マンサク

 私は魔術師の家系に生まれた。

 ご先祖様はこの地方で、その年の不作豊作を占ったり、人の病気を治したり、生まれた子どもに縁起の良い名前をつけたりといった、いわゆる「まじない」で生計を立てていたという。決して人を陥れたり、怪我をさせたりと言った「のろい」は請け負わず、誰からも尊敬された凄い魔術師だったらしい。

 私の一族はその継承に熱心だったので、ご先祖様の代から何代も後の子孫である私にも、しっかりとその力は宿っている。つまり、その年の不作豊作を見極めるための稲についての知識だったり、ちょっとした風邪症状に効く薬草の育て方だったり、縁起の良い漢字に関する蘊蓄だったり、そういう力だ。……そんなもの、この科学全盛の現代に於いて、どう使うあてもない。

 私は小さな頃からそういう知識を植え付けられて育ってきたけれども、今まで役に立てられたことなんて一度も無い。地域の不作豊作について私が出る幕は無いし、風邪薬を一から調合している暇があったらドラッグストアにでも行ったほうが早い。子どもの名付けを頼まれる機会も、学生の私には無い。特別な知識だから大事に次代に継承しろと日頃から言われているけれど、そんな気には到底なれない。

 でも、一つだけ、現代でも生かせる力がある。

「お願い、ミツルちゃん! 先輩との相性を占って!」

「オーケー、任せといて」

 可愛い友だちが見つめる前で、私は庭から取ってきた植物の枝を、学校の机の上に立てる。鉛筆サイズの小さな枝の、倒れる方向を見守る。……右に倒れた。

「うん、悪くはないみたいだからアプローチしてみな」

「ありがとう、ミツルちゃん! 今度パフェ奢る!」

 友だちは笑顔で叫び、走って行ってしまう。その幸せそうな背中を見送っていると、魔術師の家系に生まれたのも、そう悪いことではない気がしてくる。

 特定の植物を使った棒占いが必ず当たる、という力は、こういうことにしか使い道が無いのだけれど。

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