木の枝の伝説(13)
いつもと特に変わらない……と思うけど、ちょっと姉ちゃんからにらまれつつの夕食を終えて、部屋で素振り。
今日から、素振りはちょっとちがう。
いつもどおり肩のラインで水平に、左へと伸ばした腕と木の枝タブルオーセブン・ムーンレイカーを右へ動かし、身体の右側にまっすぐと伸ばす。
今まではここから頭上へと上げていたが、そうではなく、最初に構えた位置へと水平に戻す。
そこから動かしたラインを直径とする半円を描くように上へと木の枝タブルオーセブン・ムーンレイカーを回していき、再び身体の右側に肩の高さでまっすぐと伸ばす。
そして、ここまでの動きを予備動作として、そのまま横振りで左、右と二連撃。
剣術系中級スキル・スラッシュ。消費SP4、クールタイムという名の技後硬直2秒、攻撃力×2での二連撃。レベル5からスキルリストに載る新技だ。いや、別におれにとっては新しくはないけどな!
だが、おれの素振りはここで終わらない。
スラッシュの二撃目を予備動作として、振り切って身体の右側にまっすぐと伸びた木の枝タブルオーセブン・ムーンレイカーを頭上に上げて、連続して剣術系初級スキル・カッターを振り下ろす。
物理攻撃スキルの連続技、通称「サワタリ・ツイン」! またはただの「ツイン」!
ゲーム『レオン・ド・バラッドの伝説』のプレーヤーマニュアルには予備動作がきちんと説明されている。その予備動作によって物理攻撃スキルが発動し、使用後は技後硬直が起きる、と誰もが考えていた。そりゃ、当然のことだよな。
ところが、その予備動作と発動する技に、重なりがあることに気づいた人物がいた。
その人物こそ『レオン・ド・バラッドの伝説』を最初にクリアしたとされるサワタリ氏だった。
サワタリ氏は独自に実験を重ね、検証を繰り返し、物理攻撃スキルの攻撃時の動きを予備動作として次の技へと連続させることができることに気づいたのだ。
例えば、サワタリ・ツインと呼ばれる技は、スラッシュとカッターを連続して使う、サワタリ氏の基本技だ。
プレーヤーマニュアルには載っていないが、この連続技は実行できた。
しかも、その場合のクールタイムとなる技後硬直は最後の技の分だけになるというボーナス付きだった。
そして、連続技を駆使してトッププレーヤーとなり、最速クリアを実現したサワタリ氏はこの情報を余すところなく公開した。
クリアしてから公開したという点についてはゲーマーとして当然とも言えるので、クリア後でも全面的に公開したのだから率直に言ってすごいと思う。
多くのプレーヤーからバグなのでは? とも言われたが、ゲームの制作・運営会社はプレーヤーマニュアルにくわしく書かれてはいないがあらかじめ意図していたものです、とコメント。
そして、連続技全盛時代が訪れたのだ。
サワタリ氏が公開した技は、サワタリシリーズと呼ばれ、サワタリ氏はゲーム『レオン・ド・ブラッドの伝説』のリアル伝説プレーヤーとなった。
その後、すでにおれも使って見せたがレベル1からでも使える剣術系と体術系の物理攻撃スキルの同時発動などとも組み合わせて、いくつかの技が発見されていく。
シンプルに「ツイン」を使うこともあれば、「ツイン」の後に体術系初級スキル・セイケンや中級スキル・タイケンを同時発動で加えたりなどして、「ツイン」だけで倒しきれなかったモンスターを始末するなど、プレーヤーは多彩な技を楽しむようになっていった。
ただし、技後硬直させずに連続技へとつなげるためのタイミングはけっこーシビアで、ちょっと合わせられないと連続でスキルを発動できないから、練習が必要だったりする。
たぶん、「ツイン」がフツーに使えたら、バンビの動きがジグザグでどんなに面倒でも、ノーダメで狩れるはず。
だから、今夜からは「ツイン」の素振りを頑張る。明日はバンビで試す予定。とりあえず今夜は素振り100回、つまりスラッシュ100回とカッター100回の計200回の素振り予定。
「アイン? ちょっといいか、イエナのことなんだ……っと?」
おれがそんな感じで素振りを頑張っていたところに、父ちゃんがやってきた。
「なに? どうしたの?」と、おれは素振りを続けながら、返事をした。
……いや、失礼だとは思うけどな! でも、数を数えながらやってることって、途中で止めにくいっていうか、なんというかだな。わかるよな?
