光魔法の伝説(4)
さて、今日からは姉ちゃんとの二人組。ペアプレーだ。
相手モンスターが1体なら、クールタイムスイッチ。技後硬直のタイミングをずらして攻撃することで被ダメを避けて減らすのが基本戦術。
……とはいっても、もはやこの辺ではレベル限界の10に到達してるので、森の奥まで入ってフォルテディアー、フォルテベアス、ファミリーモンキーぐらいでないと、熟練度上げしかできない。
姉ちゃんは槍術スキルの熟練度上げが必要だけどな。
行きは、クロウラットやフォルテウルフなどのアクティブモンスター以外はスルーで。姉ちゃんは不満そうだったけど、スルーで。
アクティブモンスターについてはトレインしたら面倒なのでその場で処理する。クロウラットなんかは物理の通常攻撃で一撃だからいいとして、フォルテウルフ……通称『群れイヌ』はその数次第で範囲攻撃魔法も利用して狩る。
奥まで入って、フォルテディアー……通称『ディア』は姉ちゃんにとって経験値1のモンスターだからとりあえず狩る。
昨日レオンが狩ったフォルテベアス……通称『クソアス』は経験値2だけどリポップしてない。そのまま通過して、森の奥のステージへ。
さあ、本番。
ファミリーモンキー……通称『イエモン』の登場。
1つの狩場で、7頭以上の群れとして出現するサルのモンスター。火が弱点属性だ。1頭あたりの経験値は1だが、パーティーでは人数割りが基本。
しかし、そもそも経験値が1しかない『イエモン』は、割っても1の経験値が入るので、ある意味では効率がいい。
姉ちゃんとペアでフォルテベアス狩ったら、それぞれに1になるんだからな。
イエモン相手にはまず姉ちゃんが現状ただひとつだけ身につけている範囲攻撃魔法、風の神系範囲型攻撃魔法中級スキル・ザルツガンをかまして切り刻んでおいて、その直後におれが火の神系範囲型攻撃魔法中級スキル・ヒエンアイラセで一気に焼き尽す。魔法2発でおしまい。ホントは1発だけど、経験値を分けるために2発だ。
そうやって10か所あるイエモンの狩場でサルどもを焼き尽して、残念ながら姉ちゃんのレベルアップはなし。
さらには薬草関係を片っ端から採取するけど、下級薬草ばっかり。うちの村の周辺って豊かな植生だったんだな、マジで。そして、本日のメインイベントへ。
これは、まあ、はっきり言えば、大きなズルだ。
ゲーム『レオン・ド・バラッドの伝説』におけるネット上のMMOイベントクエスト『死霊都市の解放』に参加して5回以上クリアしたプレーヤーが手に入れられる特典を先取りする。
……そもそも、まだ死霊都市は存在していない……はず。時系列的に。でも、特典アイテムは存在してる……はず。なんだけどな。
イエモンの狩場の奥は、やっぱり断崖絶壁。
ところがその断崖絶壁に、一か所だけ、色がおかしなところがある。一番北西のイエモンの狩場から東へ3番目の狩場だ。
そこをよく見ると、手のひらサイズの石版が5枚、落ちていて、しかも断崖絶壁にその石版をちょうどはめこめそうな窪みがあるときたもんだ。
……あ~、マジで。ゲーム通りに、あったし。いや、あってほしいとは思ってたけどな。思ってたけども。
石版には古代神聖帝国の文字で……つまりは日本語で、中でもこれはカタカナだが、文字がひとつずつ書かれている。
これを正しい順番にはめると、断崖絶壁に小さな洞窟が出現する。
石版の文字は聖者イオスラムの名前を一文字ずつ。
「アイン、なにをひろったの?」
「ん? ああ、これ。石版だな」
「石ばん?」
「ここ、見て、姉ちゃん」
「……なんだか、それがぴったりはまりそうだわ」
正解です、姉ちゃん。
……知らなかったら見つけるのも難しいとは思うけどな。思うけども。でも、見たらすぐにわかるレベルでとっても簡単。
とにかく姉ちゃんを守るためにできそうなことは全部やると決めた。
だから、これがどんなにズルいことでも、おれはやる。
おれは窪みに、石版をはめていく。
左から順に、オ、ム、ラ、イ、ス、だ。聖者イオスラムのアナグラムでオムライス。MMOイベントクエストクリアでもらえる一文字キーワードを5回分集めて、ここにたどり着ける。というか、4回目まで集めたらわかるし、下手したら3回目で気づくけどな!
