ジャスミン

 神からの贈り物は、全人類分の「完璧な愛の対象」だった。それらはある晩、突如として全人類の下に降り立ち、人間達それぞれが抱いていた精神の隙間に、ぴったり寄り添った。

 理想の男、理想の女、理想の両性具有、理想の無性。なんなら人間の形でなくても良かった。動物、植物、無生物、無機物、それらは何にでもなった。目の前の人間が心から愛し、心底から欲望を掻き立てられるものに。

 かくして人間はそれまでの他者との関係を断ち、神からの贈り物との交渉に没頭した。それらによって欲望を満たし、また掻き立てられ、人間は人間を愛することを忘れた。そうして、ほぼ全ての人間が個人的で根源的な欲望の充足に終始して死んでいき、残ったのは、そうした欲望を何によっても掻き立てられない人間達だけだった。

 神はその結果に満足して、贈り物達を天に呼び戻した。これで地球も少しは静かになることだろう。

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