ムラサキシキブ

 知性を持った植物が庭に生えていた。

「そもそもだな。植物も生物であるからして、動物と変わりなく、ものを感じているのだ。それを動物たちは理解していない」

 紫色の実を風に揺らしながら、植物が講釈を垂れる。試しに実の一つを引きちぎってみると、植物は悲鳴を上げた。

「お前たちはそういうことを平気でする。実は落ちるべき時に落ちるべくして落ちるのだ。戯れに落とすものではない」

 もう一粒、ちぎって落とす。悲痛な声。

「動物の、そういうところが嫌いなのだ。野蛮で粗暴で下品で無知で」

 煩いので、手当たり次第にぶちぶちとちぎって落とすと、植物は絶え間なく苦痛の呻きを漏らした。最後の実を落としてしまうと、先ほどまでの偉ぶった態度とは打って変わって弱々しい嘆息を漏らした。

「ああ……」

 それが最後だった。

 本当に知性のある植物は、無闇矢鱈に動物に話しかけたりなどしない。私は紫色に染まった手を洗いに、家に帰った。

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