……あ~、いや、ふざけてるとは思うけどな? 偶然見つけてもそのまま正解しそうな気もするくらいだけどな? 制作運営会社が何考えてんだろうとは思うけどな? 思うけども!
断崖絶壁におれたちが四つん這いで入れるくらいの穴がぽっかりと開いた。
「ウソっ? なに、コレ?」
「洞窟、みたいだな」
おれは四つん這いでその穴に突入する。
「ええ? 入るの、アイン?」
姉ちゃんの不安そうな声が響く。
「姉ちゃんは待っててもいいけど?」
「……つ、ついて行くわ」
まあ、中に何があるかは知ってるけどな! 知ってるけども!
3mくらい進むと、立ち上がれるくらいのスペースがあるところに着く。
そこには、うっすらと青白く光る、1体の像。
聖者イオスラムの像がある。
「……ひかって、る、わね?」
「うん。光ってる、な」
おれは立ち上がって、光る像に近づく。
姉ちゃんもおれのすぐ後ろに続く。
そうして、おれは。
聖者イオスラムの像の指にあったひとつの指輪を抜いた。
「ええっ? 取っちゃっていいの、アイン?」
「姉ちゃん、ボックスミッツに入れて、アイテムの名前を確認してみて」
「う、うん……『ボックスミッツ』」
姉ちゃんが詠唱省略で3段ボックスを呼び出して、おれから受け取った指輪を入れる。
「……せいじゃのゆびわ、っていうみたいだわ」
……よし来た。チートアイテムゲット。うっひょーっっ!
この『聖者の指輪』は、MP自動回復1分1ポイントという自動回復アイテムだ。そう聞くと、大したアイテムではないと思うかもしれないな。
HP、MP、SPはレベル1から9まで1時間1ポイント、レベル10から30分1ポイント、レベル20で20分1ポイント、レベル30で15分1ポイント、レベル40で10分1ポイントというように、レベルアップすることで自動回復力も高まる。
でも、レベル40での10分1ポイントが限界だ。それを上回るMP回復が可能になるチートアイテムがこの『聖者の指輪』なのだ!
名前を確認した姉ちゃんが3段ボックスから指輪を取り出して、おれに渡す。おれは一度、自分の指にはめてみる。
「ちょっと待ってて」
姉ちゃんにそう言って、タッパのステ値を確認する。
しーん、とけっこーな時間、待たせるけども仕方がない。
イエモン退治の火の神系魔法で消費していたMPが1分あたり1ポイント、回復した。
「……よし、間違いないな」
おれは自分の指から指輪を外して、姉ちゃんを見た。
「姉ちゃん、左手出して」
「え?」
クエスチョンマークを浮かべながら、姉ちゃんが左手を伸ばす。
おれは、その左手をそっと握ると、姉ちゃんの薬指に『聖者の指輪』を近づけた。
「ちょ、ちょっとアイン!? そ、そういうのはシャーリーのためにとっとくべきだわ!」
「はぁ?」
「はぁ、じゃないわ! こういうことは大事なことなの!」
「いや、でも、この指輪、MP回復効果が高いんだから、魔法を使わないシャーリーには意味がないけどな?」
「……アインってば本当にバカよね。ゆびわとか、そういうものじゃないわ」
「でもこれは、姉ちゃんがおれを守るために必要な指輪だけど? MP足りなくて回復魔法使えなくなったらどうすんのさ? それでもいらない? 姉ちゃんはおれを守ってくれるんだよな?」
「そ、それは……」
姉ちゃんが口ごもったので、おれはえいっと姉ちゃんの薬指に『聖者の指輪』をはめ込んだ。
姉ちゃんの指の根元で、指輪がしゅっと小さくなり、姉ちゃんの薬指にジャストサイズでフィットする。オートアジャスト機能だ。
「わっ……」
姉ちゃんびっくり。ま、そりゃそっか。そうなるよな。そうなるとも。
しばらく呆然と指輪を見ていた姉ちゃん。
そんで、右手で自分の左手の薬指を飾る指輪に触れた。
そして、微笑む。
背筋がぞくりとするような、不思議な感覚。
……姉ちゃんがめちゃくちゃかわいいんだけど、どうしたらいいかな?
