ピンクシンビジウム

 一番上の姉様は、国で一番の美人と言われていた。二番目の姉様は国で二番目、三番目の姉様は三番目。十人いる従姉妹達はそれぞれ四番目から十三番目で、最も年少の私は、何番目にも数えられなかった。

 それはそうだろう、私には取り立てて目立つところは無い。それどころか顔にはそばかすがあるし、髪の毛はどうしたって癖が取れず、はねてしまう。他のすべての親類にはある、ぱっちりとした二重はなぜか私にだけ遺伝せず、背丈も期待したほど伸びなかった。だからこれまで、姉や従姉妹達の華々しさが羨ましいばかりの日々を過ごしてきた。

 それなのに。

「あの……どうして、私なんですか」

 目の前で微笑む青年に、おずおずと尋ねる。この国の第三王子である彼は、先日行われた舞踏会で姉様や従姉妹達、そして私と踊った。そこでなぜか……あろうことか私のことを気に入り、こうしてお茶の席に招いてくれるようになったのだ。

「どうして、とは?」

 王子は首を傾げる。本当に質問の意味が分からない様子だ。

「いえ、その……姉や従姉妹達の方が見目も良いですし、踊りだって上手だったと思うんです……」

 自分の拙いステップを思い出して、声が小さくなってしまう。しかし王子は相変わらず微笑をたたえたまま、「そんなことはないよ」と言った。

「君はとても素敵だし、踊りも個性的で素晴らしかったよ。もっと胸を張って良いと思う」

 思いがけない言葉に目を丸くする私を励ますように、王子は頷いた。

「華やかな人々に囲まれて育ったから気がついていないんだろうけれど、君は君が思う以上に美しいし、魅力的だよ」

「でも、今まで誰もそんなこと……」

「誰も見る目が無かったんだろう」

「でも……」

「ぼくは王子だよ。今まで美しいものをたくさん見てきた。それでも信じられない?」

 少々強引な論理を言ってのけた王子は、照れくさそうに視線を逸らす。その表情を見て、私は自分のことなど一気にどうでも良くなってしまったのだった。

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