リナリア
少女は、目に見えないものなんて信じなかった。小さなころから現実的な性格で、サンタクロースもまったく信じなかったし、妖怪も妖精も神も悪魔も仏も天国も地獄も、否定するまでもなく、ハナから無きものとしてきた。
だから最近、身に起こる小さな幸運も、自分の日頃の行いが良いお陰だと信じている。
最近とても寝付きが良いのは、部活動で汗を流しているから。ご飯が美味しいのは、順調に成長しているから。テストの点数が上がったのは、予習復習を欠かさなかったから。大好きな親友とクラス替えでまた一緒のクラスになれたのは、自分の運が良いから。気になる彼と話す機会が増えたのは、自分磨きを頑張ったから。
「しかし、お前も酔狂だよな。わざわざ、好きな相手の、他人への恋を成就させてやろうなんて」
少女の様子を陰から見守りつつ、人間には聞こえない声で会話を交わすのは、背に羽の生えた小さな妖精たちだった。話しかけられた方は、少女の笑顔を見つめながら答える。
「彼女が幸せなら、それで充分なんだ」
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