でも、どうすることもできそうもない。
「じゃ、出るよー」
おれはそう言って、四つん這いになって元きたところを戻った。
なんだか照れくさくて、逃げるように先に出て行く。
「あ、アイン、待って」
姉ちゃんも我に返って、おれに続く。
いくらおれが姉スキーの自覚があるとはいっても、指輪をはめるのはちょっとドキドキ過ぎたかもしれない。
うん。今後は気をつけよう。HP自動回復のヤツとか、手に入れた時は。
……でも、またはめてみたいかも。
ちょっとだけムフフな気持ちで、おれは森へと戻ったのだった。
帰りは、残りSPと相談しながら、姉ちゃんの槍術の熟練度上げ。ひたすら槍カッター。
槍術スキルは、実は剣術スキルとほぼまるかぶりだ。神級スキルだけ、剣術は「ラ・ピレル」、槍術は「レミ・ランゼ」とわかれているけど、あとはみな一緒。タイミングをきちんと合わせて訓練すれば連続技も問題なしのもーまんたい。槍の方がちょっと難しいくらいで。
おかみさんとの修行で、姉ちゃん自身が槍術スキルの予備動作が剣術スキルと同じだと気づいたから、一度だけ中級スキルのスラッシュも発動させていた。
姉ちゃんのSPがぎりぎりで一度ディレイになったところで回復のための休憩をはさんで、残りは全部おれが狩ってはじまりの村を目指す。おれは弓術スキルの熟練度上げを中心にした。
驚いたのは村の近くになってから。
行きに狩ったはずのクロウラットの狩場に、クロウラットがリポップしていたのだ。
何かの間違いか、それともクロウラットのランダムエンカウンターなのか。
明日以降の検証が必要になった。
はじまりの村に戻ると、ちょうど道具屋の前でバルサ……火の魔導師で、アンネさんのストーカーになってるおっさんと出会った。
おれは、道具屋のおっさんに向かって子どもっぽく大きく手を振ってアピールし、おっさんから小さく手を振りかえしてもらう。
「おい、キサマ、村長に何を言った?」
とりあえず無視して、道具屋に手を振り続ける。
「キサマを呼んでいるのだ」
ストーカー野郎はおれの肩を掴んで無理矢理振り返らせる。
「……痛いです。何をするんですか?」
「村長に何を言った?」
「昨日あったことを、ありのままに」
「ありのままだと? ならばなぜ村を訪れる者に近づくななどと言われなければならんのだ!」
「近づくなと村長さんに言われたんですね?」
「キサマのせいでな!」
どうやら、村長さんはちゃんと仕事をしてくれたらしいな。
そこで、姉ちゃんがおれとストーカー野郎の間に割って入る。
「アインをはなして!」
……しまった。姉ちゃんをこいつと絡ませる気はなかったんだけどな。まあ、姉ちゃんならこうなるのはわかってたことだし、おれの考えが足りなかったか。
「なんだおまえは?」
「この子の姉。アインをはなして」
姉ちゃんとストーカー野郎がにらみあって、しばらくしてストーカー野郎はおれの肩から手を離した。
さすが姉ちゃん。眼力強ぇな!
