ステルンベルギア

 初めて会った時から、ずっと自分のものにしたかった。

 君が隣に引っ越してきた時、ぼくは小学六年生で、君は一年生。大人になってからならいざ知らず、子どもの頃の年齢差というのは大きい。来年には中学生になるということもあって、ぼくにとって低学年、それも入学したての子なんて、赤ん坊にも等しかった。

 それなのに。君がお母さんの後ろに隠れてぼくをじっと見上げる、その目を見た時に、どう説明しようもない感情が湧き上がったのを感じた。世の中の全ての悪意から君を遠ざけてやりたい。これから君の前に立ちはだかるであろう困難を、予め排除してしまいたい。世界中の美しいものだけが、君の視界に入るように……。

 ぼくは自分の持てる優しさの全て、良い部分の全てを君に捧げた。君以外の人間にはもう興味を持てなかった。純粋に、歳上の頼れるお兄ちゃんとして慕ってくれる君の、その笑顔がぼくだけに向くように仕向けた。

 そして、今。

 ぼくは大学四年生、君は高校二年生。もう、充分待ったんじゃないか。これまでだって何度もチャンスはあったけれど、まだ早い、君はまだ子どもなんだからと必死に抑えつけてきた。でも、もうお互いに分別のつく年頃だ。

 美しく育った君が、無邪気にぼくのベッドに寝転がる。小さな頃からそうしてきたように。他意のないあどけなさで、他愛もないお喋りを囀るその唇を、どうやって塞ごうか。

 そっと、後ろ手に部屋のドアを閉める。そろそろ君も、ぼくの様子が違うことに気づくだろう。でも、その時にはもう遅い。

 もういい加減、待ちきれないんだ。

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