ペンタス

 天空の宮殿で、王女は大きなあくびをした。吐息は一陣の風になり、開いていた窓の向こうへ逃げて行った。王女は眠たげな目をぼんやりとそちらに向け、再び手の中のタブレットに目をやった。大きな画面に、表計算ソフトのデータがずらりと並んでいる。

「退屈だわぁ。どうして毎日毎日、下界の人間の願いを選り分けてやらなければいけないのかしら」

 細い指が画面をなぞると同時に、幾つかのデータに「受領」を意味するチェックが付く。

「天界の王族の、大切な使命でございますよ。もっと真面目にやってください」

 忙しそうに立ち働くお付きの天使に言われて、王女は肩をすくめた。

「雑用よ、こんなの」

「王族の目だけが、叶えるに値する望みを見分けられるのですから……そんなこと仰らないでください」

 そっけなく返し、天使は広い宮殿のどこかへ飛んで行ってしまった。

「つまんないの」

 またもや盛大にあくびをして、王女は表の末尾に『転職したい』と入力した。エンターキーをタップするのと同時に、その項目に大きなバツ印が浮かび上がる。ソフトの機能ではなく、彼女の生まれ持った目の機能だ。王女は暫くじっとその印を見つめて、やがて腹立たしげに、項目ごと削除した。

「ほんっと、つまんないの」

 頬を膨らませて、彼女は手近な星を蹴り上げた。

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