木の枝の伝説(12)



 朝起きて、木の枝タブルオートゥ・ドゥジエームの素振りでカッター。そして、朝食で、いつもの銅のつるぎのくだり。


 そんで今朝は……。


「かあちゃん、さいきん、ぼくのふくのせなか、よごれてなかったかな?」

「……そう言われてみると、汚れてたわ、確かに」

「どんなよごれだった?」

「そうねえ、なんていえばいいかしら?」


 姉ちゃんが食べ物に集中しているフリをしてこっちを絶対に見ないようにしてんのはわかってんだからな! 今、とどめ刺してやんよ! 今すぐとどめ刺してやんよ!


「あしあと、みたいじゃなかった?」

「……ああ、そうね! そんな汚れだったわ!」


 姉ちゃんが大急ぎで朝食をかきこんでいる。


 ふふふ、あせるがいい! もう間に合わないがな!


「まさか、ズッカに……?」

「どうしてそうなるの、かあちゃん。ズッカはかんけいないよ。そもそもぼくはズッカとあそばないから」


 母ちゃん、まだズッカのことを……。


「あなた、まさか、シャーリーから……」

「もっとありえないよ、かあちゃん」


 どんなイメージ映像が母ちゃんの頭ん中で再生されてんだ……。


「ごちそうさま! きょうはさきにはたけにいくわ!」


 姉ちゃんが立ち上がる。


「ねえちゃん、きょうはなんかいそいでるね。なにかあったの?」

「な、なんにもないわよ」

「そう? ねてるぼくのせなかをふんだからじゃない?」

「ふ、ふんでない!」


 おれと姉ちゃんのやりとりを見て。


 母ちゃんの目がすぅっと細くなった。


「イエナ……あとで話があるから」

「ふ、ふんでないっ……」


 ふふふ。


 姉ちゃん。もはや顔に出てるからな! 明らかに母ちゃんから顔ごと目をそらしてるからな!


 よし。今朝のミッションはコンプリート。






 じじいん家に行って、スーパー超高速計算!


 そして、シャーリーを小川に誘って出かけようとしたら……。


「ううん、いかない」


 へえ……って、え?


 今、シャーリー行かないって言った? え? 言ってないよな? まさか行かないなんて言わないよな? そうだよな? いつも楽しそうだったもんな?


「じゃあ、きょうはおがわでなにしようか?」

「いかないよ、アイン」


 ……いかないって聞こえたんだけど?


 ……あれか! 昨日のズッカの大暴れか! あれが原因か! 木の枝振り回しやがってなんて危険な世界をおれたちの小川に! シャーリーが怖いと思っちまったじゃねぇーか! くそっ、ズッカのやつめ!


 ……って、待て待て。まだ別の違和感があったぞ?


「お、おがわじゃなかったら、どこにいこうか?」

「ううん、わたし、おでかけしないよ、アイン」


 ……やっぱり、呼び捨てにされてる。


 なんで? なんでだ? 何があった? 昨日のケンカか? おれん中じゃケンカじゃねぇけどな! まったく相手にならなかったからケンカじゃねぇけども!


 あれか? そういうことか? ケンカをするような乱暴者は、もうお兄ちゃんとは呼べないと! お兄ちゃんの資格はないと? そういうことなのかな?

 いや、たぶんそうだな。す、素直なシャーリーなら、そ、そういうこともあるにちがいない。


 ……ていうか、おれ、格下げ? アインお兄ちゃんから格下げ? アインお兄ちゃんからただのアインに格下げ? シャーリーの中でランクダウン? まさか(乱暴者)アインとか?

 口に出さないだけなのか? 口に出さないだけでそこまで堕ちたか? 『ケンカをするようなひとはシャーリーのおにいちゃんじゃないよ? もうアインお兄ちゃんはただの(らんぼうもの)アインだよ?』なんてシャーリーの心の声が!


 しかも! おれの心の癒しであるシャーリーとのお出かけが! お出かけが!


 ズッカのやつめ~! 今すぐ全身剥いてフリティムで木から吊り下げてやるぅっっ!


