レンギョウ

 敷かれたレールの上を走ってきた。

 胎教から始まり、英才教育に熱心な幼稚園、有名大学の附属校、塾に家庭教師にと、与えられるものは素直に受け取って努力した。私が努力すればするほど、親は喜ぶ。

「貴女が私たちの希望よ。頑張って良い大学に入って良い職に就いて、幸せになって欲しいの」

 母はよく、そんなことを言った。

「あんた、そんなに親の言いなりになって楽しいわけ?」

 そんなことを言う友人も、中にはいた。私の通う学校では本当に珍しいタイプの子で、他校の生徒と深夜までドライブしたりなんかしていたけれど、結局、授業についていけなくなって辞めてしまった。本人は「こんな窮屈なところ、こっちの方から出て行ってやんのよ」と息巻いていたけれど、私は内心、彼女のことを馬鹿にしていた。

 そして今日、目指していた大学の合格通知が届いた。

 思わず、大声で笑い出したくなる。あの友人に通知を見せて、今こそ答えてやりたい。

「言いなりになるのが、楽しいわけないでしょ」

 でもこれで、今までの我慢が報われた。ここまでやったのだ、もう誰にも口は出させない。ずっと、ずっと、この日のために努力してきたのだ。自由を手に入れる、この日のために。

 これから存分に、今までの日々を取り戻してやる。

 これまで走ってきた、そしてこれからのために用意されているレールに思いっきり舌を出して、私はあらぬ方向へと全速力で走り出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る