木の枝の伝説(11)
なんだかよくわからんうちに、ズッカの襲来でシャーリーをあんまりかまえず、森へ移動してしまったが、明日、ちょっと長めにシャーリーとは遊んであげるとしよう。
さて、まずはフォルテボア・なんてら・ほんてらの縄張り……というか、ずっと通い続けたあそこに行ってみる。
……あれ?
アラホワ?
森へと入ってみるが、アラホワは変わらず。なんだ?
リポップしてない? クールタイムは1日じゃない? いや、リポップポイントがランダム変化するとか? 場所は……間違ってない。見間違うはずがない。あれだけ毎日のように通ったんだからな。
一度森から草原へ出る。
二頭目に狩ったフォレボのところへ移動。
やっぱりタッパの表示色は白いまま。少し森に入っても、白。アラホワだ。
うーん、もう確定かな、とは思いつつ、三頭目に狩ったフォレボのところも、四頭目、初めて狩ったバンビ、あのおれの大切な木の枝トリプルオー・オリジンを折った強敵バンビ・バーなんちゃら・かんちゃらのところも、どっちもアラホワ。
とりあえず、昨日狩った四か所はどこもリポップしてない。
検証は必要だが、モンスターを倒すと別のポイントにリポップするのか、リポップクールタイムが1日よりも長いのか、あとはどんなことが考えられるかな?
まあ、村の猟師さんたちは秘匿してるツノうさの狩場があるから、リポップクールタイムが1日ではないってことの方が可能性は高そうだな。
じゃあ、何日でリポップするのかってのは、これから毎日確認するしかない。
タッパを触ってステータスを出す。
(無職)アイン Lv4 HP33/33 MP33/33 SP33/33 筋力18 耐力15 魔力30 すばやさ25 器用さ20
やっぱ魔力が高い。原因はソルマの使い過ぎだと思うけどな。ゲームんときにレベ4でこんなになったこと……ない気がするな。そのへんはゲームと違うかな?
いや、ゲーム通りだったとして、昨日の感触だったら、もうソルマ一発で即死効果じゃなくダメ殺できそうな気がするな。フォレボとバンビなら。
ひょっとしたら、初撃破で一気に2レベル上げたボーナスとか、初撃破がややランク上だったボーナスとかになるのかも?
ま、高くて損はないからなんでもいいけどな。
ちょっとレベル上げしてから物理に移行するか、バランス型で上げていくかは悩ましい。筋力18じゃ、物理防御の方が魔法防御より高くなりがちな初期モンスターはまだ辛いかもな。
えっと基本コンボだと……通常で18+2、セイケンで36、カッターで(18+2)×2か。相手の物理防御をXとして(20-X)+(36-X)+(40-X)か。
レべ3で魔力22だったっけ。フォレボをソルマの22+10と通常とセイケンで削り切ったよな? それに確かカッターを無駄にした記憶があるよな。えっと魔法防御をYとして、(32-Y)+(20-X)+(36-X)……いや、レべ3んときの筋力で計算しないとな。でも筋力は覚えてねぇわな。インパクトなかったし。
ま、ソルマの分がカッターになるってことだから、一発喰らう程度で倒せるよな。だとすると、バンビの方がいいか。レべ3で一発喰らって耐えられたし。フォレボの突進喰らうんはこえぇーしな……。
正直、フォルテボア・なんとか・かんとかの突進はおれの記憶の奥にトラウマ的な感じで刷り込まれてそうだからな。
そうすると、昨日のバンビ・バーなんとか・かんとかは慌ててソルマの2回目ぶちこんだから参考にはならんな……でもあれはしょーがねぇ。死ぬかもしれなかったし。
今だって、死にたくないから必死に計算しようとしてるしな!
