リビングストンデージー
美術品のコレクターとして知られる富豪は、慈善家としても有名だった。多くの団体に寄付をし、戦災で拠り所を失った孤児を何人も保護していた。私は、彼が建てた孤児院のひとつを取材しに行ったことがある。
「あの方は、私たちにとって、あしながおじさん……いいえ、それ以上の方です。あの方が引き取ってくださらなかったら、私たちは多分、生きてはいられなかったでしょう」
美しく澄んだ瞳の少女が、そう話してくれたのが印象に残っている。
子供たちへの取材の後で、富豪本人にも話を聞くことが出来た。スマートな老紳士といった風情の彼は、孤児院の中庭で遊ぶ子供たちを眺めながら、目を細めた。
「私は美しいものが好きなんですよ。特に、宝石がね。ご覧なさい、彼らはまるで生きる宝石だ。あの瞳の輝きを、失わせてはいけないのです」
陽光の中、無邪気にはしゃぐ彼らの瞳は、たしかに美しく光っていた。
そのときの風景を思い出しながら、私は今朝の新聞記事を読んでいる。あの富豪が保護した孤児院の子供たちは、誰も彼もが失明していたらしい。瞳の輝きを増すため、目に多大な負担のかかる目薬を常用させられていたのだという。富豪が亡くなって初めて、その事実が明るみに出たのだという。
あのときの彼の言葉に、嘘偽りはなかった。彼は骨の髄まで、美しいもののコレクターだったのだ。
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