イチジク
子宝に恵まれますように、と、妻と二人で御利益のある神社に何度も詣でたのが功を奏し、結婚したその年に、妻の妊娠が分かった。眼に入れても痛くない可愛い女の子が生まれ、手探りながら充実した育児生活が始まった。
と思ったら、次の年に第二子が、その次の年には第三子が続々と生まれ、実家の父母の手を借りなくては、とてもやっていけなくなった。養育費のため、ぼくは残業をたくさん入れ、可愛い子どもと妻の顔は、彼らが眠っている間しか見られないようになってしまった。
それにも関わらず、翌年、妻が双子を出産した。浮気するような暇は彼女にはなかった筈だし、事実、彼女も否定した。首を捻っていると、次の年にもまた、子どもが生まれた。授かった命を無に帰すなんて選択はぼくたちには出来ず、かと言ってこれ以上、養うことも出来ない。仕方なく、その子どもは養子に出すことにした。
そうして、それ以降も毎年、妻は子どもを産み続けた。ぼくが関与しようがしまいが、子どもは当然のように産まれてきた。もう、かれこれ三十年になる。ぼくも妻も、いい歳だ。けれど、やはり今年も妻は妊娠し、当然のように出産した。
大きくなった子ども達のひとりが結婚相手を連れてきたその夜、自分たちの結婚直前のことを回想していて、ぼくはひとつのことを思い出し、妻に尋ねた。
「ねえ、あの神社へは何回、詣でたんだっけ」
「確か一ヶ月間通ったんだから、三十回じゃないかな」
妻が子どもを産むようになってから、三十年。子どもの数も、三十人。
ということは、ひょっとして、と思いながら、今年も二人で春を迎えた。
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