キンギョソウ

「大昔に生きていた『ヒト』という種族は、私たちみたいな外殻も多足も、持ってなかったって本当ですかー?」

 アンテが、無数に枝分かれした多足をうねらせながら、先生に尋ねた。それは私も気になっていた。教室中の四眼が、壇上の先生を見つめる。平べったくて直立不動の先生は、合成音声で答える。

《推測では、イェス》

「わあ、本当にそうなんだ!」

 アンテが歓声を上げ、私たちも顔を見合わせる。もう遥か昔に絶滅したと言われるその生き物は、ほんの僅かな時期に高度な文明を発達させ、瞬く間に滅び去ったと聞く。彼らの言語を解析した研究者は、彼らの自称である『ヒト』という呼び名を採用し、彼らの遺跡群を日夜、研究しているのだ。

《ヒトは柔らかい肌を持ち、二足歩行していたと言われています。ワタシたち『先生』は、彼らの外見を模しているのですよ》

 そうだったの! という私たちのざわめきに、先生は機械的な微笑みを浮かべた。ヒトという種族も、生きていたとき、こんな笑い方をしていたのだろうか。

《ヒトは、貴方がたのように高度な知能を持ち、栄華を極めました。しかし、彼らはお互いに争ったり他の種族を圧迫したりすることが好きだったので、この星の歴史の上では一瞬で、滅んでしまいました》

「えー! でも、そうなることは予測できたんじゃないですか?」

 またしてもアンテが質問し、私たちも一斉に頷いた。高度な知能があったなら、そのくらいのこと、簡単に予測して回避出来そうなものだ。

 しかし、その問いに、先生は奇妙な表情をした。素直ではない笑み。ヒトの姿を模した先生だからこそ、それについて語るとき、私たちよりも感じることがあるのかもしれない。

 先生は少しの間の後、唇を曲げるようにして答えた。

《推測では、やはり、ノー》

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