心配した道具屋さんが店を離れておれたちのところにやってくる。しっかり存在をアピールしといた効果があったらしい。
他にも何人かの村人たちがこっちに注目してる。
「バルサ、アンタ、こんな子どもたちに何してやがる」
「ふん。商売人ごときが口をはさむな」
「口をはさまれたくないなら、まともな大人として行動しやがれ」
「ちっ……」
舌打ちしたストーカー野郎は、おれをにらみつけた後、この場を離れていった。
姉ちゃんがすんげぇ怒った顔でストーカー野郎の背中をにらんでる。超怖いんですけど!
「ボウズ、それに嬢ちゃん、大丈夫か?」
「ありがとう、道具屋さん。助かったよ」とおれ。まあ、助けてもらうつもり満々だったけどな。ついでにストーカーにからまれたことの証人にもなってもらうつもり。商人だけに!
「……ありがとう」と姉ちゃん。まだ怒っとる! 怖いって!
「いや、気にすんな。すまねぇな、あいつ、ちょっと変わったとこがあってなぁ」
「……ちょっと?」と姉ちゃんが目を細めたまま、首をかしげた。
「……いや、だいぶ変わったヤツではあるか」
「ここの村、大丈夫なの? 道具屋さん?」とおれ。
「あいつみたいなのはあいつだけだから。あとはごくフツーの大人だ。いや、それにしてもすまねぇな。怪我とか、してないか?」
「怪我はないよ」
「そうか……」
「おれたちはもう行くね」
「ああ」
手を振って道具屋さんにバイバイ。
ぷうっと頬をふくらませて起こる姉ちゃんがおれに続く。
「あいつ、なに?」
「うーん。姉ちゃんは宿屋に戻って、おかみさんに今起こったことを話しといてくれるかな?」
「……いいけど」
「おれは、村長さんのとこに行ってくるから」
おれはそう言うと、村長さんの家へと向かう。
着実に味方を増やして、一気に勝負をかける。あのストーカー野郎は危険だ。
合言葉は、『火魔法ダメ絶対!』だからな!
村長さんのとこでは、ちょっと嫌な顔をされたんだけど……。
「……それで、また面会か? キミが暮らしてた小川の村の村長とちがって暇じゃないんだよ。ココの村の村長はそれなりに忙しいんだが?」
はあっ!? そもそも何かあったらまた来いって言ってたよな?
カチン、と音が聞こえそうなくらい、おれは一瞬で頭に血が上ったらしい。いや、プチン、かもしれない。
「……うちの村長さんは命がけで村を守ろうとした、勇敢で、尊敬できる村長さんでした。尊敬する村長さんを侮辱されて黙っていられるほど、おれはまだ人間ができてませんから。今すぐ訂正を要求します」
「ぐ……」
「そもそも、ここに来たのは、あなたがまともな村長としての仕事ができてないからですよ?」
「はぁ? なんだと?」
言葉遣いだけは丁寧なものにしといてやるからな! しといてやるけども!
「あの、バルサって人、今日おれと姉ちゃんが村に戻ってきたら、いきなり怒鳴っておれの肩を掴んできましたけど? よそから来て泊まってる村の客、しかも子どもに対してそんな乱暴を働く村人の管理もまともにできない村長が、この村は忙しいとか威張ってても、はあ? 何言ってんの? 村の治安を守るって何か知ってんのかバーカ! 内側からここの村崩壊してんじゃねぇーかこのクソボケが! そんなんでよく村長名乗れんなこのカスがっ! ウチの村じゃそんな経験一度もなかったけどそれってフツーだよな? この村の村長はフツーのこともできてねぇのに威張ってんのかよ? とでも心の中では言いたくなるんですがご理解いただけますでしょうか?」
と、できるだけ丁寧な言葉で言いたいことを勢いよく伝えてみた。ちょっと心の声が漏れたかもな! 漏れたけども! 別に気にしてねぇけどな!
