mくらいの森の切れ目へとたどり着く。ここだけ、まるで道のように森の木々が空間をつくってくれている。ゲームでは存在していた砦が今ここにはない。ひょっとしたらこの先、魔族や魔物の襲撃を警戒して造られるのかもしれないな。
「こんなところがあるんだ?」
「とりあえず、ここを行くよ、姉ちゃん」
「はいはい」
何か言いたそうな姉ちゃんだったけど、何も言わない。
まあ、言いたいことは、なんで知ってるのか、ということだろうけどな。
聞かれたら? そりゃ、『はじまりの村』の村長さんに教えてもらったって言い訳すっけどさ。もちろんそれは嘘だけどな。
もう、そういうのは姉ちゃんにはあきらめてもらいたい。
いっそ、神々からの啓示とでも言っておく方がいいのかもしれない。
道中はツノうさやクロウラットが複数ポップする狩場だった。
複数はちょっと面倒だから、ツノうさはやっぱりスルー。クロウラットはスルーしたらトレインするので、一度クロウラットに遭遇したらスルーしてトレインしつつ、その後の狩場5つ分くらいのクロウラットとツノうさを一気に範囲攻撃魔法で狩る。
もう、おれも姉ちゃんもこいつらじゃ経験値が入らねぇから、せめてリポップの牙とか肉は確保したい。
実は火の神系魔法は攻撃力が高くてダメージは多く与えられるけど、アイテムドロップ率は下がる。
逆に太陽神系魔法は少しだけだけど、アイテムリポップ率を上げてくれる。姉ちゃんの経験値にはならないから、おれが太陽神系魔法でまとめて狩る。
ドロップした並肉は『はじまりの村』に戻って売る。おれと姉ちゃんの食事にはフォレボやバンビからドロップした上肉を焼いて食べる。
火を起こすのはおれで、焼くのは姉ちゃんだ。おれが焼くよりも姉ちゃんが焼く方がなぜだかうまい。不思議だ。思い込みかもしれないけどな。
両脇の森ではフォレボやバンビがやはり複数でポップする。これも経験値としてはもう意味がなく、いちいち狩るのも面倒なので、野営地点の近くだけはおれが太陽神系魔法で両サイドの森の中を狩る。手に入れた上肉はその一部をおなかの中へ。
なんか、次のレベルアップではまた魔力優先でステ値が伸びそうな予感がするな。
そんな道中の5日目、昼ごろ。
タッパの表示が急に赤くなったので、姉ちゃんの手を引っ張って森へと入る。
たぶん、ランダムエンカウンターだ。一定の狩場にリポップするのではなく、うろうろしてるモンスター。プレーヤーだけが狩人ではない。モンスターにも狩人はいる、ということだろう。
「モンスター?」
「たぶんな」
おれと姉ちゃんは樹の陰から覗き見る。
影だけが、見えてきた。
その影がだんだんと大きくなり、ぶわぁさっという音とともに、でっかい鳥が着地した。広げた翼の端から端までが3から4mくらいはあるだろうか? きょろきょろしてやがる。
……ストライクイーグル! 通称『でっ怪鳥』だ。HP400クラスのモンスター。モブモンスターのランクとしてはクソアス……フォルテベアスより上だ。
「お、大きい鳥だわ……」
「狩るよ、姉ちゃん」
「ええ……?」
姉ちゃんはちょっとためらっているらしい。
「弓矢の準備」
「やるの?」
「二人でダンツ、外してもよし。そっから飛び出して距離を詰めたらドウマラ。あいつが飛んだら姉ちゃんは防御姿勢で、おれが魔法勝負でいくから」
「わ、わかったわ」
姉ちゃんが弓矢の準備を始める。『はじまりの村』で買った衛士の弓だ。もうバルドさんたちの猟師の弓は武器補正の関係でいらない。捨てたりはしないけどな。