父ちゃんから、言葉か戻ってこない。その代わりに小さなつぶやきが聞こえた。
「……その振り方は……まさか……」
「なに? とうちゃん? どうかしたの? よくきこえないけど?」
「……あ、いや、いい。ちゃんばらの練習が終わってからにしよう」
ちゃんばらじゃねぇーけどな!
そう思っても言わないし、言えないけどな!
父ちゃんが見守る中、なんか照れくさいけど、素振りを続ける。
スラッシュからのカッター、スラッシュからのカッター、スラッシュからのカッター……。
しばらくして目標回数をクリアし、タッパ確認。予定通りのSP消費。
ふぅっと息を吐いて、父ちゃんを振り返る。
すると、見たこともないような真剣な表情をした父ちゃんがそこにいた。
……え? 何?
「……とうちゃん?」
おれの不安そうな声の響きに、父ちゃんがはっとして、いつも通りの顔に戻る。
「とうちゃん、わざわざどうしたの?」
「あ、ああ、実はイエナのことなんだが……」
イエナ……姉ちゃんは今、母ちゃんから与えられた罰で、ご近所さん3軒分の水汲みをしている。
十日間の予定だ。村の中心にある井戸から、西の端っこにある家までの水汲みはけっこう大変。いつもは父ちゃんの仕事だ。
もちろん、寝てるおれの背中を踏んでいた罰だ。
父ちゃんは、おれの気持ちもわかるがイエナを許してやってほしい、ということを言っていた。
寝坊したおれ……強制スタンで目覚めなかったおれを心配して父ちゃんと母ちゃんのところに飛び込んでいった姉ちゃん。
村の大人でもできないじじいの手伝いができる優秀なおれの代わりにあたしが畑仕事は頑張るからアインには好きにさせてやってと言ってくれた姉ちゃん。
おれがいじめられたと思って、ズッカをぶちのめした姉ちゃん……って、あれ? これは冤罪だったような? えっ? 姉ちゃんやっちまったか?
……ま、いいや、ズッカだし。
シャーリーがおれに惚れ込むようにいろいろとふきこむ姉ちゃん。
父ちゃんは、おれの知らない姉ちゃんのことをいろいろと話してくれた。
「いつもいじわるなことを言っているようで、イエナはアインをとても大切に思ってるよ。もちろんアインの背中を踏んだのも本当のことだから母さんが決めた罰は最後までやらせる。だから……」
「わかったよ、とうちゃん。ぼくだって、ほんとはねえちゃんがすきだから……」
なんだかちょっと恥ずかしい。声がちょっと小さくなるな。言ってることに偽りはないけどな……。
「そうか、それならいいんだ……」
父ちゃんは、ほっとしたのか、軽く息を吐いて微笑んだ。
そして、用件は終わったとばかりにおれに背中を見せて部屋を出ようとする。
おれは木の枝タブルオーセブン・ムーンレイカーをもったままベッドに腰掛ける。
その瞬間、部屋の出入り口で父ちゃんが振り返った。
「ああ、アイン、ひとつだけ、聞きたいんだが」
……父ちゃんはコロンボさんですか?
「なに? とうちゃん?」
「さっきの剣の振り方は誰に教えてもらったんだ?」
ドクン!
なぜか自分の心臓の音が大きく聞こえた気がした。
……父ちゃんは、剣術系スキルを知ってる?
いや、まさかそんな? でも、これまでそこまで剣について深く話した覚えもないな? 父ちゃんは銅のつるぎを自分でもってるくらいだから、剣を使って戦ったことはあるはずだろうしな?
……7歳の子どもであるおれが理解していていいのかどうかって部分の常識がどっちなのかわからんのが困るな。
「……ふりかた? なんとなくてきとーにふってただけだよ?」
「なんとなく適当に? その割には繰り返し繰り返し、同じように振ってたように思うんだが……」
「あ、でも、こうすればかっこいーかな、とかはかんがえてたかも。かっこよかった?」
なんか父ちゃんが鋭い気がするな。
ごまかしておく方がいいのか、ごまかす必要がないのか、どっちなんだ?
