ホオズキ

 クリスマスも終わり、年始に向けて忙しそうに行き交う人混みの中、黒っぽい人影を見るたびに、目で追ってしまう。冷たい視線の奥に、赤くちらつく炎のような魂を隠した男の姿を探してしまう。

 もう数ヶ月、あの悪魔の姿を見ていない。

 しかし、だから何だというのか。私たち天使の仕事が、やつらの存在を圧迫していることの、それは何よりの証明ではないか。主に反する魔性のものの姿を見ずに済むのは、感謝すべきことのはずだ。

 だが……。

 人間としての仮住まいに帰り着き、錠を開けた私の肩を、誰かが叩いた。

「久しぶりだな、天使サマ」

 耳元で囁く声を聞くまでもなく、相手の発する気配に肌が粟立った。すぐに振り向くことが出来ない。

 ああ。

 私は今、天使として正しい表情をできているだろうか。

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