キブシ

 墓地で待ち合わせなんて、変ですよね。でも、貴方と会えるなら、それがどこだろうと構わないのです。今日はとても良いお天気で、きっと貴方も機嫌良く、目を細めて歩いてくるでしょう。出逢った頃、その穏やかな表情に惹かれたのを今でも思い出せます。

 桜の花が、今年も綺麗に咲きました。この間お会いしたときはまだ、蕾さえ見えなかったのに。月日の移ろいは美しく、そしてなんて儚いものでしょう。毎月お会いするたびに、私はその流れに心を打たれます。そして、未だに貴方がここに来てくれることが、嬉しいのに切ない。もう私のことなど忘れてくれても構わないのです。そうしたら、きっと私も桜とともに、春風に吹かれて消えてしまえるでしょう。

 ああ、やはり貴方は今日も来てくれました。手には春の花が混じった供花を持ち、そしてやはり、穏やかに目を細めて。昔よりもゆっくりとした歩調で、そして入口で立ち止まる。

 ここに立っていると、目が合うような気がするのです。貴方は、ただ石段を見上げているだけですけれど。

 膝を庇うように上りだした白髪の貴方の、隣に寄り添うこの瞬間が、私には何より嬉しい瞬間なのです。

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