「だから、アインもがんばって!」


 そう言って、にっこり笑ったシャーリーが玄関で手を振る。


 うぅ~、アインお兄ちゃんはもう頑張れないかもな……。


 おれはシャーリーに見送られて、じじいん家を後にした。






 頑張れないかも、とは言ったものの。


 もはや森へ行くのは日課。


 おでかけがなく、いつもよりも早く来たのでSPがまだ完全回復してないけど、32/33なら、ま、問題ないだろ。


 今日はまず、魔法スキルを生やすために魔法でフォレボを狩る。


 フォレボは動きが直線的で、かわすのも簡単な上、準備運動がはっきり分かるからな。詠唱しながらでもかわせる余裕がある。

 もうトラウマは乗り越えたよな? 越えたよな? 越えたと思うな? 越えたんじゃないかな? でもちょっとは覚悟しとこうかな?


 というわけで、フォルテボア・ほにゃらら・ふにゃららがいた縄張りに。


 ……まだアラホワ。タッパの表示が白い。リポップしてねぇ。


 まさか、リポップしないんじゃないよな?


 確認していくと、昨日狩った三頭も、一昨日狩った四頭も、どっちもリポップなし。


 リポップなしだと、困るよな。あったとしても2日でリポップしてないんだから困るしな。下手に狩ったら、1日で狩って3日休み、みたいな?

 ……何そのホワイト企業!


 まあいいや。


 あと2頭、確定でフォレボがいるところがあるしな。あとは、しっかり何か、確認すればいいかな。もう森に入ってもそうそう不覚はとらないと思うし。


 おれは確定でフォレボの縄張りになっていると偵察済みのところへ移動する。


 タッパの表示が黄色に変わり、おれは森へ入る。もちろん、できる限り足音を消して。


 フォレボ発見。


 6m距離確認。タッパ操作で木の枝タブルオートゥ・ドゥジエームを装備。


 詠唱開始。


『われ……』


 いつも通り、目が赤くなって。


『……地の神に乞い願う……』


 準備運動の前足が動いて、ちょっとだけおれの足が震えたけど、大丈夫!


 フォレボの突進開始に合わせて、突進コースから移動しながら詠唱を続ける。


『……敵を打つ石を、ドウマラ』


 さっきまでおれの立っていた位置を通り過ぎ、ブレーキをかけたフォレボに拳大の石が飛ぶ。


 もちろん命中。なぜかって? そりゃ、単体型の魔法は、ソルマのような貫通型とはちがって必中だからな。必ず命中するのだ!


 そのまま、フォレボが消えて、肉が残る。


 ……一撃。


 しかも、あのサイズの石で一撃の不思議発見。てぇれ、てってっー!


 まあ、魔法の威力は魔力に追加与ダメージを足したものだしな。


 それにしても、最初の苦労はなんだったんだって思うくらいの簡単な狩りだな。でも、あの最初の苦労が今のちょっと考えにくいくらいの魔力の高さにつながったんだとも思うけどな……。


 しかし、地の神系単体型攻撃魔法初級スキル・ドウマラでも一撃なら、風の神系のザルツラも、火の神系のヒエンガも間違いなく一撃だな。問題は水の女神系のリソトラくらいか。


 水の女神系攻撃魔法は、他よりも追加与ダメージが少ないからな。


 余裕があるうちに、次はリソトラを試すか。


 肉と周辺の木の枝を回収して、一度森を出て、次のフォレボの縄張りに移動する。


 やることは一緒。


 フォレボと6mの距離で詠唱開始して、突進が始まったら歩いて数歩、移動しながら詠唱を続けて、噛まずに魔法を発動させる。噛まずにな! ここ大事だからな! めっちゃ大事だからな!


