ネメシア

 正直に生きなさい、と幼い頃に母から言われたので、これまでずっと、正直を通してきた。

 小学生のとき、女子に「私、かわいい?」と聞かれ、正直に答えたら、ビンタされた上、他の女子からも完全に嫌われた。中学生のとき、授業中の居眠りを叱られ、理由を聞かれたから正直に答えたら、成績を下げられた。

 そして今、進路選択に際して正直にやりたいことを話したら、ぼくを抜かした担任との数時間にわたる面談の末、親が泣きながら教室から出て来た。

 なんであんたはそんな子なの、と母が頬を濡らしながら言うので、ぼくは正直に答えた。母はしばらく呆然とぼくを見ていたが、やがて掠れた声で、あんたは正直でなくて良い、と呟いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る