……いや、知らんぷりで聞いてみて情報を集めるべきか?
「とうちゃんは、けんにくわしいの?」
「……いや、くわしい訳じゃないが、まだアインやイエナが生まれる前に、領主さまの魔物討伐に行ったことはある。その時に少しだけだが訓練は受けた」
「まものとうばつ?」
ええと、領主さまってのは確か辺境伯だったな? 魔物討伐とかしてんのか?
……いや、するか。領地の安全とかも領主の役目かもしれんしな。
それに父ちゃんは行ったことがある、と?
「ああ。驚くほどたくさんの魔物があらわれ、暴れ回ることがある。領主さまがこの村からも何人かが参加するようにと命じられ、それに父さんが行ったんだよ」
そ、それは……。
まさかの魔物大発生……スタンピードっっ! というかはっきり言えばスタンピードという名の経験値ボーナスイベントじゃん! うっひょーっっ!
ゲーム『レオン・ド・バラッドの伝説』でたまに発生する、プレーヤーのその時のレベルに応じて経験値効率がとてもよい「おいしいモンスター」が大量発生する現象!
うおおおおーっっっ! フォレボもバンビもあんまリポップしねぇからどうすんだって考えてたけどそういうチャンスもあるならなんとかなるかな? なるよな?
おれは目を見開いてキラキラと輝かせていたらしい。
「……アイン。そういう嬉しそうな顔をしてはいけない。父さんは実際にその戦いで死にそうな目にあったし、この村に戻れなかった若者もいたんだ」
「あ……ご、ごめんなさい」
「……いや、子どもが英雄譚に憧れるのは当たり前のことだ。だが現実はとても厳しいんだよ、アイン」
「う、うん……」
……い、言えねぇ。
レベルアップチャンスじゃん! やっふぅぅぅっっっっ! ウェルカム・カモン経験値ボーナスイベントぅぅぅっっ!! なんて思ってたとはとても言えねぇ。
おれは思わず神妙な顔をしてしまう。
「……言い過ぎたか、すまん。まあ、あの苦しい戦いを共に乗り越えたみんなとは、遠く離れても今でも親友だと思ってるんだがな」
父ちゃんがふっと微笑む。「悪いことばかりでもない」
「しんゆう……?」
「ああ、そのうちの一人、ジオンという男が・・・」
なんだそのNTと共にロボットで宇宙戦争を起こしそうな名前は?
うちの村の人ではないよな? その名前に覚えがないよな。
「……アインがさっきやってたような剣の振り方をしてたんだ。つい懐かしくなってな。もう十年にもなるか」
……名前はともかく、剣術系のジョブスキルを獲得した人、か?
「そのひと、つよかったの?」
「いや、父さんもそうだが、ジオンも、農村から集められたみんなはとにかく弱かった。中でもジオンは舞い踊るような素振りをするものだから『踊り子』などと言われて兵士たちからさんざんからかわれてたよ」
スキルの予備動作みたいな動きをしてたのに弱い? ジョブスキルがなかったのかな? スキルが発動しないってことか?
まさか、洗礼を受けてない? そんなことってあるかな?
そういや、村で洗礼の話を誰からも聞いたことがないような気がするな・・・。
「ぼく、おどりこじゃない!」
とりあえず、怒ったフリをして、父ちゃんはごまかしておく。
「ははは、すまんすまん」
そう言った父ちゃんは、軽く手を挙げて、おれと姉ちゃんの部屋から出て行った。
ベッドに腰掛けていたおれは木の枝タブルオーセブン・ムーンレイカーを収納してからベッドに横になった。
水汲みに行ってる姉ちゃんはまだ帰ってこなかった。
翌朝。木の枝タブルオーセブン・ムーンレイカーでカッターの素振りをしてから、朝食。
そしていつも通りの一言。
「とうちゃん! おれ、どうのつるぎがほしい!」
「ああ、いつか、その時がきたら必ずアインに渡そう。今はダメだがな」
「ほしいほしいっ……って、えっ?」
おれは父ちゃんを見つめた。
母ちゃんも、姉ちゃんも、父ちゃんを見つめていた。
父ちゃんのセリフがいつもとちがう。
「約束だ。いつか必ずアインに渡すよ」
父ちゃんの本気の目はまっすぐにおれを見つめ返していた。本気と書いてマジと読む目だ。
これ以降、うちの朝食でおれが銅のつるぎをほしがるいつもの流れは失われたのだった。
なんか調子くるうよなぁ、とじじいん家へ行って計算マッハで終わらせて、シャーリーはやっぱりおでかけしないと言って、その代わりとか言って、計算終わらせたらお茶を一杯丁寧に出してくれたりして。
なんかシャーリー、ちょっと背伸びしたいお年頃なんかな?
