サンスベリア

「不滅の命を持っていると言う虎の尾を取って参れ」

 帝の言は絶対です。そんな虎いませんよ、などとうっかり漏らそうものなら、最後まで言わぬ間に首が飛びます。私たちは仕方なく長い旅に出ました。

 不滅の命を持つ虎は、未開の地を城とし、一歩でも踏み入れた輩に容赦なく炎を吐き燃やし尽くすと聞きます。私たちは一年かけてたどり着いた未開の地の一歩手前から、様子を窺いました。

 果たして、虎はいました。炎を吐いてはいませんが、悠然と大地を踏み締めて闊歩する様は正に王者。そしてその尾と言えば……と、そこで私たちははたと動きを止めました。そこには、あるべき長い尾が見当たりません。

 狼狽する一同のどよめきに、虎が一足飛びで距離を縮め、眼前に現れました。焼かれることを予期して身を縮めた私たちに、虎はただ静かに口を開きました。

「何用か」

「お、お、おおお、お、をいただきたいので……」

 震える口で誰かが言いました。

「お? ああ、尾か。いやすまんな、あれはもう他の者にやってしまった」

 虎は気さくに「非常に腹を空かせていて気の毒だったものでな」と続けます。私たちは呆気に取られ、次いで恐慌状態に陥りました。虎に殺されないとしても、このままでは帝に殺される。

 しかし聡い虎はすぐに事情を察し、知恵を授けてくれました。私たちはそのお陰で命拾いをし、そのお陰で、この国には虎の尾と呼ばれる、生命力に溢れた植物が生い茂るようになったのです。

 土に差すと増える植物を、帝は神秘の尾だとありがたがり、毎日ご機嫌でいらっしゃいます。

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