リュウキンカ

 生まれる前から、未来は決まっている。人間は母親の胎内に発生してすぐに行われる検査によって、生まれ持つであろう特性や能力の偏差、成長と容姿変化の予測、果ては寿命の概算までを行われ、それらを基にした一生をデザインされるのだ。デザインは、弾き出されたデータを基に親自身が手掛ける場合もあるし、人生デザインを専門とするデザイナーが行う場合もある。医療的なケアや介護が必要になりそうな場合は医師も介入して、まだ生まれていない赤ん坊のために、すべてが用意される。親は既に顔を知っている未生の子の幸せを願い、幸福の種を撒けるだけ撒いておくのだ。

 だから、ぼくのように、何もデザインされずに生まれてきた子どもは稀だ。あまりに世間一般の常識から外れすぎていたために、小さな頃から何をしても、尽く注目された。適性から外れたことはさりげなく制止される子どもたちの中で好き放題に遊ぶぼくは羨望の対象だったし、普通はあり得ない、職業選択の自由も享受した。本来ならば触れ合うことを許されない、潜在的アレルギー対象である動物を飼育し、食べたいときに食べたいものを食べ、やりたいときにやりたいことをしてきた。

 だから、ぼくの存在が世界の平穏を乱しているのだと指摘されたとき、それはごもっともだと思った。規定される幸福を選んだ人類にとって、枷のないぼくのような存在は、それだけで邪魔なのだ。

 処刑は薬一粒で終わる。飲んだ瞬間に意識を失い、その数瞬後には命も失う。

 やりたいことをやりたいようにやったから、悔いはない。ただひとつ気がかりなのは、ぼくという存在によって世間を騒がせるという「デザイン」を考えた両親が、この結末も喜んでくれるだろうかということだ。

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