ブラキカム

 どうしても美しく育てられないと言われる植物があった。古来から園芸好きの人々が様々な工夫を凝らして育ててきたのだが、その植物の姿として伝わってきた絵図のようには、どうしても育たない。古代の文献に載っている絵図なので、そもそも違う植物が描かれているだけなのではとも言われ色んな学者が調査をしたが、どうやらその植物で合っているらしいということが分かっただけだった。

 毎日欠かさず水をやっても、ぐねぐねと曲がりくねるばかり。それならばと水を極力与えないようにすると、すぐに枯れてしまう。どんな肥料を与えても、どんなに綺麗な言葉をかけても(と言うのは、綺麗な言葉をかければ植物が美しく育つと信じられていた時代があったからだ)、絵図に描かれたような雅やかな花を咲かせることはなかった。幸いにしてその植物は株で増えたので、物好きな園芸家達はオリジナルの手入れ方法を競った。

 しかしある時、その頑ななまでの育たなさに剛を煮やした一人の園芸家が、植物を窓から投げ捨ててしまった。どのようにして美しく育てるか、という点に主眼が置かれてきたため、それまで誰も、そんな暴挙に出た事はなかった。

 数日後、園芸家は頭を冷やし、植物を回収しようと外に出た。そこで、世にも美しい花を見た。豪華絢爛な、大ぶりで色合いの鮮やかな花。香りはユリやバラに匹敵するほどに芳しく、吸い込むと、くらくらした。古代の絵図にあった植物そのものだった。

 人の手が介入しなければ本来の美しさを発揮する……それは、そういう植物なのだった。

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