じじいん家でもちょっと調子がくるうな、などと思いつつ。
それからぼんやり何も考えずに歩いていたら、いつの間にか小川にきてたりして。
無意識で小川に。無意識で。
……シャーリーが一緒じゃなくてもここにきてしまうとは!
はっ?
まさか、おれは……!
シャーリーをなんとなくうまいことキープでもしとこうとして、シャーリーに気をもたせつつ接していたつもりだったのに、気づかないうちに自分の心を盗まれてしまっていたのか?
そんなことはないかな? あるかな? どっちだ? わかんねぇな?
……いやいやいやいや。シャーリーまだ幼女。幼女じゃん。おれも7歳だけどな! おれも7歳だけども!
十年後? いや、八年か七年くらいでもいいか? 今はまだはぇーだろ? な?
「おいっ! アイン!」
なんか、いろいろと考えてたら、突然声をかけられて、おれは振り返る。
そこにはおれに木の枝をまっすぐ突き付けるようにしてズッカが立っていた。もちろん、少し後ろにティロもいる。なんか、ティロはごめんね、みたいなポーズをしてるけどな!
「しょうぶだっ! きょうこそおれがかつっ!」
……アインは勝負を挑まれて困った……いや、しまった。
ズッカは相変わらずバカっぽい。
今日こそ、ってなんだ? 何十回目の挑戦だ?
そもそもズッカと勝負とかした記憶はないな。ないったらないな。あれは勝負などという高尚なものではなかったはずだ。そうだよな? そうに決まってるよな?
おれは一瞬口を開きかけて、そのまま何も言わずに口を閉じた。
何を言ってもズッカを煽るか、ズッカに言葉の意味が通じないか、わかりやすく説明した結果ズッカを怒らせるか、という未来しか思い浮かばなかった。
ふぅ、とため息を吐く。
「めんどうくさそうなかおしてんじゃねぇ!」
……驚いた。ズッカが他人の表情から心の内を読めるなんてな!
木の枝を振り回してくるズッカ。
武器木の枝で戦う様子は、前も思ったけど、心の底から思ったけども、悲しくなるくらい超絶かっこわりぃぃぃ……。いや、マジで。
おれはかわして、かわして、デコピンして、「てっ」ってズッカに言わせて、さらにかわして、かわして、前回と同じように小川に蹴り落とした。
ざばーん!
「ごめんね、アイン」とティロ。
「ティロがあやまることじゃないよ」とおれ。
そのままズッカとティロは放置して、おれは村を離れた。
なんだか嫌な予感がするなぁ、と思っていたら、これがシャーリーとのお出かけに替わる新たな日常の一コマになったのだった。
……という感じで村を出て今日も森まで到達。
そして、今日もまたリポップのチェック。
フォルテボア・なんてら・かんてらのところは……やっぱりアラホワ。リポップしてねぇ。
このまんまリポップしなかったとしたら、なかなかレベル上げもできないよな。
そんなら熟練度でも上げとかないと、どうにもならん気もする。
ただし、物理攻撃の熟練度は別にレベルが上がって経験値が入らなくなったモンスターを相手にしても上げられるからあせる必要があんまりない。
ただ、低レベルのうちの方が熟練度は上がりやすい。太陽神系貫通型攻撃魔法初級スキル・ソルマがレベルアップとともに熟練度が2になっていたのは、それだけ低レベルで使い込んだからだと思う。まあ、あれはモンスターが上位存在だというのもあったとは思うけどな。
もしくはアイテムの入手に力を入れるか。
生産系はそれほどくわしくはないけどな……たぶん初級スキルは四つともいけるけど、あとは鍛冶神系くらいか? レベル5から初級スキル習得可能だからちょうどいいっちゃ、いいよな。
うーん。どうだろ?
