ソリダスター
近所に住むホシ君は博識で、植物や昆虫、天体や文学など様々なことを、小さな私に色々教えてくれた。私が成長して大学生になっても彼は変わらず博識で、自然科学の分野に進んだ私でさえ知らない専門知識を披露してくれることもあった。いつ訪ねても、膝の上に本を開いた姿勢で出迎えてくれ、随分古くさいタイプの眼鏡越しに、優しい視線をくれた。
私の初恋の相手は、多分、彼だったのだと思う。
大学院を卒業してから就職した研究所で出逢った人と結婚することに決めた時も、親より先に、ホシ君に報告した。彼はその時読んでいた占星術の本で私と相手との相性を占ってくれ、絶対幸せになれると太鼓判を押してくれた。
結婚して数年後、生まれる子どもの名付け親になってくれと頼んだ時も、ホシ君は快諾してくれた。響きの良い素敵な名前をつけられた娘は、今年、高校生になる。
「ママ、テスト近いからホシ君のとこに行ってくる」
「ママとパパでも教えてあげられるけど……でも、ホシ君の方が教えるの上手だもんね。仕方ないか」
そんな会話を親子で出来るのが、なんだか嬉しい。
私自身がホシ君を訪ねることは滅多に無くなったけれど、彼の情報なら、娘を通じて入ってくる。それによると彼は変わらず博識で、私が幼い頃から知っている姿のまま、いつでも本を読んでいるそうだ。昔は年上のお兄さんだった彼が、今では息子と言ってもおかしくないほど年下になってしまった。
永遠の少年である彼は、きっとこれからも森羅万象の知識を蓄えていくだろう。そして、彼を訪れるであろう私や娘のような人間の、良い相談役になるのだろう。
ちなみに、娘の初恋の相手も、彼だった。
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