『われ水の女神に乞い願う、敵の呼吸を奪う水を、リソトラ』


 球形の水の固まりが、フォレボを包み込むように襲って、フォレボがぽんと消え、キバが残る。


 水の女神系単体型攻撃魔法初級スキル・リソトラでも一撃。こりゃ、フォレボは魔法なら一瞬だな。物理攻撃も伸ばさないと変にステのバランスが崩れそうなくらいだ。


 楽で安全な道ばっかりだと、どうしてもそっちに行きたくなるけどな。


 キバと周辺の木の枝を回収して、また森から一度出る。


 どいつかは未定のノンアクティブモンスターの縄張りがあと、8か所。


 うーんと一瞬悩んだが、考えても無駄だと気づいて、偵察を開始。以前とはちがって、今のステ値ならそのポイントの森の中までフツーに入れるからな。森の外からは見えなかったけども、中に入ればわかんだろ、どいつがいるかなんてな。


 そうして、タッパの表示が黄色になったら、そのまま森へ入る。フォレボなら魔法で狩って、バンビならそのまま森を出ればいい。バンビはフォレボのような直線的な動きじゃないからな。ジグザグだし。これまでもダメージ喰らってんのはバンビばっかだったし。


 偵察一か所目と二か所目はバンビを発見して、そのまま森から草原へ戻る。


 三か所目でフォレボ。


『われ風の神に乞い願う、敵を切る風を、ザルツラ』


 これまでと同じパターンで、突進コースを避けて、魔法で一発。


 風の神系単体型攻撃魔法初級スキル・ザルツラは、白に少し緑が混ざったような色のエフェクトで小さな三日月が二十くらい飛んで、フォレボを刻む。


 予想通りとはいえ、楽な狩りだ。


 四か所目と五か所目はバンビでスルー。めっちゃスルー。するするスルー!


 六か所目にフォレボ。


『われ猛き火の神に乞い願う、敵を燃やす火を、燃えろ、ヒエンガ』


 もちろん魔法一発で終了。ついでに言えばここでレベルアップもした。


 火の神系単体型攻撃魔法初級スキル・ヒエンガは、一番威力の低いリソトラはもちろん、ドウマラやザルツラよりも強力だからな。呪文の詠唱はちょっとだけ長いけどな!


 ただし、リソトラには極小確率で窒息によるスタン、ドウマラには中確率ですばやさ低下小デバフ、小確率ですばやさ低下中デバフというデバフ効果があるけどな。火の神系魔法のヒエンガは基本、ダメージ特化だ。


 これでタッパの魔法スキルリストには太陽神系、地の神系、水の女神系、風の神系、火の神系の初級スキルが載ったな。この時点で、洗礼で『賢者』となる確率が3%、『大賢者』の確率が1%だ。


 あと六大神の魔法は月の女神系だが、これを覚えたら『賢者』が5%、『大賢者』が2%となる。六大神全てのそれぞれの魔法と、ふたつの大神の力を合わせた魔法が使える『賢者』や『大賢者』はかなりのレアジョブだ。


 ちなみに、火の神系を身につけた時点で『勇者』や『聖女』にはなれなくなる。

 それを知らずに自分の名前をつけた『勇者』を目指していた友達が、何回やっても『魔法剣士』どまりだったのはそういうことか~! と、その事実を知って教室を泣きながら飛び出したこともあったな、そういや。

 あ、いや、話がそれたな。初期で少しだけでも他の魔法スキルよりダメージが大きい分、ついはまってしまう落とし穴だな。


 ただし、月の女神系の初級スキルは回復魔法のレラサなのだが、ゲーム『レオン・ド・バラッドの伝説』では自分自身に回復魔法をかけられないという不便設定。

 パーティーの回復役は自分でライフポーションという回復薬を飲まなきゃなんねぇ、と。ぷぷっ。


「パーティーメンバーがいない今、レラサを使える場面がないけど……確かモンスターには使えない……よ、な?」


 試してみるか?


 タッパでステ確認。レベルアップしてHP、MP、SPは43に。ステも上がっているが、最初の魔力のようなびっくりするような上昇値はない。今は苦労もなく、楽に倒せているから仕方がないかな。


 レベル5なので剣術系中級スキルが生えてきた。このへんもゲームと同じ。ちなみに魔法だと中級スキルが生えるのはレベル10だ。


 移動して七か所目にバンビを見つけて森を出る。


 もうバンビもノーダメでいけるとは思うけどな! これも安マーだからな! びびってかあちゃんに甘えてんのかって? はぁ? ビビッてて何が悪い? どこの工事現場だって安全第一なんだからな!


