5章:高揚

バイト漬けの日々は続きつつ、就職活動のほうも、徐々に忙しくなってきた。

安野とは、バイトでは毎日顔を合わせていたが、話すことはあまりなかった。

安野自身も、声優のオーディションが12月中旬に控えているらしく、8月現在で早くも、少し焦っているようにも見えたので、あまり話しかけられなかった。

月日はあっという間に流れ、11月中旬になっていた。

俺は、何社かの面接を受け、就職活動は架橋に入り始めていたところだった。

ある日の晩、安野からNINEが来た。

:安野

「オーディションまであとちょっとなんだよ~」

「練習手伝ってくれない?」

すぐに既読をつけ返信した。

:金子昌弥

「いいよ。どこでやるの?」

:安野

「じゃあうちで。」

:金子昌弥

「了解。支度したら行くわ。」

10分後、家を出て、電車に乗り、安野の家へ向かった。

安野の家に着いたのは21:00頃だった。

インターホンを押すと、風呂上がりのパジャマ姿の安野が出てきた。

「カネゴン遅いよ~、上がってー。」

「お邪魔します。」

部屋に上がるなり、原稿を手渡された。

「これちょっと読んで、相手役お願いね。」

「お、おう。」

そこまで長い原稿ではなかったのですべてに目を通すのに、あまり時間はかからなかった。

「よーし、じゃあやろっか。お願いねカネゴン!」

「おう。」

そうして、二人は練習を始めた。

・・・

・・・

・・・

時計が、一周しようとしているところだった。

原稿の告白シーンに移ろうとしていた。

「マサキ君、私はあなたのことが好きでした。」

「俺もーシオリのこと好きでしたー。」

「なんでそんな棒読みなの~?」

「そんな風に読まれたら、感情はいらないよ~」

「もう一回やって。」

そう、この原稿の主人公はマサキ。

なんだか俺の名前にすごく似ている。

そして何より恥ずかしさを生み出すのは、ヒロインの名前が、シオリということだ。練習とわかっているのに、心臓は鼓動を早め、顔の周りはとても熱くなってきたのがわかったが、安野のためだと言い聞かせ、もう一度言った。

「俺も、シオリのこと好きでした。気づけばあなたのことばかり追いかけてました。」

安野の顔を見ると、彼女は、顔を赤くし、なんだか照れているようだった。

その姿が、とてもかわいいと頭の中で、デレデレしていたら、

「カネゴーン~、あくまで練習だからね・・・」

と赤くしたままの顔で頬を膨らませながら、恥ずかしげに言ってきた。

「お、おう。」

こうして、なんとか告白シーンを乗り切り、2時間ほどで、練習は終わった。

「カネゴン練習付き合ってくれてありがとう!」

「俺で良かったらいつでも手伝うよ。」

「ありがとう。」

「ねぇカネゴン。」

「どうした?」

「オーディション受かったら聞いてほしいことある。」

「わかった。絶対受かれよ!」

「ありがとう。」

「じゃあ今日は帰るね。」

「私、頑張るね。」

「頑張れ!」

そう言い残し、部屋に背を向け、駅へ向かった。

・・・

・・・

11月下旬

安野から、演技の勉強のために映画に行きたいと誘われた。

安野はバイトをし、その後、養成所に通う生活をしていたので、映画はレイトショーしか見に行くことができないらしい。

というわけで、映画は次の日に支障のない、土曜日に行くことにした。21:00に梅田駅の映画館前集合になった。

・・・

土曜の夜


待ち合わせで先に待っていたが、普段待ち合わせに遅れることのない安野だがこの日はなかなか姿をあらわさなかった。心配になり始めた頃、後ろからいきなり、

「ごめーん、お待たせ~」

安野が声をかけてきた。

「遅かったから心配したんだぞ。」

「えへへ、ごめんごめん。」

「チケットはもう買ってあるから早く入るぞ。」

「気が利くね~」

「いいから行くぞ。」

二人は映画を鑑賞し終わり、座席をたった。

その後、映画館の一つ下の階にあるゲーセンで楽しい時間を過ごした。

満足した安野は俺の隣で、見た映画のかなり特徴的だった、エンドロールの鼻歌を歌いながら、駅へ歩いていた。

その後、電車に乗り、席に座ると、1分も経たないうちに安野は俺の肩にもたれて、寝ていた。やはりかわいい。

そして、ドキドキが止まらない。


電車に揺られること、20分。安野のアパートがある漢城大学前についた。俺は寝ている安野を起こし、疲れている安野が心配だったので、家まで送るため、一緒におりた。

「ごめんねーカネゴン。」

「大丈夫だよ。」

安野を家の前まで送り、俺はまた駅へ向かった。


家について、すぐにシャワーを浴び、眠りについた。

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