おれも衛士の弓を準備して矢をつがえると、姉ちゃんとアイコンタクトをとって、弓矢を一度高く上げてから引き分けていき、口の高さで止める。
おれたちの攻撃動作で、でっ怪鳥がおれたちの位置に気づく。そして、たたたっと足を動かしつつ翼を広げて、大地と平行に飛ぶ。なんであんなサイズであんなちょっとだけの助走で飛べるのかは謎。
しかし、残念ながら森の木々に邪魔され、おれたちを攻撃できずにそのままUターンしていく。
風が心地いいんだけど、姉ちゃんはちょっと青くなってるみたい。けっこー強いよな、風。
口元で止めて3秒でダンツの青白い光が弓矢を包む。
「はやすぎて当てられないわっ!」
「外してもいいって!」
おれは姉ちゃんにそう言うと先に矢を放つ。
姉ちゃんもおれに続いた。
でっ怪鳥はサイズに似合わず動きが速い。おれたちの矢は二本とも外れた。まあ、当然だな。
そのまま森を飛び出し、対峙する。
「おれが使ったら姉ちゃんも続けよ!」
そう言って、でっ怪鳥との距離をはかる。なんでこんな低空でこんな速く飛べるのかは謎だ。
距離20mを切っても、おれは武器を出さない。姉ちゃんはボックスミッツを発動させて、弓矢を槍と換えている。防御姿勢をとるためだ。タッパが使えりゃ一瞬なんだけどな。
カウントダウンをする暇などなく接近してくるでっ怪鳥。
この速さはもう感覚的に距離を判断するしかない。
『ドウマラ』
「っ……『ドウマラ』っ」
おれにほんの少し遅れて、姉ちゃんもドウマラを発動させる。
2個の石が、こっちに向かってくるでっ怪鳥へと飛んだ。距離の目算は無事成功。
おれのドウマラの石が直撃するが、そのままでっ怪鳥の足爪がおれに向けられる。その足爪がおれに届く直前で、姉ちゃんのドウマラの石が直撃。
ポンっとでっ怪鳥は消えてなくなり、何枚もの羽がふわりと浮かんで、ゆらゆらと大地へ落ちていく。
「え……?」
槍をかまえようとしたまま、姉ちゃんがちょっと間抜けな顔をしていた。「……えっ?」
あまりにもあっさりとした終わり方だったもんだから、戸惑ってんだろうな。
最初のダンツはあくまでもはっきりと敵対するため。
ストライクイーグル……でっ怪鳥は、すばやさが高い一撃離脱型の面倒なモンスターだ。こっちの攻撃を喰らうと逃走するタイプ。だから矢は外れていい、というか外すべき。
まあ、今のでっ怪鳥のすばやさと、おれたちの器用さでは、到底当てられないとは思うけどな。でも、逃がすと意味がないので、まずはっきりと弓矢でヘイトをとる。
そんで、当たるかどうかわかんねぇ物理じゃなくて、必中の魔法スキル、しかも弱点属性の土で攻撃する。
おれのドウマラで一撃じゃなかったんだから、姉ちゃんのドウマラがなかったら一撃喰らってたな。
まあ、その場合、至近距離からのソルマぐらいでケリはついたと思うけど。
おれは10枚以上ある鳥の羽を回収する。
この羽と、サルの骨と、牙で、矢が作れる。ただし、鍛冶神系魔法スキルが必要になるけど。少なくともストレージ分の999個はそれぞれ回収しときたい。
「こんな、かんたんなの? あんなに大きいのに?」
「簡単ってワケでもないけどな。あいつは土が弱点だから、ドウマラがあればなんとか戦えるから。でも羽だけかあ。特上肉もほしかったなあ」
「弱点?」
「モンスターの中にはある種類の魔法が弱点になってるのがけっこーいるんだよ、姉ちゃん」
「……アインは、はじめて見たモンスターにくわしすぎるわ」
「そりゃ、姉ちゃんとちがって、子どもの頃からたっくさん本を読んできたからな~」
これで、たいていのことはごまかせる、はず。
