カトレア
今世紀最強にして最大の魔術師と名高いカトレア様に、弟子入りの志願書を送り続けて早一年。しかしその甲斐も虚しく、未だに承知の報は無い。
そんな訳で、私はカトレア様のお住まいへ押しかけることにした。広い庭には下調べ通り、使い魔の竜がのし歩いている。恐ろしげな風貌で、口から炎を吐いている。だが、竜を制す呪文も、しっかり調べてある。私は竜の眼前を悠々と……通り過ぎることができなかった。
猛々しい咆哮とともに、顔がかっと熱くなる。竜の炎が鼻先をかすめたのだ、と気がついた時には既に遅く、身動き一つできない。カトレア様に弟子入りするどころか、ひと目お会いすることすら叶わないのか……。
そう観念した時だった。
「ストップ!」というソプラノが響き、竜は途端におとなしくなった。さっきまで荒く吹きかかってきた鼻息も収まった。恐る恐る顔を上げると、そこには苦々しい顔の、私より歳下に見える女の子が立っていた。
「カトレアはあんたには会わないよ。帰りな……」
「カトレア様!」
唐突に叫んだ私に、女の子、いやカトレア様は目を丸くした。
「あたしはカトレアじゃ……」
「竜を止められるのはカトレア様の他にはいらっしゃいません! そう古文書にも書いてありました」
「古文書って、アレは門外不出の筈。もしかしてあんた、何回も弟子入りを志願してきたカトレアオタクの……」
「はい! ちなみに、この竜が良く出来た偽物だということも、先ほど分かりました!」
カトレア様は肩を落としてため息をついた。
生まれつき魔力が殆ど無かったカトレア様は、それでも魔術師になりたかった。だから機械や自然に関する知識を使って代替魔術を行い、人目を忍ぶことで大魔術師と呼ばれるようになったのだ。
「弟子! そっちの溶液を加熱してくれ!」
「了解です、師匠!」
晴れて弟子入りを果たした私は、師匠から代替魔術とパフォーマンスの術を学んでいる。いつか私がそれを習得できたなら、その時は私に名を譲り、名実伴った「大魔術師カトレア」を創造するのだ、と師匠は言う。
「師匠はとっくに、名実ともに大魔術師ですよ!」
忙しく立ち働く背中に、そっと呟いた。
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