ハボタン
新しく配属された先は、キャベツ農家だった。年の初めに簡単な研修を受けて、既に何列にも綺麗に植えつけられた小さな苗の様子を、毎日しっかり観察する。農家で働く人たちが額に汗する中、私はひたすらタブレットにデータを入力して、涼しい建物の中でその分析をした。
梅雨の時期にたくさんの水分を吸ったキャベツたちはどんどん大きく育ち、データを打ち込まれたタブレットが、時期の到来を予測し始めた。
「皆さん、そろそろ収穫の頃合いだと思われます」
私の言葉に、農家の人たちは笑顔になった。「それじゃあ見学会と行くかね」と奥さんが笑い、私はその夜のうちに見学会のチラシを作成した。今週中には新聞に折り込まれて、近隣の地域に配達されるだろう。広報担当者がSNSでも告知を行い、準備は万端整った。
翌週行った見学会には、合計一〇〇〇〇組のカップルが訪れた。彼らは配布したネームタグに自分たちの名前を書き、各組で気に入ったキャベツに取り付けていった。来たる幸せな未来を想像する彼らの纏う空気が、側で見ている私たちにも届いた。
見学会から一週間後、とうとう収穫の時期が来た。この日ばかりは頭脳労働担当の私も駆り出され、夜明け前から作業に従事することになった。大掛かりな機械の取り付けられた特殊な台車を引いて、キャベツとキャベツの間を進んで行く。
所定の位置に辿り着いた私たちは、一斉に、足元のキャベツの葉を開いていく。途端に、畑中を圧するおたけび……否、産声が響き渡る。血色の良い元気な赤ん坊が、次から次へとキャベツの中から取り上げられていく。
「おー、よしよし」
取り上げた赤ん坊の可愛い足首に、そのキャベツに付いていたネームタグをそっと嵌める。幸せな家庭に出荷され、幸せに育ってくれることを祈って。
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