ハナトラノオ
アドベントカレンダーの、最後の窓を開ける。ただそれだけのことなのに、一年も掛かってしまった。
「君の誕生日に向けて作ってみたんだ」
そう差し出された一ヶ月分のカレンダーは、手作りという言葉通り窓のサイズがバラバラで、ミシン目に沿って開けるのが大変だった。けれど、開ける毎に現れるあの子からのメッセージが嬉しくて、見た目なんて気にならなかった。
『今日も一日頑張ろう』
『体調管理しっかりね!』
『大吉! 絶好調!』
毎朝、そんな言葉に背中を押されながら家を出るのが楽しみだった。
『今日は君のバースデーイブ!』
最後から二つ目の窓を開けた日、あの子は突然いなくなってしまった。色々なことが整理できないまま迎えた誕生日の朝、私は最後の窓を開くことが出来なかった。あの子との全てをその中に置き去りにしたまま日々は過ぎ、いつの間にか次の誕生日がやって来ようとしていた。
私は壁にかけたアドベントカレンダーの、開きっぱなしだった窓をもう一度全て閉めた。そして、今年の誕生日に向け、また毎朝、開きだした。
『今日も一日頑張ろう』
『体調管理しっかりね』
『大吉! 絶好調!』
窓を開ける度、一つずつ、あの子との思い出が浮かんだ。あの子の声が聞こえた。笑顔が見えた。
そして、今日。一年前より軽くなった指先で、そっと最後の窓を開ける。
『誕生日おめでとう。ずっと大好きだよ』
暗かった部屋に、ぱっと日差しが差し込んだ気がした。
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