よし! とりあえず今日の一頭目はバンビで、物理攻めっと。基本コンボの二回まわしかな。
一発も喰らわずにいけたらいいけど、喰らったらとりあえずソルマの詠唱省略でセーフティーにいく。「木の枝001(ダブルオー・ワン)イニティウム」が折れなきゃなんとかなんだろ。
偵察した時、バンビを目視できたとこは4か所だからな。あと3か所ある。基本コンボ2回で消費SP10か。スムーズにいって、残りSP3なら家に帰るっと。なかなか大量の狩りはできねぇもんだな。
「またかよっっ!」
思わず叫んだのは、三頭目のバンビに木の枝ダブルオー・ワン・イニティウムで通常攻撃を振るった時だった。ま、もう分かってるよな。まただよ。
木の枝ダブルオー・ワン・イニティウムが折れたよ……まったく。
うっすらと光る左手で体術系初級スキル・セイケンを発動して、技後硬直とノックバックの相殺から、軽く半身になってバンビの体当たりを左肩に一発喰らって、そのまま至近距離で……。
『ソルマ』
左手の人差し指から飛び出す光でバンビを貫き、バンビが消えて肉が残った。
「さらば、木の枝ダブルオー・ワン・イニティウム! って、木の枝耐久度マジで低いな、もう。昨日大量に拾い集めたし、今日もバンビ狩ったとこで拾ったからとりあえず数はあるけど」
そう言いながら、肉を収納して、さらに周辺の木の枝を探しては収納していく。
「大量消費社会はダメだと思うんだよな~……しっかし、これ、レべ上げポイントが森じゃなかったらどうにもなってねぇし、まったく」
ぶつぶつ独り言をつぶやきながら、いろいろと回収終了。ストレージの木の枝の数は329/400と表示されている。
おれはどんだけ拾う気なんだ? どんだけでも拾う木。なんちて。
すぐ折れるから不安になったので、装備変更ファンクションキーは1から5まで全部木の枝を登録しといた。変な感じ。ゲームではまずやらねぇよな、これ。
で、どうするかな……。
はなっからソルマでフォレボに勝負に行くか、もう帰るか。ソルマはもう熟練度2だしな。
バンビは基本コンボ一発で狩れたし、SPにはまだ余裕があるよな。このまま帰ったら今夜はベッドで眠れそうだけどな。
フォレボもソルマ一発でいけそうだし、一発でダメでもまっすぐ突進してくるフォレボはかわしやすいし狙いやすいので二発目をぶち込むだけだしな。
ただし、さっきのバンビにこっちもHPを半減させられた。耐力が低いのはほんとにかんべんしてほしいな。
はっきりフォレボとわかってるところがあと2か所。あとはノンアクティブではあるけど、姿が見えなかったから、何がいるのかわからんところが8か所、か。びっくり箱は引きたくねぇよな。フォルテディアーとかいて、アクティブ化したらさすがにまだきついだろうな。
やっぱかえろ。
おれは森を出て、村へとてけてけ歩く。
ビビッてると言われてもいい。今のレベルじゃ、もしもに対応できない。狩場が森だということを絶対に忘れてはならない。
「まあ、とりあえず」
タッパ操作で右手に新しい木の枝を出して腕をまっすぐ伸ばし、木の枝を真上に立てる。「次はこいつに名前をつけないとな」
ただし、どんな名前を付けても、武器補正は2である。合掌!
夕食中は、家族の会話が弾んでいた。
ただし、おれ以外で、だ。おれはほぼ不参加。沈黙金だよ、沈黙金。金はねぇけどな!
なぜかって?
おれの話題だからな! 勝手にしてくれ!
「どうも、ティロによると、いっぽーてきで、あっとーてきだったって」
話題提供者は姉ちゃん。
内容は、今日の午前中の、ズッカとの一件だ。おれはもうすっかり忘れてたんだけどな! 時々自分の記憶力がおかしいんじゃないかって思うんだけどな! いやマジで! 完璧に忘れてたからな! 今日のことだったのにな!
姉ちゃんはどうやらティロから情報を得たらしい。ティロともそういうつながりあんだな、姉ちゃん。
よく考えてみると、おれ、シャーリーとしか遊んでないから、まったく村の情報が足りてないんじゃねぇのかな?
うちとじじいん家と、小川と、あとはもう森で狩りだしな?
いや、ある意味ではじじいん家ではおっそろしいくらい重要な情報に目を通してんだけどな……。
まあ、今んとこ、そういう村のゴシップ記事みたいな情報、まったく興味もなければ、必要もないからとにかく超どうでもいいんだけどな!
それにしてもティロの奴。けっこー難しそーな言葉も知ってんのな。それとも姉ちゃんか?
ティロかぁ。あいつと話してみんのもおもしれぇかもな。ズッカの百倍は!
「この子が男の子同士でケンカをするなんて……」
これは母ちゃんな。
しかも泣いてる。いや、なんでか知らねぇよ? わかってるけど本当は!
なんでか知らねぇけど泣いてるのはおれがケンカして嬉しいから! 母ちゃん喜んでるからな! なんで息子がけんかして喜んでんだ? わかんねぇよおれには?
いや、何度も言うけどわかってるけど本当は! うちの家族おかしくねぇか?
母ちゃんの中のおれ、マジでいったいどういう扱いなんだ?
……てゆーか、叱られる気配なし。けんかの話なのに?
ケンカして喜んでる母ちゃんだけでなく、父ちゃんも全然怒ってない。なんでだ?
あああー、もう! この子がケンカなんて子どもらしいことをして本当に良かったわ~、みたいな流れ、なんとかなんないっすか!
「そうか、アインはそんなにやられたのか……」
これは父ちゃん。
……いや、まったく。これっぽっちも。
かすってすらないですが?
すばやさのステ値がたぶん圧倒的だったからな! 悪いけど! 悪いけども! ズッカのステ値がこの前までのおれと同じで3だったとしたら! いや、もう、そうとしか思えないくらいウルトラスーパー余裕でかわせたけどな!
ズッカはぶんぶん木の枝振り回してたけどな! あ、いかん……木の枝振り回す姿が……うううぅぅ……とにかく超かっこわりぃってことを思い出してしまった!
