第四話 三通の手紙

 円治えんじ君と別れてから、数日後に手紙が届いた。送り主が会社からだったので焦ったけれど、その手紙はどうやら円治君のものらしかった。わざわざ会社の名前を使ったのは、私に封を切らせるためなのだろう。


 もう何回も読み返した、スプリングコートの内ポケットにしまって置いたそれを見る。


『今君がこれを一人で読んでいると言うことは、僕は君とちゃんと別れることが出来たんだろうね。別れを切り出しておいてこんなことを言うのはおかしいかも知れないけれど、新しい彼氏を作ってほしい。どうか僕の最後のワガママを聞いてほしい。君には幸せになってほしいから。お願いします』


 その手紙をうしろに回し、手前に出てきたのは、1ヵ月後に届いた手紙だ。


『もう彼氏は出来たかい? 君のように素晴らしい人になら、出来ていてもおかしくはないんだけれどね。もしも出来ていたら、一度だけ着信をください』


 私は円治君の言う通りに彼氏を作っていた。と言うか、彼と別れてからすぐに声を掛けてきた人が居たのだ。木久太きくた君。確か円治君と仲が良かったような気がする。もしかしてドッキリ? そんなことを考えながら淡い期待を胸に彼との交際を始めた。

 だから手紙を読んですぐに電話を掛けた。でも彼は出なかった。しばらく経ってからもう一度掛けたら、『ツー、ツー』と言う音だけが空虚に響いた。多分着拒ちゃっきょにされたのだろう。


 それからすぐにまた新しい手紙が届いた。


『さて、7月5日だけれども、日曜日でお休みだよね? 君は新しくできた彼氏とデートに出かけるんだ。絶対にだよ。もし仮にデートが出来なかったとしても、せめて二人で居てほしい。お願いします』


 私はまたしても淡い期待を胸に、彼氏とデートをした。なんていけない女なのだろう。木久太君はとても紳士的で、私のことを愛してくれているのに、私は円治君のドッキリなんじゃあないかって期待している。本当にバカだなあ。


 そしてその日の夜に警察から電話が入り、私が本物のバカであることを知った。


 次の日にはもう、郵便受けに手紙が届いていた。


『最後まで付き合ってくれてありがとう。もしも君に今の時点で疑いが掛けられていたら、これまでに送った手紙を警察に渡して、君の無実を証明してほしい。(まあ多分、そんなことにはならないと思うけれど)それが終わったら、送った手紙を破いてほしい。そうしたら君は新しい彼氏と幸せになってほしい。僕の幸せは、君が幸せになることだから。独善的な元彼でごめんね』


 最後の空行に、文字を消したような跡があった。よくよく目を凝らしてみると、『愛してる』と書かれているようだった。


 それをビリビリに破った。最後まで、愛しい彼の言いつけを守った。彼が言う通り、私の幸せが彼を幸せにすると言うのなら、そうなろう。


 部屋の扉が開き、背中に木久太君の声が聞こえた。振り返った私は、彼に問いかける。


「ねえ、木久太君。もしも……」

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