シラン
忘れるなんて、出来るはずがない。人生でただひとりの、完全に心を許せる人だったのだから。
そう、思っていた。
毎朝、目にする写真に声をかけることを、帰宅して暗い部屋にただいまと言うのを、眠る前に涙を流すのを、忘れることが増えた。
代わりに少しずつ、新しい出来事が私の中に積み重なってゆく。
同僚との楽しい会話、仕事のちょっとした成功、家族の慶事、新しい知り合い、友人、そして。
あの人が座っていた椅子に、違う人を座らせた。あの人が眠っていた寝台に、違う人を眠らせた。
「私のことなんて忘れて構わないですからね」
そんな、あの人の最後の願いが、もうすぐ叶ってしまう。それが悔しくて、たまらない。
手の中で、永遠に変わらない笑顔が歪む。
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