少なくとも、もう3日はリポップしてない。このままだと、どのみち草原と森の境界あたりだけでなく、森の奥へと入っていく必要がある。
奥へ行くと、バンビやフォレボが複数だったり、他のより強いモンスターがいたりするはず。
どんな敵がいるかもわからん状態で、準備不足だとするとかなり危険な気もするな。
確か、生産系の初級スキルを四柱分そろえとくと、上位神である『創造の女神アトレー』の加護が洗礼でもらえるはず。器用さのプラスと鑑定能力だったけ?
アイテムストレージでだいたいのところはわかるから鑑定能力はそんなにいらないかもな。でも、器用さのプラスは命中率に関わるからほしいと言えばほしい。
何がほしいかってぇーと、鍛冶神系はやっぱ大事だな。生産よりも支援魔法がでけぇしな、鍛冶神系は! 自己強化ができるってのもでっけぇ! ボス戦必須スキルだかんな!
……かといって初級スキルは武器・防具の手入れみたいなもんだから、今必要かっていうと、木の枝だしなぁ。
医薬神でポーション作るってのはアリ、か。ただし、初級スキルはHP回復のライフポーションだったな。
一番ほしいSP回復のスタミナポーションは上級スキルだからなぁ。レベル25はまだまだ先だろ。
ただ、森の奥に入ろうとするならライフポーションはほしい。月の女神系回復魔法は自分には使えないからな。
商業神系は初級で『ボックスミッツ』か。アイテムストレージみたいなもんだけど、パーティー共有機能があるからポーション入れにするもんだけど……。
この先もソロでやってくなら中級スキルの方がかなり役立つよな。
農業神系はなぁ。アトレーの加護のために初級だけとっとくか?
あんましいろんな系統のスキルに手ぇ出して、狙ってる『賢者』とか『大賢者』になれずに、全然ちがう変なジョブになるのも嫌なんだけどな。フツーに『魔法剣士』とかならまだしも、『商人賢者』とかはちょっとネタ職だし……。
ゲームだと14歳からの1年間だけだから、スキル系統はかなりしぼって狙うジョブをできるだけ高い確率にしてくんだけどな。おれ、まだ7歳だから洗礼まで時間があり過ぎな気がするな……。
悩んでもしょがねぇーか……。
大切なのは安全マージン。とにかく生き残るためにできることをやっとく。
おれは決断し、深呼吸をした。
ええっと、確か呪文は……。
『われ恵多き農業神に乞い願う、我らを支える天の恵みを示す光を、ハダッドヌール』
農業神系特殊魔法初級スキル・ハダッドヌールは通称『採集魔法』だ。半径20m以内の採集可能な素材を光らせる。
熟練度アップで光る素材の数が増えるが、熟練度1の今はとりあえず一つだけ。消費MP4で消費SP2。クールタイム1日。これで明日まで使えない。
おれは周囲をぐるっと見回して、光っている赤い花を見つけた。根から花までひとまとまりに光ってる。光ってるものは半径20m以内でもっとも価値があるもの、となっている、はず。
アイテムストレージから、うちの畑の倉庫にあった小刀を取り出して、光る花を根っこから掘りかえして抜き取る。
手にした赤い花と同じ見た目のものを探しては、根っこから掘りかえしていく。魔法で見つけたひとつだけってのも、もったいねぇしな。できるだけたくさん、採集しとくべきだろ。
そんなことを考えて、十本くらいは見つけて掘りかえした。
そしてそれをアイテムストレージに収納して、名前を確認する。
『リョフツヨソウ』
……マジで? マジでマジでマジで? 嘘だろ?
リョフツヨソウはふざけた名前だけど、スタミナポーションの材料素材としては最高のものでスタミナポーション(特上)が完成する確率が高い貴重な素材だ。HP・MP・SPをそろって回復させるエクスポーションの材料素材でもある。
ちなみにスタミナポーション(並)はポパイソウ、(上)はイノキダケが主な材料素材だ。
正直なところ、今これがあっても、スタミナポーションを作れないから意味はない。そういう意味は本当にない。貧乏性だから集められるだけ集めるけどな! 集めるけども!
ところが、別の大きな意味は、ある。
おれは自分の呼吸が止まりそうな緊張感に身体が震えた。
リョフツヨソウが採集できるってことは、このへんがゲームなら後半から終盤のエリアって証拠になるよな……。
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