4章:変えられない過去
安野の部屋で寝ていた俺が目を覚ましたとき、安野はまだ気持ちよさげにねむっていた。
時計を見ると、10:00だった。
昨晩は結局3:00くらいまで話していたので、安野を起こすのはなんだか申し訳なく思えたので、そのまま寝かせておいた。
だが、自分が帰ろうと支度をしていたタイミングで安野も目を覚ました。
「おはよぉー。」
「おはよー」
「もう帰っちゃうの?」
「まぁちょっと用事あるから。」
俺は用事などなかったが、これ以上安野に気を遣わせるのも悪いと思い、帰宅することにした。
「そっかー。じゃあまたバイトでねー。バイバーイカネゴン。」
「泊めてくれてありがとう。またなんかおごるわ。」
「やったね」
そう言い残し、扉を開き部屋を後にした。
・・・
・・・
・・・
それから少し日が経った頃だった。
智也が、次の土曜日に会わないかと、NINEをくれた。
もちろん、快く俺は承諾した。
土曜日。
俺たちは、漢城大学前駅のホームに集合し、駅周辺の飲み屋に行った。
店に入り、前回と同じく、ビールを頼み、それがテーブルに届くなり、ゴクゴクと、あっという間に飲み干した。そして、会話は徐々に弾み始めた。
「そういえば、この飲み屋の近くに俺らの学生時代のバイト先あるね。」
「そ、そうだな・・・」
「まだ引きずってるんか?」
「まぁ・・・」
「もしかして、就活渋ってたのもそれが原因?」
「まぁそれが一番の原因かな。」
・・・
そう。俺と智也。大学3年まで、同じ個別指導の塾で働いていた。
このことは、安野は知らないらしい。
塾長の増田さんは本当に面倒見のいい人だった。
しかし当時、その塾の評判はいまいちで、増田さんはいつも上からプレッシャーをかけられていた。
増田さんは、誰よりも生徒のことを思い、生徒の進路相談によく乗っていた。
だが、結果はむなしくもついてこず、苦しんでいた。
そんなある日、俺が大学の講義を受け終え、バイト先に向かうと、衝撃の景色が目に飛び込んだ。増田さんが、面談室のなかで首をつっていた。
状況が飲み込めず、どうしたらいいかわからなかった。
すぐに110と119に電話した。
増田さんは救急隊がついたときには、すでに息を引き取っていた。
その後、増田さんの死因が自殺だということが警察から言い渡され、上層部の人たちも、塾へ着た。警察や、救急隊の人たちが、帰ると、その場にいた講師と、お偉いさんたちでミーティングが始まった。
「増田君は本当にこの塾のために力を尽くしてくれました。心からご冥福をお祈りしています。」
「ただ、増田君は、最後にこの場所で人生にピリオドを打つことを決めました。」
「彼はそれだけこの場所のことを思っていたのでしょう。」
「どうか、彼のようにこの場所のために自分の使命を尽くせる人に皆さんもなっていただければと思います。」
俺はこのお偉いさんの言葉を聞き、耳を疑った。
こいつら本気でそんなこと思ってるのか?
大人の社会の闇に触れた気がし、とてつもなく嫌気が差した。
それからというもの、バイトはもちろんのこと、就職することさえ、嫌になり、俺は、就活から逃げてしまった。
・・・
「マサ、ごめんな・・・」
「せっかく楽しく二人で飲もうと思ってたのに、こんな話振って・・・」
「別に大丈夫・・・」
このまま二人は飲み続け、終電に乗れるタイミングでお開きにした。
・・・
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