サギソウ

 毎晩、夢に女が出る。真っ白い着物を着て、綺麗な顔をしているが、生気がない。わたしが毎日職場へ向かう途中の、寺の傍からすっと現れて、何するでもなく俯いて佇んでいる。先週はそれだけの夢だった。

 それが今週に入ると、歩いているわたしを引き留めるような素振りをするようになった。別に怖くはない。ただなんとなく憐れをもよおす目つきと仕草で、無言のまま、わたしの心を惹きつける。何かしてやらねば、という気持ちになる。だが、どうすべきか分からぬまま、目が覚める。

 夢の外の世界で、寺の改築が始まったのを知った。朝から重機が動いて、古びた離れを取り壊している。なんとなく夢の中の女のことを思い出し、焦るような気になった。仕事が終わると早足で寺へと向かった。

 今日の工事は終わったらしく、重機が置き去りにされていた。離れは外壁を崩され、古風な和室が夕陽に照らされていた。

 そのすぐ近くの草叢に、白く品のある花がひっそりと咲いていた。このままにしておいては、きっと重機に踏み潰されてしまうだろう。その白さが夢の女を思い出させて、放っておけなくなった。わたしは寺の住職に話して道具を借り、花を離れた場所に植え替えてやった。

 その夜、女はそれまでの生気のなさが嘘だったかのように喜色をたたえ、にっこりと微笑んでお辞儀をし、去って行った。

 それからはもう、夢に出ない。

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