 最後の八か所目。


 期待していたフォレボを発見。


 という訳で実験開始。


 タッパを操作して、物理攻撃の特殊設定をいじって、手加減モードに。


 通常攻撃のダメージは必ず1という手加減モード。クリティカルしても1というのが笑える。ネット上で1年に1度開催という参加上限1万人のMMOイベントクエスト『王都奪還』の第4シナリオで手加減が必要だったから、この機能を知っていただけだがな! 知っているからには最大限利用させてもらうからな!


 月の女神系回復魔法初級スキル・レラサが身につくかどうか、試してみるには、相手のHPが回復したかどうかが分からないと、どうにもならない。が、モブモンスターのHPはこっちには判断がつかない。ボスモンスターは見えるHPバーがあるんだけどな。


 フォレボのようなモブモンスターはHP残り10%以下でディレイ、つまり行動遅延が発生する。HP20モンスターなので、HP2まで削ればディレイ。プレーヤーのディレイはまた別の条件だけどな!


 そこでゆっくりレラサをかけて、動きが戻ればモンスター相手にも回復魔法が使える、と。


 つまり今から頑張るのは、手加減でHPを1ずつ、18削ること。


 さて、頼むぜ! 木の枝タブルオートゥ・ドゥジエーム!


『われ……』


 距離6mで詠唱開始して、フォレボをアクティブにしたら即詠唱は中断。


 赤くなったフォレボの目を見ながら、突進を待つ。


 フォレボが突進し始めたら、突進コースから外れて立つ。


 おれの真横をフォレボが通り過ぎたら追いかけて、急ブレーキをかけたフォレボに木の枝タブルオートゥ・ドゥジエームでかいしんの……ちがった。手加減の一撃!


 一発かましたらすぐに距離をとって、冷静に次の突進を待つ。


 ま、これをあと十七回、繰り返すだけだ。今のすばやさなら特に問題なしのもーまんたい!


 ……だと考えていたら、少し甘かった。


 三発目の手加減の一撃をぶちこんだら、木の枝タブルオートゥ・ドゥジエームが折れた。


「ちょっ、早くねっ?」


 ちょっとあせりながら、折れた木の枝タブルオートゥ・ドゥジエームを投げ捨て、タッパ操作で装備変更ファンクションキーを押し、次の木の枝タブルオースリー……えっと、サンジェルマン! 木の枝タブルオースリー・サンジェルマンをかまえる。


 突進コースを避けて、追いかけて手加減の一撃!

 突進コースを避けて、追いかけて手加減の一撃! って! また折れた!


 再びファンクションキーで新たな木の枝タブルオーフォウ……うーんと、デスジャッジメント! そう、木の枝タブルオーフォウ・デスジャッジメントを装備。


 そして、突進コースを避けて、追いかけて手加減の一撃! って、おいっ! また折れたっ! 一回ってヒドっっ!


 名前か? 名前が悪かったかな? 死亡判定されちゃったか? 四と死でかけてみただけだったのにな?


 さすがに内心、穏やかならず。めっちゃ慌てた。


 一度、突進コースを避けて、落ち着いてタッパを操作し、ファンクションキーで木の枝タブルオーファイブ……そうだな、えー、ペンティアム! 木の枝タブルオーファイブ・ペンティアムを装備。


 もう一度突進コースを避けて、ファンクションキーには新たな木の枝を設定しておく。


 木の枝タブルオーファイブ・ペンティアムはなかなか頑張って六発。でも折れた。


 続いて木の枝タブルオーシックス・シズィエムは五発。やっぱり折れた。


「どんだけ折れるんだっての……」


 そんなつぶやきを言いたくもなるが、というかすでに言ってしまったけどな! 言ったけども! とりあえず木の枝タブルオーセブン……あーっと、ムーンレイカー! よし、木の枝タブルオーセブン・ムーンレイカーを装備!


 フォレボの突進コースを避け、追いかけてフォレボのケツに手加減の一撃!


