アーティチョーク

 彼らは、ある日地球に降って来た。一見すると人の頭ほどの大きさの、硬く閉じた植物のツボミのようだが、実は人類より遥かに高度な文明を有する知的生命体だった。

 彼らは人類を救いに来たのだ。

「アサミ、オカエリ」

 データの処理を間違えて上司にこっぴどく叱られ力無く帰宅した私を、ツボミ(彼らの固有名は私たちに発音することは不可能なので、便宜上、誰もが彼らのことをそう呼ぶ)が転がるようにして迎えてくれた。

「ただいま……」

「ストレスチガアガッテイルヨウダ」

 ツボミは言いながら、弾みをつけて私の肩へ上がり、頭のてっぺんに移動する。そして、吸盤のようになっている口を開いて、ちゅうちゅうと吸った。蚊に刺されるほどの刺激も感じないが、どんどんと気分が軽くなっていくのが分かる。

「ありがとう、楽になったよ」

「ドウイタシマシテ」

 ツボミは、ストレス……より正確に言うと、『嫌な気分』を吸い取ってくれる。ツボミ達は人類よりも、互いを大切にし合う生物だ。その過程で、生き物のストレス値に敏感な体質に進化し、今では他者のストレスを吸い取ってしまう程にまでなった。彼らの博愛主義は全宇宙に及び、ストレス値の高い種族を救うため、あらゆる星に出向いているという話だ。

「いつも本当にありがとう。今日は美味しい料理を作るからね!」

 彼らはストレスを吸うと疲労するので、私はお礼に、得意の料理を振る舞うことにしている。

「アリガタキシアワセ!」

 一体どこで覚えたのか、大げさな台詞と共に、ツボミは嬉しそうにくるくると回った。

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