「な、なっ……」
なぜか絶句する『はじまりの村』の村長のカス野郎!
このカス村長が!
「おれたちに近づくなと言ってくれたんですよね?」
「……言った。間違いなく」
「肩を掴まれる距離まで近づいてきましたが?」
「いや、しかし……」
「ずいぶん村人からの尊敬を集めていらっしゃるようで。村長に近づくなと言われたあの村人は、その相手に抱き着かないような距離をぎりぎり保てるんですね? 見事な指導力です。確かにあの気味の悪いローブの男に抱きしめられることはありませんでしたよ! 肩は掴まれましたけどね!」
「も、申し訳ない……」
「そこで謝るんですか? おれが求めてるのは謝罪ではなく訂正ですが?」
「て、訂正……?」
「村長のクセに話を聞いて理解する能力に欠けてるのでは?」
「な、な、な……」
「ウチの村の村長さんに失礼な嫌味を言ったことを訂正しろって言ってんのがわかんねぇーくれーバカな大人なのかアンタは! 自分が言った無礼な一言をすぐに忘れんのかこのボケは! 村がちょっとでかいからって調子に乗るなよこのカス野郎! っていうおれの心の声が聞こえないのかどうかはわかりませんが、おれが求めてるのは謝罪ではなく訂正ですよ、辺境開拓当初から存在する誇り高き『はじまりの村』のとってもお忙しい村長さん?」
カス村長は、ある意味では呆然としているが、その後ろに控えてるお役人さまもぽかんと口を開けたまま呆然としていた。あれ? この程度の嫌味も言われたことないのかな?
「おれは尊敬する小川の村の村長さんの根回しで、15歳になったら領都で洗礼を受けるために領主さまのところで事前に1年ほど修行を積む予定になってますけど、そん時にココの村のとーってもお偉い村長さまの大変ご立派な仕事ぶりをあることないことひたすら事細かに領主さまにお伝えしといた方がいいんでしょうね!」
「あ……」
「て・い・せ・い、を求めます」
「……て、て、訂正する。さ、さっきの発言を撤回させてもらいたい。そ、その上で謝罪させてくれ。申し訳なかった」
「訂正されるのであれば、謝罪を受け入れます」
おれはそこで矛を収めた。
訂正したなら許してあげよう! あげましょう! 広い心でな! まるで太平洋のようにとーっても広い心でな!
シーン、とカス村長の執務室に一度沈黙が満たされた。
うん。おれの気は済んだし、ここの空気も澄んだな! 綺麗に澄んだな!
スッキリ! 気持ちいーーーいっっっ!
「……それで、あのバルサという人のことなんですが?」
「あ、ああ、バルサ、そうそう、バルサのことだったな。もう二度とキミには、キミたちには近づくなと言っておくから! はっきりと命じておくから!」
「……言っておくだけで大丈夫ですか?」
「む、村役人に連絡を回して、監視もさせておく」
「うーん……それは、そうしてもらうとして」
おれはバルサに押し付けられた手紙を取り出す。「本当に、あのバルサって人のこと、真剣に考えてもらいたいんですよね」
「真剣、に……?」
よく分からない、というようにカス村長が首をかしげた。
おれはバルサの書いた手紙を勝手に開封する。
まあ、マナー違反だな! マジでマナー違反だけども! そもそもはっきりとお断りしたおれに無理矢理押し付けてきた手紙だからな! あのストーカーにとってはいらないも同然の物だよな! もはやこの手紙はおれの手紙! そうに違いない! よし決定! では喰らえ! 究極スケベエ魔法の神級呪文、必殺ブレイブエロティックインパクトドキムネエレクティオンフレーズ!
