ペチュニア

「ツクバネさんと一緒にいると、なんかホッとするんだよね」

 夏の日差しが差し込むカフェで、斜め向かいに座った同僚が言う。すると、その隣の同僚も大きく頷いた。

「あ、分かる分かる。癒し系だよね」

「あはは……ありがとうございます」

 軽く頭を下げ、唇を噛む。腹に溜まりそうなものを吐息とともに逃し、また頭を上げる。

「いつも親身になって相談に乗ってくれるし、ほんと助かるよ」

「私も、深夜に泣きながら電話したことあったっけ……いつもありがとね、ツクバネさん」

 そんなの、同僚として当たり前ですよ……と私は笑う。

「そう言えばツクバネさんに借りっぱなしになってる服もあったよね、今度返すから! 本当ごめんね」

「いえいえ、そんなに着ないので気にしないでください……」

 和やかな談笑の中、私はテーブルの下で拳を握りしめた。

 午後の仕事を片付けて帰宅し、カーテンを閉めようとした時だった。窓の向こうに、しまい忘れていた小さな鉢があったことに気がついた。夕闇の中、薄桃色の小さな花々が震えている。

 私はそれを室内に戻し、カーテンを閉めた。机に置き、白白とした明かりに照らされた花を眺めた。腹に溜めずに吐き出した筈のものが私の喉を鳴らして飛び出してくるのをぼんやりと感じながら、一つも残らないように丹念に、それをむしり続けた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る