ハギ

 ハギさんは見るからに大人しそうで、事実、とても口数が少ない。陽気な社長のもと、人と話すのが大好きな社員ばかりで構成されたうちの職場では逆に目立つくらいだし、営業職に就いているのが不思議な程に物静かだ。

 しかし実は、入れ替わりの早いこの会社で一番の古株であり、一番の稼ぎ頭が、彼女なのだ。ハギさんと組んだことのある人間なら、彼女の強みをよく知っているだろう。

 柔軟であること。それが、彼女の武器だ。

 難しい要求をされても決して無理ですと突っぱねることなく、会社の負担になることもしない。顧客のニーズと会社のキャパシティの、本当に中間、そこしか無いだろうというところを探し出すのが得意な人なのだ。

 そんな人だから社長の覚えもよく、実力を買われて、会社の方向性に関する相談まで受けているようだ。肩書きに変わりはないけれど、事実上の出世。今も社長室から、二人の話し声が漏れてきている。

「ハギ君、我が社がより良くなるためには、どうすべきかねえ」

 ハギさんの、静かながらハキハキした声が応える。

「そのためにはまず、社長が現役を退き、新しい風を入れるべきかと」

 ん? ちょっと柔軟すぎやしないか、と聞き耳を立てながら思っていると、彼女は続けて言った。

「次期社長は私が引き受けます。安心してお任せください」

 柔軟どころではなかった。

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