「本当はこんなことをしたくはないんですが、あのバルサって人に押し付けられた手紙を読むんで、聞いてください……『愛しの君へ。いつも君を思って眠る。君のその美しい収穫を前にした麦畑のような金色の髪に触れたい。君の美しい髪に指をからませ、その柔らかそうな耳に触れたい。きっと、触れれば壊れてしまうように繊細な手触りだろう。その手触りを味わいながら手をゆっくりと首筋に添って動かし、そのまま君のあごを軽く持ち上げ、君に口づけたい。口づけは瞳を閉じてもいいが、君のその美しい碧い瞳を見つめたまま口づけしたい。そして……』」
「ま、待て、おい、待て……」とクソ村長。
いや、待たない。おれは待たない。ここは空気を読まないことにしてる。ここの空気は澄んでてウマい。実に美味しい。だからあえて空気は読まないし、手紙は読む! 朗読してやる!
「『……君のその胸のふくらみにそっと触れて、二度、三度と私の手をゆっくりと優しく動かし、さらなる口づけをかわしたい、かわし続けたい。その可憐な唇の全てを舐めまわしたい。背中回して君を抱き寄せた腕は、そのままその形のいいおしりへとすべらせて、そして始めは優しく、次第に激しく……』」
「わかったからっ! もう十分にわかったから! それを読むのをやめたまえ、アインくんっっ!」
カス村長が叫びながら立ち上がって、執務机をバンっと叩いた。
「……何がわかったんです?」
「彼が! バルサが! ちょっと困った人物だということが! だ!」
「ちょっとですかね? こんなよく意味のわからない言葉ばっかりが書かれている変な手紙を、はっきり断ったおれに押し付けていくような人ですよ? おれはこのバルサって人には絶対に姉ちゃんに近づいてほしくない。もちろん、義弟のレオンを通じて知り合った、レオンの伯母さんであるアンネさんにも近づいてほしくない。もうアンネさんだって、おれたちにとっては大切な人ですからね」
「いや、わかる。わかるとも。その気持ちは十分にわかるぞ、アインくん、わかるから!」
「ちなみにアンネさんは、あのバルサって人の名前も知りませんでしたよ?」
「そうなのかねっ!?」
あらら、カス村長まで驚いてるな?
おれもびっくりだったけどな。ストーカーって怖いよな。
「……それで、おれたちに近づくなって、言っておくだけですか?」
「いや、呼び出して言い聞かせるとともに、警告もしておく。バルサの追放も視野に入れて考える。それで、その手紙はこちらに預けてもらえないか?」
「いいえ、それはお断りします。押し付けられたとはいえ、預けられたのはおれですから」
「そ、そうか? いや、しかし、アインくんはまだ子どもだろう?」
「子どもでも約束は約束、責任は責任と教わって育ちましたが?」
「あ、いや、約束と責任は重要だが、その、何というかだな、この場合の子どもというのはだな、なんて説明すりゃいいんだ……」
「とにかく、お断りします。まさか、無理矢理奪い取ろうとでもおっしゃるので?」
おれがそうはっきりと言い切ると、カス村長は苦虫を噛み潰したような表情をしたまま、黙るのだった。
……この手紙を渡せるワケねぇーだろ。絶対に! もう二度と! 誰にも渡さねぇからな! 永久保存とみせかけていつかどこかで細切れにして廃棄だよ! はっはっはっはーっ! このカス村長め! 「ディー」の名を持つこのおれ様の尊く甘美な愛の妄想に勝手に悶えて苦しむがいい!
「……キミを御していたというなら、小川の村の村長は間違いなく有能だったのだろう。私も尊敬することにするよ」
出て行くおれの背中に、『はじまりの村』のカス村長のつぶやきが放り捨てるように投げかけられたが、おれはそのまま聞き流して、執務室を出た。
村長さんを御していた記憶はあるけど、御されていた記憶はないんだけどな? ひょっとしたらおれが気づかないうちに御されてたのかもな!
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