姉ちゃんは、おれが子どもの頃から村長さんのところでたくさんのものを読んでいることを知っているし、しかも姉ちゃん自身は読み書きができないのでその真偽を確かめられないからな。
「……あたしも、読めるようにならないとダメだわ」
「まあ、今はそれどころじゃないけどな」
「そうね」
あっさりと勉強をあきらめる姉ちゃんもかっけー。
おれの予想じゃ、今ので姉ちゃんはレベルアップしたはずだ。
ストライクイーグルはイビルボアよりも経験値が高い。『はじまりの村』で活動した何日かで稼いだ経験値もあるから、一気に2つくらい上がったかもしれない。
これもタッパが使えれば……いや、姉ちゃんには使えたとしても読めないからダメか。
ランダムエンカウンターは狩場でリポップするモンスターよりも強いのがフツーだ。
だけど、格としてイビルボアよりも上のモンスターがランダムエンカウンターとして出てきたということは、この先のモンスターの狩場はここまでよりも格上になるということだろうと思う。
油断はできないけど、レベルアップにつながる強敵はありがたい。HP400クラスはレベル25まで、HP500クラスはレベル30まで経験値が入るからな。
でっ怪鳥とのエンカウントを終えてすぐ、森が途切れて、草原が広がっていた。
まるで、モンスターの生息区域が変わることを親切に教えてくれているようだった。
さて、草原に見えるこの新たなステージ。実は湿地が混在している。
ノンアクティブモンスターとして、ラージランスラビトとエクスプレスバンビ。アクティブモンスターとしてジャイアントフログが出てくる。どれもHP300クラスだ。ランダムエンカウンターはストライクイーグルでHP400クラスだ。
経験値的には姉ちゃんにとってはアリ。でも、おれにとってはナシ。おれにはストライクイーグルだけだろう。姉ちゃんのレベル上げもしたいけど、安全地帯があるワケでもないので、苦しいところ。
ラージランスラビト……通称『でかうさ』は弱点属性がないので、戦闘が物理よりになって面倒だからスルー。ノンアクティブだし、ツノうさと同じでドロップが並肉だからな。ツノうさのでっかいヤツだし。
エクスプレスバンビ……通称『インパラ』は、火が弱点。
特上肉をドロップするので狩りたいんだけど、火の神系魔法で狩るとドロップ率が下がる。
あと、すばやさが高くてめっちゃ速い。しかも逃走癖があるから、一撃離脱で戦いつつ、自分が攻撃を受けたら逃げに入りやがる。ジグザグの動きの速さがバンビの比じゃねぇから大変。
これもノンアクティブだから、基本はスルーしておく。
このノンアクティブふたつは、夕方、休息前に近くの狩場にいたら勝負する。そん時の残りSP次第かな。こいつらを片っ端から狩っていくと進むペースが落ちる。
ストライクイーグル……でっ怪鳥は、羽がたくさん取れるから狩る。姉ちゃんもドウマラ使えるし、一発ずつで狩れるってのは美味しい。運が良ければ特上肉のドロップもあるしな。
ジャイアントフログ……通称『カエル』だ。まんまだな、通称。こいつ、アクティブだから狩場に入れば襲ってくる。
口からの水鉄砲みたいな中距離攻撃は魔法攻撃扱いで物理防御じゃなくて魔法防御で計算される。
水の女神系攻撃魔法リソトラと同じくらいの攻撃力があるのにリソトラを身につけてても耐性によるダメージカットがないので困る。
また、近距離になると舌を伸ばして巻き付けてからのジャンピングプレス。
一度捕まると誰かが攻撃を加えなきゃ逃げられないので、それまでは繰り返しプレスされる。まあ、ソロじゃなくて姉ちゃんとのペアだからそこはそれほど問題ない。もーまんたいだ。
