ウメ
日本人の多くは七草をソラで言えるらしい……母によると。とすると、私は日本人の多くには入らない訳だ。だいたい、一年に一度、草を入れたお粥を食べる日があるって、よく分かんないよね、日本人って。まあ、家に一人、それもベッドの中で寝込んでいる人間が何を言っても、誰にも聞こえやしないのだけど。
新年早々、体調を崩した。年末年始に調子に乗って食べ過ぎて胃腸を弱らせ、雪が降ったから嬉しくなって雪だるまを作っていたら、完全に風邪をひいた。熱はそれほど出てはいないけれども、お腹をやられた。それで、朝から薄味のお粥しか食べられていないのだ。
今年はそもそも忘年会や新年会は無いけれど、高校時代の部活仲間とオンラインで簡易同窓会をする予定があった。それが、よりによって今日なのだから情けない。今年は色々あったせいで大学にもろくに通っていなくて、久しぶりに人と話すチャンスだったのに。
布団の中で落ち込んでいると、母が買い物から帰宅した音がした。
「ただいま。調子はどう」
「まだお腹ぐるぐるいってる」
「そう。まあ、どっちにしても今日は七草粥だったから、ちょうど良かったよね」
何がちょうど良いと言うのか。
納得いかなかったけれど、お粥以外は受け付けない身体になってしまったのはその通りなので、仕方ない。居間でおとなしく待っていると、独特の匂いが漂ってくる。
「はい、これ食べたら絶対良くなるよ」
「はーい……」
身体には確かに良いだろう、草ばかりのお粥にスプーンを入れた時、母に止められた。
「あ、ちょっと待って」
冷蔵庫を覗いて戻って来た母の手の中には、赤い粒。
「お母さん、本当梅干し好きだよね……」
白と緑のどろどろの中に、赤も加わる。どれも、そんなに好きではない味だ。けれど目の前で微笑む母に、そんなことは言えない。
「梅干しは三毒を消すって言うからね、合わせて食べたら絶対、ぜーったい、良くなるから」
「……いただきます」
予想通りの味に、予想通りの酸味。思わず口をすぼめると、母は嬉しそうに笑った。
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