オオアラセイトウ

 ハナナは何でも知っていた。今日の天気も、地区リーダーが不機嫌な理由も、世界の文明が崩壊してしまった経緯も、何でも知っていた。珍しい、宝石のような紫色の眼を持ったハナナは、ぼくより少し年上に見えた。昔は年齢というものが重視されていたらしいけれど、文明と同時に殆どの大人が死んでしまった後の今となっては、あまり意味はない。とは言え、気にはなる。

 大戦時代に作られた洞窟住居に集まって、地区リーダーによる食糧配給を待っているとき、ぼくはハナナに、そっと質問した。

「ハナナの年齢? はは、秘密だよ」

 ハナナは笑い、ぼくの頭を撫でる。

「君は何歳だと思うのさ」

「えーっと、十五歳くらい?」

「はは。まあ、そんなとこさ」

 何でも知っているくせに、ハナナは自分のことは上手くはぐらかして話してくれなかった。前に性別を聞いたときも、似たようなやりとりになったのを覚えている。

 そこへ、地区リーダーが慌てて駆け込んできた。その手に、食糧は見当たらない。

「逃げろ! 自律兵器が残ってた!」

 途端、洞窟の中はパニックになった。

 大戦時に使われた自律兵器は、人の形の生きたものを手当たり次第に破壊していく。プログラム制御がイカれたとかで、作った国の人間たちも見境なく殺されてしまった。最後の方に残っていた良心ある大人たちがどうにか全て破壊したと聞いていたけれど、どうやらどこかに残っていたらしい。

 子どもたちが泣き叫び、逃げ場所を求めて駆け回る中、ハナナがスッと洞窟を出て行った。慌てて追いかけた僕は、ハナナが奇妙な形の自律兵器に対峙するのを見た。ハナナは僕を見て、いつものように笑った。

「ついて来ちゃったのか。仕方ないな。これからハナナがやることは秘密だよ」

 ハナナの身体の各パーツが、機械の部品のように素早く組み替えられていく。いや、それは正しく機械の部品なのだ。やがて殆ど自律兵器と同じ姿になったハナナは猛々しく吠え、人類を滅ぼした目の前の敵へと掴みかかった。

 ハナナが何でも知っていた理由を、僕はようやく知った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る