そんで、弱点は土。ただし、でっ怪鳥とちがって、おれのドウマラだと1発で決まるから、姉ちゃんが先に使わないと経験値的にダメだ。
まあ、でっ怪鳥やインパラみたいな速さはないからなんとかなるけどな。狩る相手としてトータルでもーまんたいの楽勝。
でっ怪鳥もドウマラ、カエルもドウマラで、使うのドウマラばっかで他の熟練度上げが進まないけど、安全マージンとしてのドウマラなのではそこを変えたくない。
とにかく、次のステージを目指してドウマラ唱えて北東へと進む。でっ怪鳥の夜襲はないので、それで野営はとても助かってる。
夕方の訓練では、姉ちゃんに剣術系上級スキル・トライデルが発動できるかどうか、木の枝を使っておれをターゲットにして練習させる。そろそろレベル15になるんじゃないかと思ったからだ。
とりあえず剣術系でトライデルの予備動作を覚えておけば、槍術では腰の高さに槍をかまえて同じ予備動作をするだけだからな。槍術優先とはいえ、剣術の上級スキルが生えること自体は大事。熟練度は槍術をこの先上げていけばいいだけだ。
3日後、草がほとんど生えていない荒れ地と砂漠が広がる地形に突入。モンスターの生息域が変化していく。
ランダムエンカウンターはストライクイーグル……でっ怪鳥で変わらず。
ノンアクティブモンスターがジャイアントイグアナ、通称『イグアナ』。これもまんまだ。
アクティブモンスターが、ガイアルカメレオールとサンドゴーレム。でっ怪鳥もアクティブなので、アクティブモンスターの比率が上がった。どれもHP400クラスだ。
まあ、イグアナは無視。スルーだ。害がないからな。
問題なのはガイアルカメレオール……通称『ニンジャ』は、隠密系のアクティブモンスターで、実はタッパの表示で事前に確認できない厄介な害虫だ。
景色に溶け込んでやがるからな、このカメレオン野郎は。虫じゃねぇけどな。爬虫類だけど! めっちゃ有害! 攻撃を受けてはじめてタッパが赤い表示になるから! 油断してなくても厳しい!
しかも初手は必ず舌を伸ばしての巻きつきからの噛みつき!
魔法の弱点属性が特にないから物理攻めだ。
いきなり先制攻撃を受けて、巻ついてくる舌をかわせなかったら、おれか姉ちゃんのどっちかが一度捕まって噛みつかれて、残った方が攻撃を加えて退治アンド救出。
おれの剣カッターや剣スラッシュとかならもちろん一撃だから、おれは一撃で決められるスキルの中で熟練度を上げたいものを選んでぶちこめばいい。
姉ちゃんの場合は、槍ツイン……スラッシュからカッターへの連続技でもまだHP400を削り切れない。
剣の方が熟練度は高いので、剣なら一撃でイケるけど、いちいち持ち替えてるヒマはないし、この先、熟練度を上げていきたいのは槍だからな。
舌から解放されたおれがとどめを刺すという方針で進む。ツインで戦ってりゃ、そのうちスラッシュとカッターの熟練度が上がって、レベルも上がって一撃になるだろ、たぶん。
ほぼ必ず一撃喰らうからな。ホント、害あるカメレオンだな、こいつは。
ま、月の女神系回復魔法スキルの熟練度上げだと思うしかないけど。ただし、残りSPの関係で、ニンジャとの絡みが増えた日は早目に休息を取ることになるから、進度が下がる。
「今日は、4回、かまれたわ……」
「おれ、6回だよ、姉ちゃん……」
二人で夕方にはそんなことを言い合ってため息をつく。しょうがねぇけどな。
サンドゴーレムは、最弱のゴーレム。
ゴーレムの割に物理防御はそれほどでもない。いや、もちろんその他の同格モンスターよりは高いけどな?
