ベラドンナ系デルフィニウム

 美しく年若い女王は尊大で有名で、何をするでも人より上に立ち、他の者を睥睨した。式典では常に壇の最上段に椅子を構え、高所に構えられないときには他の者を床に座らせた。言葉遣いも横柄で、他国のお偉方相手にも、数段上からものを言った。

「わらわに港を割譲しろと申すか。己が身をわきまえよ」

 つんと顎を上げ、女王は大国からの大使の言葉をはねのけた。自分より遥か年少の娘に鼻であしらわれ、大使は肩を震わせた。しかし目の前の小娘の後ろには、彼女の父の代までに培われた、強固な同盟の盾がある。大使はどうにか笑顔を保ったまま一礼し、応接間を辞した。

 大使が去り、使用人たちを下がらせ、自室に戻った女王は小さく息をついた。壁に飾ってある、亡き父王の肖像画に向かって跪き、祈るように両手を組み合わせる。

「お父様。私は今日も、ちゃんと『王』でいられたでしょうか。お父様が大切に守ってきた国を、これからも守り通せるでしょうか……」

 父の温かく大きな手を思い出し、思わず涙が溢れそうになるが、どうにかこらえた。もう、生来の気弱は捨て去ると決めたのだ。

 再び立ち上がったとき、彼女はもう、全てを掌握し、誰よりも国のことを思う、『王』だった。

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