おれはあんな姿で今日バンビを三頭も仕留めちまったのか……。
いや、待て待て待て。この話題、まずくねぇかな?
ズッカの奴、木の枝ぶんぶん振り回して同じ村の子どもに襲いかかるってこれマジでまずくねぇかな?
武器補正2とはいえ、一応木の枝は武器判定アイテムだし?
日本のガッコでやる不審者対策避難訓練みたいなの必要なレベルの事件じゃね? てゆーか通り魔? いや、今日の感じじゃ、どっちかというとストーカー的な?
ティロ情報だと、ズッカの母ちゃんがズッカとおれを比較してなんか言うみたいなんだけどな? 別に同情とかしないけど、そういうのは嫌だってのは理解できなくもないな。
「おとうさん、ぎゃくみたい。アインがズッカをぼこぼこにしたの」
姉ちゃん!
それ爆弾並みっっ!! ていうかもう爆弾!!
しかも誤情報じゃねえかっっ!!! もう大爆発だよ!!! 何してくれてんの!
「ええええっっ!」と母ちゃん。
「そうなのか! それなら明日、ウィルのところに一言謝っとかないと」と父ちゃん。
「この子が、この子が、けんかに勝つなんて!」と母ちゃん。え? そこ、喜ぶとこ?
「……今日、アインが帰ってきたとき、ずいぶん汚れてたから、ケンカの話で納得したが……」と父ちゃん。
あ、それ、森でバンビにやられた分だから。ズッカからは何もないな。別に言わねぇけどな! まったく口にする気はないけどな!
「ズッカはなきながらはしってにげたって、シャーリーがいってたわよ」
姉ちゃん?
いつの間にシャーリー情報までっ? 姉ちゃんの交友関係が広すぎる!
……いや、おれが狭すぎるのかな?
でも、とりあえず反論! 沈黙は金だけどここは銀で! 雄弁は銀!
「ぼこぼこになんかしてないよっ! デコピン3かい、2かいはなをつまんで、1かいみみをひっぱって、1かいあしをふんだだけだからっ!」
しーん。
あれ?
あれあれあれ?
食卓がなぜか静まり返った。
なんでだ? おれは事実を述べただけなんだけどな?
父ちゃん、母ちゃん、姉ちゃんは互いに顔を見合わせて、それから三人そろっておれを見た。
「……けんかってほどのことじゃなかったのね」と、残念そうな母ちゃん。
なんでだ? なんで残念そうなんだ? ねえ、方向が完全に逆になってねぇか、母ちゃん!
「それならウィルのところに行く必要もないか」と父ちゃん。
いや、めっちゃ泣かしたのは真実だし、できれば一言、お詫びを言っておいてほしーんだけどな?
あれ? どうした姉ちゃん?
なんか疑問点でも?
姉ちゃんが右手をあごにあてて、何か考え込んでる。名探偵か? どっちかっつーと迷探偵だと思うけどな! 姉ちゃんだからな! そんなポーズは似合わないゲンコツガールが姉ちゃんだからな!
「シャーリー、だいじょうぶかしらね?」
「どうしたの、イエナ?」
「あのね、シャーリーが、アインがすっごくかっこよかったっていってたんだけど、アインのはなしじゃ、デコピンに、はなつまみに、みみひっぱりと、あしふみでしょ? シャーリーがアインにどくされてヘンになってないかなってしんぱいになったのよ」
なんじゃーそりゃーっっっ!
……ていうか姉ちゃん、毒されて、なんて難しい言葉を遣うな?
いやいや、そこじゃねぇよな?
大事な話は前半だけだろ? シャーリーがすごくかっこよかったって! そこ!
「アイン、うそついてなさそうだから、シャーリーがほんとうにしんぱいだわ」
なんで心配すんの? シャーリーまともじゃん!
「大丈夫よ、イエナ。そういうのは、恋は盲目っていうのよ」と微笑む母ちゃん。
「そうだな。心配いらないよ、イエナ」とうなずく父ちゃん。
……はあ。
もういいや。
そこからおれは夕食が終わるまで沈黙を守った。やっぱ沈黙は金だ。
ま、シャーリーがかっこよかったって言ってくれたという情報だけは! 脳の記憶に関する一番重要な部分にしっかりと刻んでおくとしようか。むふふふふ。
あ、ズッカを小川に蹴り落としたこと、言うの忘れてた。これ、わざとじゃないからな?
部屋に戻って、新たな武器「木の枝002(タブルオートゥ)ドゥジエーム」で素振りを1000回。強制スタンはなしで、フツーにベッドに入って休む。背中踏まれたくないし!
あ、母ちゃんにチクるの忘れてたな、そういえば。明日の朝、忘れずにチクろっと。
そんじゃ明日から頼むぜ! 木の枝タブルオートゥ・ドゥジエームよ! 武器補正は2だけどな!
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