バラ

 彼女には不思議な癖があった。気に入ったものには印をつけてしまうのだ。薔薇をかたどった印は、時には刺繍であり、時にはハンコであった。また別の時にはシールだったことも、彼女自身の手に成る精緻なデッサンだったこともある。

「薔薇は愛情を示すということを知った時から、ずっとこうしてきたの」

 彼女はそう言いながら、私の指に嵌る細い指輪を撫で、薔薇の花弁の形をした飾り石を愛おしそうに眺めた。


 目覚めると、背中に鈍い痛みが走った。

 隣で微笑む彼女の顔を見ながら、昨晩の記憶が無いことに気がつく。

「私の愛情は、指輪じゃ足りないもの」

 鏡に映った自分の背中を見ながらその言葉を聞いて、私は彼女の愛情の深さを思い知った。

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