カーネーション

 世にも珍しい宇宙生物が展示されているというから、久しぶりに博物館へ足を運んだ。生体展示館までの道のりには長蛇の列が出来ていて、私はそのしんがりに並んだ。

「なんでも頭が我々の鼻くらいしかなくて、それでいて目の玉は我々と同じくらいの大きさらしいんだ」

 並ぶ人々のざわめきの中に、そんな話し声がちらほら聞こえて来る。

「目の玉はカタツムリみたいな柄の先に付いてるとか」

「猿みたいに毛むくじゃらなんですって」

 そういえば、どの情報媒体を見ても、宇宙生物の外見は詳らかにされていなかったのを思い出した。珍しいとか、奇妙とか、そんな形容詞が踊っていた記憶しかない。

「それで時々、静かな声で鳴くんですよ」

「おや。鳴く。と言いますと、鳥のようにですか」

「いや。それがほら、我々が、悲しくてやりきれない時に忍び泣くでしょう。あれと似た、けれどあれよりも余程、切なげな声らしいのです」

「そうですか」

 それまでの喧騒が嘘のように、辺りは静まり返った。誰の頭にも、この広い宇宙でただひとり、知らない星で、誰にも通じぬ言葉で同胞を思う生き物の姿が浮かんでいた。

 誰かが密やかに、鼻を啜った。

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