サクラ
スコップを持った友人の引きつった笑顔が、月光に白く浮かび上がる。足下には、掘り返したばかりの土の山。彼女の背後、廃校となった母校の校舎から落ちる影が、揺らめいた気がする。
「あはは……ねえ、これ、どうしよ」
友人は泣き声だ。私にいたっては声さえ出ない。
掘り返した桜の根本に、白く光るのは大量の人骨だ。
桜の木の下には死体が埋まっている、なんて話を文学部の友人が肴にし始め、それならせっかくだし今から掘りに行ってみようよと、酔った勢いで出て来たのが深夜の一時。そんなに深く掘ったつもりはなかったのだけれど、二人とも正気を失っていたので予想より熱中してしまったらしく、気がついたときには何か硬いものを掘り当てていた。その正体に気がつかないまま掘り出し、暫くしてからようやく、骨だということに気がついた。
だって、明らかに小動物のものではない大きさなのだ。
「ねえ、これ……警察に……」
友人が絞り出す言葉に頷こうとしたとき、その背後からゆらりと出てきた人影があった。ぎゃああ、と声を合わせて悲鳴を上げて、腰を抜かした私たちの前に現れたのは、私が在校していたときからいた、守衛さんだった。廃校になったとはいえ、しっかり管理はされているのだろう。
守衛さんは、深夜に桜の木の下で立ち尽くす酔っぱらいを見て、眉をひそめた。
「ここは立ち入り禁止だぞ」
見知った顔に安心した私たちは、ホッと息をつき、発掘してしまったものについて早口でまくしたてた。守衛さんは胡散臭そうに私たちを見ていたが、やがて大きく息をついた。これから、何かとてつもない重労働をするかのような雰囲気だった。
「あーあ、面倒ごとを増やしてしまって」
「す、すみません……」
謝る場面なのかどうか分からないままに頭を下げた私たちに、守衛さんはため息をついた。
「二人埋めるのは大変なんだからな」
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