アサガオ
就活から帰ってきた彼が、エプロンを付けようとしている私を見て、「料理ならおれがするよ」と言う。
「良いよ良いよ、ケンちゃんは面接と筆記で疲れてるでしょ」
「でも最近、家事任せきりじゃん……悪いよ」
それでも気にしないでと言い張って、私はさっさと準備に入る。家事なんて私に任せれば良いのだ。
「今日の感触はどうだったの?」
「うん……あまり。やっぱり長いこと定職に就いてなかったから」
「でもケンちゃんのは、夢を追ってたからじゃん。何も悪くないよ」
鶏肉の焼ける音にまじって、彼が「そうは言ってもさ」と言うのが聞こえた。
「ケンちゃんのことを理解してくれない会社なんて、入る必要無いよ」
私の言葉に、彼は少し小さくなった声で、同じ言葉を繰り返す。沈黙が続き、私の包丁とフライパンの立てる音だけが響いた。暫くして調理を終え、二人で食卓を囲む。
「悪いと思ってるんだ。ずっと何もかも任せてしまって」
俯いた彼の表情は、真剣だ。そういうところも好きだと思う。
「何も悪いことなんてないよ。……ねえ、無理して働く必要無いよ。私がこれからも二人分稼ぐから。男が働いて女が家にいるなんて、古い古い。古いの、ケンちゃんも嫌いでしょ」
ケンちゃんは黙ってしまう。
でも、私は知っている。彼の心の根は弱い。そういうところも好きなんだ。もっともっと、揺らげば良い。私に全て任せて、私無しでは生きていけなくなれば良い。そうしたら、本当にあなたは私のものになる。
「……そうは言ってもさ」
ぽつりと呟いた声の震えを隠すように、彼は野菜炒めを口に運んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます