ヨルガオ

 この季節になると、夜でもうっすらと地上が明るくなる。月が生えてくるからだ。

 白く、淡い光を発しながら少しずつ地中から覗く月は、私たちの掌にすっぽり収まる大きさで、細い蔓で連なって生えてくる。空に浮かぶ月と同様の模様で、全容は綺麗な球形をしている。夜毎に地面から覗く面積が大きくなり、ちょうどひと月で、地面から完全に全ての部分が出る。

 ひと月目の晩には自ずと蔓が切れ、ゆっくりと空へ上っていく。無数の小さな月が浮かぶ様子は幻想的で、その日は郊外の畑へ多くの観光客が訪れる。畑でもそれを商機と、その日に合わせて簡単な出店を開く所が多い。私たちの晩夏は、輝く月々を眺めながら、かき氷や焼きそばなどを頬張った思い出で彩られるのだ。

 しかし、空へ上がった月がその後、どうなるのか知っている人間は少ない。大多数の人々は、風船のように萎んで海や山に落ちて土へ還るのだと漠然と信じているようだが、それは違う。

 月は、大気圏を離脱しても尚、成長し続けるのだ。もともと土の養分ではなく光を糧にして生きる植物だから、宇宙空間でも萎れることはない。驚くべきことに、彼らは空気も必要としない。だから、彼ら同士で衝突して数が減ることはあっても、養分不足で消えてしまうということは無いのだ。

 そうして長いことかけて成長しきった月は、流れ流れて別の銀河系へ漂着する。そこの太陽と良好な関係を築き、彼らはそこで本当の「月」になる、という話だ。

 しかし、だとすると、畑に生える月は、どこから来たのだろう。毎年、特に誰が種を撒いた訳でもないのに勝手に生えてくることを、私以外、疑問に思う者も無いようだ。

 農作業の合間に見上げる昼の月は、心なしか、日毎に大きくなっている気がした。

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