そんで弱点は風。あと、ありがたいことに、すばやさが同格のモンスターに比べて低い。
ただし、両腕を振り上げる予備動作から地面を叩きつけると、地の神系範囲型攻撃魔法ドウマガンとほぼ同じ効果の、範囲攻撃をしてくる。
サンドゴーレムの立ち位置を中心とする半径5m円状にダメージを与え、低確率ですばやさ低下小デバフ付き、だ。
接近戦を挑んでいた場合に、予備動作に反応したらぎりぎり逃げられる。ただ、逃げ遅れてダメージを受けるのまではまだいいが、すばやさ低下小デバフはけっこー面倒になる。
まあ、ゴーレム系モンスターはHPを2割削ると、弱点に文字が浮かんでくる。
おでこ、左右どちらかの肩、みぞおち、おしりの5か所のうちのどこかに。弱点への物理攻撃はダメージ1.5倍だ。
ちなみに太陽神系貫通型攻撃魔法で弱点をぶち抜くと、かなりの確率で即死させることができる。死ぬって表現が適切かどうかはわかんねぇけどな。わかんねぇけども。
ゴーレム戦はここで慣れておく必要があるから頑張らないと。
あと、たま~に、鉄のインゴットをドロップする。ホント、たま~にだけど。
基本は、風の神系単体型攻撃魔法初級スキル・ザルツラをおれと姉ちゃんがそれぞれ1発ずつ使えば倒せる。弱点属性マジ感謝。いろいろな魔法スキルが使えるからこそできるイージーモードではある。
でも、ここから先、ランク上のゴーレムが出るのはわかってるので、イージーモードだけではなくやっとく必要もある。
姉ちゃんが接近戦で槍の先制攻撃、しかも連続技のツインを決めればたぶん倒せる。でも、予備動作で連続技をミスると、スラッシュだけではまだ倒せないから、1発喰らう。
ゴーレムの攻撃力はけっこー高いから、姉ちゃんにはまだ接近戦をさせたくない。特にガイアルカメレオールでダメージを受けた後とか、絶対に嫌だ。
そんなことを試しにやってみて姉ちゃんが死んだら……おれ、たぶんその場で自殺するな……。
おれのレベルと熟練度なら、剣術系と体術系なら今使えるほとんどのスキルで一撃だ。でも、それじゃ訓練としての意味は薄い。
訓練は、一日の後半、午後からのサンドゴーレム戦は、姉ちゃん弓矢と風の神系魔法で後衛、おれが前衛で接近戦をしながら、弱点の文字が浮かべば太陽神系貫通型魔法スキルで即死チャレンジをする、というもの。
サンドゴーレムは動きが遅く、しかも体長4mとけっこーでかいので、姉ちゃんはかなりの確率で弓術系初級スキル・ダンツや中級スキル・トライダンツをうまく当てている。この先の、ストーンゴーレムやロックゴーレムでも、しっかり訓練を重ねたい。
ちなみに弱点にソルマやソルミを貫通させてサンドゴーレムを即死……即死というのが正しいのかどうかはわかんねぇけどな、と何度も言うけどさ……させると、たま~にドロップする鉄のインゴットが、意外とドロップする! びっくりだ! 太陽神系魔法のドロップ率上昇効果だと思う。ありがとう太陽神ソル様!
3日後には、荒れ地よりも砂漠の割合が増えてきて、サンドゴーレムの2体ポップが始まった。
姉ちゃんがトライダンツを決めた方を先におれがスラッシュやトライデルで片付けて、1体にしてからは訓練開始。
ちなみに午前中は、左の1番に姉ちゃんがザルツリ、右の2番におれがザルツリ、続けて左の1番におれがザルツラ、右の2番に姉ちゃんがザルツラ、という風の神系魔法スキル4発でとっととサンドゴーレム2体を片付けている。
「この砂のヤツって、風魔法なら楽勝だわ」
「砂以外も出てくるからな」
「へえ。風魔法だけじゃ倒せないの?」
「倒せないかも。倒せるかもしれないけど、やってみないと」
「訓練の意味は?」
「すぐにわかるって」
またそうやって秘密にするんだわ、と姉ちゃんがちょっとすねる。すねる姉ちゃんもかわいいと思うおれはやっぱり姉スキーだな。
姉ちゃんが剣術系上級スキル・トライデルを夕方の訓練で発動させてレベル15になったと確認できた、その次の日に、荒れ地と砂漠の果てにある謎の断崖絶壁、まあ、表現するなら、あれだ、グランドキャニオン? あれみたいな地形にたどりついて、そこに幅15mくらいの断崖絶壁に挟まれた通路みたいな道があるところを発見した。いや、ゲームであるのは知ってたけどさ。
これが古き神々の神殿への参道。通称『おかわりゴーレムロード』である。
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