 そして、フォレボの動きが変化した。


 さっきまでとちがって、のそり、のそりとおれの方へ向きを変えて、ゆっくりゆっくり、前足を動かす。


 そして突進……という感じがなくなったのっそりした動きでおれの立っているところに動いてくる。


 おもしろいのは、それでも突進コースを避けたら、そのまま真横を通過していくところか。


 どうやらディレイもゲーム通りらしいな。ということは、あんま期待できないけども……。


 おれはゆっくりと突進してくるフォレボの突進コースを避けて、真横にやってきたフォレボに向けて呪文を詠唱する。


『われ月の女神に乞い願う、友を癒す月の光を、レラサ』


 ……変化なし。正確にはSPの消費のみ。MPは消費せず。フォレボもディレイのまま。もちろんタッパで確認してもスキルリストに月の女神系単体型回復魔法初級スキル・レラサは生えてきてない。


 ゲーム通り、モンスターに回復魔法は効かない……ってか、まあごくフツーのことではあるんだけどな。もちろん、モンスター相手でも回復できちゃうゲームもけっこーあるけども……。


 おれのステを確認すると残りMP43/43、SP21/43となった状態。


 目の前にはディレイ中で突進という名の散歩を繰り返すフォレボ。


「こいつ狩ったらあとはバンビだけかぁ。うーん。バンビのジグザグの動きは面倒だし、リポップもまだわかんねぇしな……」


 ……レラサはどっかで機会があればってことで、こうなったらやることはひとつ。






 通称『ネンブツ』と呼ばれるゲーム『レオン・ド・バラッドの伝説』ではよく知られた魔法スキルの熟練度稼ぎ。






 おれは、突進の準備運動で前足を動かしているフォレボの真正面に近づく。


 そして、フォレボが突進という名の散歩を開始した時点でその突進コースを避けて、フォレボと並んで歩く。


『ドウマラ、リソトラ、ザルツラ、ヒエンガ……』


 詠唱の起句だけを並べる。


 ひとつの起句につき、MP4、SP2が消費されていく。


 そして、クールタイムの5秒、間をおいて、再び繰り返す。


『ドウマラ、リソトラ、ザルツラ、ヒエンガ……』


 呪文を省略し、起句のみで魔法スキルを使うことを詠唱省略という。詠唱省略ができるのはそのスキルの熟練度が2からとなっている。

 そして、詠唱省略は消費MP2倍。効果は変わらず。そんなことがプレーヤーマニュアルに明記されている。

 ちなみにおれはすでに太陽神系貫通型攻撃魔法初級スキル・ソルマは詠唱省略で発動できる。


 では、熟練度1で起句だけだとどうなるのか。当然、呪文の詠唱なしでは魔法スキルは発動しない。


 ところが起句だけでMPとSPが消費されていることに気づいたオオマエ氏というプレーヤーが、ひょっとして魔法は発動しなくても熟練度が上がっているのではないか? と仮説を立てて、広く実験を呼びかけた。

 んで、こういう検証が好きなプレーヤーがけっこー高価なマジックポーションとスタミナポーションを大量に消費しながら実験した結果。


 念仏のようにドウマラと唱え続けたあるプレーヤーがある時突然、ドウマラを発動させたのだ。


 そんで、熟練度1で詠唱省略すると魔法は発動しないが熟練度は上がる、という事実が発覚。


 ただし、タッチパネルのスキルリストに載っていること。

 すなわち、初期段階において一度は呪文を詠唱してスキルを身に付けているか、もしくは洗礼で得られたジョブのジョブスキルとして獲得しているか、のどちらかが前提。

 スキルリストに載っていないものは、どれだけ起句を連呼してもMPもSPも消費されないし、当然熟練度も上がらない。


 検証メンバーたちが実験提唱者の名前をとって『オオマエ稼ぎ』と一度名付けたがあまり馴染まず、オオマエ氏ご本人が『ネンブツ』と呼んでいたため、そっちがこの技の通称として定着した。

 確かに念仏を唱えるかのような状態ではあるしな。『あー、アイテム足りん! 次のエリアに行けねぇっ』『ネンブツでも唱えとけ!』というやりとりはゲーム『レオン・ド・ブラッドの伝説』が流行していた頃、中高の教室で日常的に見られた光景だ。


 おれは『ネンブツ』でMPとSPをぎりぎりまで消費して、そのままフォレボは放置してとどめを刺さず、森を出た。もちろん、どの魔法スキルも詠唱省略では発動しなかった。


 バンビだと『ネンブツ』やるには削るのが面倒だからな! リポップの確認ができるまではこいつが最後のフォレボだからな!





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